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石川直宏が語る「ヴェルディだけには負けられない」想い【東京ダービー連動企画】

 

J1とJ3で二日間に渡った引退試合での多くの横断幕は壮観だった。

 前回対戦した2011年10月30日のJ2第33節以来、じつに11年8カ月12日ぶりとなる“東京ダービー”、FC東京(以下「東京」)と東京ヴェルディ(以下「ヴェルディ」)の対戦が2023年7月12日に天皇杯3回戦の1カードとして実現する。

 ヴェルディ戦を経験したことがある東京の現役選手は長友佑都と森重真人のふたりだけ。干支が一回りしているので当然といえば当然だが、かつての“ダービー”を知る者は著しく減っているという現状がある。

 そこで、ここでは東京にとってのヴェルディ戦がなんだったかを思い起こし、ファンはもちろん、スタッフや選手に至るまで東京の人々にあらためて“ダービー”とは何かを知らせ、何が東京を東京たらしめているかを少しでも考えてもらうべく、石川直宏クラブコミュニケーター(以下「石川CC」)にヴェルディ戦の記憶を掘り返してもらった。

 はたしてダービーとはなんなのか。ダービーを知る者はどのように振る舞い、その日を迎えるべきなのか。東京を愛する元18番が語りだす。

◆マリノス時代にも「緑のチームには負けるな」と

──この記事と同時にヴェルディスクールSDGs部に在籍している柳沢将之氏の記事も掲載される。柳沢さんはどんな方か。現役時代の印象は。

石川CC 最近お会いしたのは昨年末のインクルーシブフットボール(Inclusive Football)。これは障がい者サッカーについてのイベント(JIFFインクルーシブフットボールフェスタ2022)で、東京都のサッカークラブ、フットサルクラブ、女子サッカークラブの指導者が集まったときに、久しぶりにお会いしました。
 現役時代の柳沢さんはサイドバックをやっていたので対面で対戦することもありましたし、ヴェルディの派手さにあっていい意味で地味で、黙々とプレーするという印象は強くありましたね。

──人となりは。

石川CC めっちゃ真面目ですけど、インクルーシブフットボールフェスタで会ったときは子どもたちに明るく接していて、それがいい意味で意外でした。試合中は言葉を発さず寡黙なタイプだったので。人のために汗をかける性分だったと思います。

──小さいけど馬力がある、豆タンクのようなサイドバックだったという記憶がある。

石川CC そうです、まさにそんな感じです。背は高くないけれど身体ががっしりしていて、ハードワークするプレースタイルでした。

──2週間後に天皇杯でヴェルディとの対戦があり、じつに12年ぶりのダービーマッチとなるが、現役時代は対戦が近づくにつれ、どういう雰囲気になっていたのか。

石川CC 個人的にはマリノスのアカデミー、特にユースで樋口靖洋さんが監督をされていたときに「緑のチームに負けるな」と(笑)、絶対に負けちゃだめだと言われていたので、個人的には緑に対しての想いは強かったんですよ。で、2002年に自分が(FC東京に)移籍後、初戦のナビスコカップ第1節で清水エスパルスと駒沢で対戦して(※4/27)、ワールドカップの中断前にもう1試合第2節でヴェルディとの試合があったんですけど(※ネーミングライツで味の素スタジアムになる前の東京スタジアム、4/30)それがたぶん初めての対戦だったんですよね。
 あの頃は相手チームのことよりも自分のことしか考えられなかったので対戦相手を意識することはあまりなかったんですけど、味スタなのにアウエー側のロッカーに入るのに違和感がありました。ゴール裏も位置が反対でしたし。試合に向けては、自分たちよりはサポーターの方たちが「絶対負けられないでしょ」と気合いを入れていて、選手以上の熱の入りようで、それを選手が感じてぼくらがピッチに入ったという。

──マリノスアカデミー時代の対ヴェルディはどういう意識だったのか。

石川CC 樋口さんはヴェルディとの対戦では特に球際について強く言っていた記憶があります。今回の天皇杯でのヴェルディ戦もたぶん、戦術云々もそうですけど、眼の前のバトルに負けないとかそういう雰囲気をサポーターがつくってくれると思いますし要所要所にそういうものがあって、結果に結びつくというように思っています。

──首位攻防戦、残留争い、年に2回くらいしかやらない新国立での試合、監督交代初戦などのように、いやでも士気が上がる特別な一戦か。

石川CC まさにそのとおりだと思います。降格、昇格、タイトル、いろいろなものがかかるいろいろな試合を経験してきましたけど、やっぱりちがいますね。順位とか状態とかお互いに関係なく眼の前の1対1に競り負けないというところからそれが積もり積もって結果につながる、あの1試合の重みというか特別感は確かに感じてはいましたね。

ゴール裏に向かって引退を報告。現役時代からサポーターとの距離が近かった。

──クラブとしても緑のものを置かないようにするとか、公式には東京ダービーとはあえて呼ばないとか、意識するところはあるようだが、他の関係者がどうダービーを意識しているか、見えてくるものはあるか。

石川CC 正直言って、その温度感でヴェルディ戦でプレーする、その試合に立ち会うという人物はたぶん、本当に一握りだと思うんですよね。サポーターは昔から知っているのでその熱量を「しっかりと伝えてほしい」とは、先日、サポーターの方に言われましたし、自分でもそう感じています。
 この間スポーツボランティアの方々とバーベキューをしたんですけどそこに(東京の)運営だったり、ぼくだったりが行ったときに、イベント部の部長の五十嵐聡さんも参加されていて、スポボラの方がヴェルディ戦に対する想いを熱く語ったら「そうなんですね!」と言って、すごく驚いていて。スポボラの方を含むファン、サポーター、それに運営の人々にとっても特別な試合なので、そういう温度感というものをぼくはしっかりと伝えたい。
 森重(真人)にしても長友(佑都)にしても彼らはピッチレベルで伝えることも出来るし、チームのほうにはそういう経験を落とし込んでくれる。だから、ぼくとしてはビジネスサイドにヴェルディとの試合のなんたるかを落とし込みたい。サポーターの方も言っていたんですけど、昔であれば育成の選手たちがゴール裏でいっしょになって応援する機会があって、吉本(一謙)はそういう経験をしてきましたけど、いまの育成の子たちにもその熱量を伝えたくて、いっしょになって戦ってほしいから、ゴール裏のところに来てくれないかという相談を受けたりもしました。その温度をみんなが感じて、一体感を表現する機会だと思うんですよ。天皇杯なので一発勝負ですし、リーグ戦とはちがう“負けられなさ”があるのだと思います。

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