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【コラム】権田修一の視点 ベストの選択(2012/10/17)

東京のサッカーとは何か?

鹿島アントラーズと清水エスパルスに二戦つづけて大敗し、あらためてFC東京のサッカーが問われている。

なんのためにサッカーのやり方を決めるのか。いくつかの目的があるだろう。点を獲るため。点を獲られないため。時間を使うため。いちばんいいやり方で愉しむため。
猛烈なプレッシングが機能して無失点に抑えることができ、そこからの速攻で点が獲れたとしても、10分で体力が尽きてしまうのであれば、残りの80分間で逆転されてしまうだろう。
つまり万能の戦い方などというものはない。90分を通して賢い判断をしつづけなければならない。そこがサッカーの難しいところだ。

それでも、コンセプトは決めないといけない。方向性を定めなければチームをつくれないからだ。
昨年、J2で得点手段を見出だせなくなった東京は、ポゼッションを徹底することにした。自分たちが走るのではなくボールが動く分には疲れないうえ、ボールを追う相手を消耗させることができる。つまり90分を使うという意味ではすごく有効な戦術だった。
そのうえ、東京の選手たちにはテクニックがある。パス本数も成功率も、2位の京都サンガF.C.を大きく引き離していた。J2のなかでは傑出した技術を持ち、パスを失敗する確率が低いのなら、相手の守備をおそれずに前へ運んでいくためにボール支配を徹底することは、効率のいい手段になる。

ホームでの対湘南ベルマーレ戦で見せた東京のサッカー。それは田邉草民がディフェンスラインからボランチラインを経て中盤までボールをキープし、同様にキープ力のある梶山陽平に渡し、中盤でヨコパスを廻しているうちに、タイミングを見てタテパスを入れ、フィニッシュをする、という、力の差を活かして徹底的につなぎたおすというものだった。
その後、ただ戻すのではなく、場合によってはやり直してもいいという意見が羽生直剛から出たことでもわかるように、相手の対策に応じてマイナーチェンジが進み、天皇杯では大熊清前監督が言う「本質」の部分とパスサッカー、組織的なプレッシング、ランとドリブルが噛みあい、タテとヨコ、速攻と遅攻のバランスが黄金比とでも言うべき完成度に到達、タイトルをもぎ取った。
石川直宏が一番槍で相手の布陣を歪めさせるところから入ってもいいし、パスを廻しながら圧力をかけてもいい。

果たしていまのチームにそうしたところは残っているのだろうか。これは微妙なところだ。新しいサッカーに取り組むうちに、置き忘れたものがあったかもしれない。

柔軟にできないのであれば、一本調子のやり方を徹底したほうが強い。それは過去、速効型であったときの東京の強みが証明しているし、ポゼッションに取り組み一歩進んで二歩下がったときの東京の弱さが証明している。
いままた、柔軟な試合ができない志半ばの段階で敗戦がつづき、停滞感が生じている。もちろんこれはランコ ポポヴィッチ監督が言うように、成長のために乗り越えなければいけない苦しみなのだが、炭鉱内を照らすカンテラなしに先へ進めというのも酷な話だ。
苦しい路を進む一助とするためにも、基本を確認しておいたほうがいいだろう。

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