「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

山口慶強化部長が語る2023シーズン総括。見込みや落とし込みの不備、選手の自信や熱量、新監督への期待。【1万2千字ロングインタビュー】(23.12.2)

11月27日、山口慶強化部長(兼スポーツダイレクター)を直撃し、2023シーズン総括と来季への展望を聞いた。時崎体制1年目の課題と収穫を受け、こうしたいという狙いはあったが、うまく表現できないまま進んだ2023シーズンだった。この結果をどう受け止め、来季に生かすのか。インタビューは1時間超、1万字超の文字に全貌をまとめたのでお届けしたい。

(インタビュー日時は11月27日)

 

▼2023シーズンの最初の反省点

――昨季の時崎体制1年目の振り返りとして、昨年12月のサポーターカンファレンスで山口慶強化部長が強調されていたのは「プレスの位置が低い」「ショートカウンターが減った」「奪いどころが明確ではなかった」ということでした。これを受けて今季の時崎体制2年目に向かっていったわけですが、選手は継続をベースにしつつも、谷内田哲平選手(現京都)らの主となる選手が数名抜けてしまったシーズンでした。そうして迎えた今季はどうだったのか。先日(11月25日)開催されたサポーターカンファレンスで振り返られていましたが、そこでも同じように「プレスの位置が低い」「ショートカウンターの回数が減ってしまった」という課題を挙げていましたが、時崎体制1年目の課題を改善したいと思っていたのに改善できなかったことについて、どういう受け止めをしているのか、そこが知りたいです。「プレス」を機能させることは栃木SCの生命線なんじゃないかと思っています。

山口強化部長(以下、山口) おっしゃったように、去年出てきた課題を今年は改善したかったというシーズンでした。その前段階として、今年2月のインタビューでお話したとおり、我々にはそもそものチーム作りについての考え方があります。それはクラブと共有していることですが、このクラブは結果を出すために選手を育てていく必要があるということです。過去を遡れば、かつての栃木SCは後ろに引いて、カウンターに行けるか、行けないか、というアクションが主だったと思いますが、それが田坂和昭前監督と選手たちによって前へのパワー感が出てきたと思います。ただ、それだけでは足りないと思って昨季、時崎悠監督を招聘しました。田坂監督時代よりももっと攻撃に厚みを出したい、攻撃回数を増やしたい、よりパワフル、アグレッシブにやりたい、という思いで挑んだのが昨季でした。昨季を通して良くなっていた部分をさらに伸ばし、課題になっていた部分を改善できれば、今季は得点力が増していき、より栃木らしさが出てきて、選手たちの成長も見られ、結果を出せるのではないか、と思いながら今年が始まりました。ただ、いざ始まってみたときに、これは僕のなかでうまくいかなかったという反省点になりますが、色々な見込みが甘かったと思っています。

――見込みが甘かった。

山口 はい。一つは選手のところです。チームの色としてなるべく継続性を出したいと思い、継続していただいた選手も多かったと思いますが、レギュラー組だった谷内田哲平(現京都)、鈴木海音(現磐田)、カルロス・グティエレス(現長崎)の3選手が退団しました。この抜けたポイントを補うべく選手を獲得しましたが、正直にいえば、最初から噛み合ったかといえば噛み合わなかったと思います。よりパワフルに前から行きたかったですが、行けませんでした。開幕時期はケガ人もかなり出ていましたし、計算に入れていた選手のコンディションが全然上がってこないこともありました。加えて、キャンプが思ったようにハマらなかったと思います。

――キャンプのトレーニングがハマらなかった?

山口 初めての会場だったこともあり、わからないことも多かったというのはあります。今年はチームのコーチングスタッフも変わっていたこともあり、不確定になる要素がたくさんあった、ということは今振り返ってみたときの反省点です。そのときは絶対に良くなると思いながらやっていましたが、チームに新たな選手たちが入ってきて、実際に何を課題にしながら何をトレーニングしていくのか、という観点において、これは僕も反省しているところですが、どうメニューをプラン立てて、いかにトレーニングをしていくのか、何を強化していくのか、という部分について詰め切れていなかったと思います。そもそも昨季からの「継続」を踏まえた2年目だったので、1年目にすでにやったことに対して、できるだろう、という考えもあり、細部まで詰め切れていなかったのが一つの反省点です。

 

▼詰め切れなかったトレーニングの細部

――トレーニングのメニューの何が詰め切れていなかったのですか?

山口 トレーニングのメニューや向かっていくべき方向性です。去年は最後のほうにある程度やれていたことがあり、継続して残ってくれた選手たちには自信も出てきていました。選手たち自身も「もっとやれるよね」「もっとよくなっていけるよね」という感覚があったと思いますが、2年目を迎えるにあたり、やろうとする方向性、1年目にできたところから進化させる部分について、その細部が詰め切れていなかったと思います。新しいコーチ陣がやって来て、そのスタッフたちが持つ新たな感性も入れてほしいという思いは僕のなかにありました。非常に抽象的なので何を言っているかわからないかもしれませんが。

――詰め切れなかったということですが、どの辺りに現象として見えていたんですか?

山口 去年のチームが露呈した課題があったわけですが、それは主にプレスの話だったと思うんです。

――もっと前から行くときは行く、そこにパワーやスピード感をつける。

山口 そうです。実際、去年のチームが良かったときは前でボールを奪えていたんです。前で奪えて、ショートカウンターからゴールを奪えたり、リスタートからゴールを奪えたりしていました。それを継続しながらさらに伸ばす、ということが今季、本来やっていかないといけないことだと思っていたのですが、シーズン当初はそこが疎かになってしまったと思います。若干、コーチングスタッフ陣の目線が合っていなかったと思います。ただ、これは結果論ですが、僕自身には改善してもらえるだろうという見込みはありました。というのも、キャンプのときにチームが何をしていたかといえば、どちらかといえば攻撃の部分をやっていたんです。

――キャンプのトレーニングのメニューは覚えています。ボールを後ろで動かすことをやっていました。そこに力点を置いているメニューが結構あって、後ろに入った平松航選手、高嶋修也選手といったルーキーたちがうまく表現できずにコーチ陣から指摘されている光景がありました。それを見たときに、時崎体制1年目の課題に挙げられていた「プレスの質」については、言わなくとも、トレーニングであまりやらなくとも、ある程度はできる、という見込みがあるんだろうと僕も感じていました。

山口 そうです。そういう状況がありましたが、そこは僕自身が容認し過ぎてしまったという反省はあります。といっても、僕が全部を決めるわけではないし、やりたいことは監督が決めればいいと思っているんです。コーチングスタッフと話をしながら、選手と新シーズンに向けて、自分たちの課題、そこにプラスαを加えながらトレーニングを進めていきたいという気持ちはわかります。ただ、見守り過ぎたというのは今振り返ったときの僕自身の反省です。結果論ですが。

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