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無料記事 【コラム】権田修一の視点 風間フロンターレの個人戦術(2012/09/20)

止める、蹴るの重要性

ネマに語りかける権田

最後の、ひとつのプレーが失点に直結するゴールキーパーにとって、チーム戦術とともに個人戦術は大きな関心事だ。

間近に迫った川崎フロンターレとの「第20回多摩川クラシコ」についての質問をしていると、権田修一の口からこぼれたのは「相手の監督が替わっているところに興味があります」だった(19日の囲み取材より。以下同)。相馬直樹前監督から風間八宏現監督へ。カラーが変わったという以上に、風間監督の思想があまりに独特であることが権田の気を強く惹きつけていることはまちがいない。あの思想は川崎の監督に就任する前から、異端だった。

サロン談義とはたいていの場合、ボールを奪う位置やラインの高さ、長いボールを蹴るかつなぐか、ゾーンかマンツーマンか、フォワードからディフェンダーまでの距離、フォーメーションなどの要素をもとにチーム戦術を語るものになりがちだ。
ところが風間八宏がサッカーについて語ることと言えば、止めること、運ぶこと、蹴ることといった個人単位のものがほとんどだ。

だからこそそれがJ1の舞台で、フルコートで戦ったときに、どうチーム戦術に拡大されるのか、具体的にどのようなサッカーとして表現されるのかが注目されていた。そして概ね、事前の予想どおり、フルコートでのランニングや対J1レベルの球際の激しさに、個人の基礎技術が埋まったような光景が見受けられ、スコアが動き、大量得点/大量失点の試合が生まれている。

ふつう、プレッシャーをかけると言えば、守備側がプレッシングで相手ボールホルダーからボールを奪う行為を指す。ところが風間監督は、ボールを保持することが相手ディフェンダーに圧力をかけることになる、と言う。どこまでもボール保持者優位の発想で、サッカーはボールを持つ者のものだ、ということになる。

「ボールコントロールは次の部屋に入る鍵である」。デットマール・クラマーのこの名言は、ゴールデンエイジの頃に基礎技術を徹底させ、パーフェクトスキルを獲得させることで、本来想定すべきスタートラインに立てるという、現代育成の考えとまったく同じだ。

先日、「ジュニアサッカーを応援しよう!」vol.26(発行:カンゼン)掲載記事のために吉武博文U-16日本代表監督にインタビューをした。その際に吉武監督が言っていたのは、サッカーは止める、蹴るだけではないのに、その壁を越えられていない(拙稿P.052~053)、ということだった。

同様のことは権田も口にしていた。
「止める、蹴るがうまい選手がいい選手だと思います。しかし、Jリーグではそういうところをごまかしている選手が多い」
個々の選手の、基礎の改善、あるいは進歩が、川崎のチーム力を増しているのではないかと権田はにらんでいるようだ。
「個人戦術を追求している特色がある。その風間さんのサッカーをぶれずにやりとおすことができているチーム。難しい相手になる」
「誰がというのでなく、選手一人ひとりが風間さんになってから、ボールの受け方、止め方、相手の逆をとるところを突き詰めてレベルアップしている気がする」

小平グランドでの19日の練習に於いて、特になぜという根拠なしに、浮き球のパスを送る場面があった。しかし川崎にはそうしたプレーがない。相手の止めやすいところがそこだからなどと、意思を持ってパスを出している様子がうかがえるのだと、権田は言う。
「去年までの、あるいは前回の対戦までのフロンターレとちがって、止める部分への考えが深まっている、あるいは“こうしたい”という部分が高度になっている」
「最後にゴールキーパーと1対1になったときに、いいところに置かれたらキーパーとしては嫌ですよね。その意味でフロンターレとの対戦が楽しみです」

8月18日のJ1第22節を思い出してみよう。あの日、FC東京は味の素スタジアムで大宮アルディージャに0-1のスコアで敗れた。
ゴールを決めたのはノヴァコヴィッチだった。複数のディフェンダーが寄せながらコースを消すことができず、ノヴァコヴィッチにシュートを撃たれた。その決断に権田は対応できず、失点した。ほんの一瞬だけ空いたシュートコースに迷わず蹴る判断と、正確にゴールの隅を衝く技術の合わせ技=スキルに敗れたのだ。

最後はディテールが勝敗を分ける。ゴールキーパーはそこに敏感にならざるをえない。ならばなおのこと、風間フロンターレへの警戒の強さに納得がいく。

川崎フロンターレはもともと手強いチームだ。そしてその川崎のどこに、なにに脅威を感じるか。いくつもポイントはあるだろうが、個人戦術、サッカーそのものの捉え方の変化によって、川崎の選手たちが進歩している点が気になるという権田の指摘は、ポイントのひとつとして的を射ていると思う。

ネームヴァリューも、格も、肉体的なスペックも関係ない。サッカー選手としての中身が個々に磨かれ、外見からは計り知れないパワーアップを果たしている可能性がある。

舐めてかかってはいけない。もちろんリスペクトしすぎてもいけない。ただ、相手がしっかりとした考えのもとにボールを止め、蹴る生き物であるということは、頭に入れておくべきだろう。

 

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