「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

山口慶強化部長が語るチーム編成、目指す先「上に行きたい意欲が強いとか、現状から脱却したいとか、何かを持っている選手たちと一緒にやっていきたい」【9千字超ロングインタビュー】(23.3.25)

当初はチームの補強戦略について総論から各論を隅々聞こうと思っていたが、話はもっと大きく、広い視点の話になった。ただ、これも価値のあるインタビューに思える。実施したのは開幕前、時之栖キャンプの最終盤。開幕する前、あるいは、チームが1勝してから掲載しようとしたところ、なかなか記事を出せずに時間が過ぎてしまったことをお詫びします。50分弱のインタビューについてほぼノーカットでお伝えしたい。

(インタビュー日時は22日、時之栖キャンプにて)

 

 

▼良い人材を輩出するために

――今年のオフはチーム補強において「継続」、そして個々が成長することに重きが置かれた印象です。その点についてうかがいたいのですが、去年のチームの戦いぶりについて山口強化部長はどうご覧になったのでしょう。

「僕がチーム強化に関わるようになってから去年が4年目でしたが、まず新たな監督(時崎悠監督)を迎えるにあたり、栃木というクラブをより良くしていきたいという思いから監督に来ていただきました。そこで何をやろうとしたのか。このクラブの目的として、良い人材を輩出していきたいという強い思いがあります。そして競技を通じて、アカデミーからトップチームまで一貫したものを作り上げるべく、監督にも選手たちにも来てもらったということです」

――まずは大きなビジョンとしてそれがあるわけですね。

「そうですね。チームとして去年のパフォーマンスを見たときに、良かったところもありました。レンタルの選手たちが多数在籍する構成ではありましたが、よくできている部分はたくさんありました。しかし、結果は出なかったシーズンだと思います」

――できた部分というのはどの辺りですか?

「まず、クラブとして変わっていきたいと思っていました。この栃木SCという組織がサッカー全体のために、この街のために、しっかりとやっていきたい。大前提といえる思いがあるなか、選手たちがピッチ上で連動しながら、プレーで魅せる、トライする、成長する、それらが見えたことは良かったと思います。例えば、僕が最初に栃木SCに関わったシーズン(2019年)はそういう感じはなく、何となくサッカー選手としてやっているだけ、という印象を受けていました。成長意欲、うまくなりたいという思い、それらが足りない印象でしたが、それが近年は特に変わっていくのが目に見えたと思います」

――それはどの辺りに見えたのでしょう。

「日々の練習の取り組み、姿勢が変わったと思います。成長したいという思いが目に見えたし、変わってきたと思います」

――どの辺りに違いが見えますか?

「準備の仕方もそうだし、練習に取り組む姿勢が貪欲でした。貪欲になり切れていないところもありますが、経験がある選手たちにも『現状を何とかしたい』という前向きな気持ちが日々の取り組みに見えていました。何度も言いますが、それが結果には繋がっていなかったわけですが」

――山口強化部長が彼らに働きかけたことでそうなっていったのですか?

「いやいやいや。もちろん、僕たち強化部が話すこともありますが、講師に来ていただき、講義などを通して働きかけるときもあります。それよりも一番は監督、コーチ陣が選手たちによく働きかけてきたと思います。歴史的にいえば、塩田仁史(現浦和GKアシスタントコーチ)さんがいたり、明本考浩(現浦和)のような貪欲な選手がいたり、髙杉(亮太、現栃木SC強化部)がいたり、矢野貴章のように多くを語らずとも彼自身がまだまだうまくなりたいという気持ちがあり、周りに良い影響を与えていたり、その意味で、色んな感性が集まってきたと思っています」

――そういう選手をピックアップしていった結果、グループから集団になっていったと。

「これが良いか・悪いかはまだわからないですが、なるべくそういう選手を獲得したいと思っています。能力がそこまで高くなくても、上に行きたい意欲が強いとか、現状から脱却したいとか、何かを持っている選手たちと一緒にやっていきたい。もちろん、我々の世界は結果も出さないといけない世界なので当然それも大事にしますが、その前段階として、いい組織でありたい。そこは外せないと思っています」

▼成長意欲があるグループに

――それはどこから来る発想ですか? 山口強化部長が現役のときに過ごした名古屋時代などから来るものですか?

「いやいや、クラブそれぞれの規模的なことが大きく関係していると思います。僕が所属した名古屋や千葉は結果を強く求められるチームだったし、選手たちは結果を出すことで翌年の契約を勝ち取ること、自分の目標を達成するために必死でした。うちも結果は出さないといけませんが、クラブとしてまだまだなところが多い。その現状をどうにかすることが、クラブの未来を作るために必要だと思っているんです。結果だけを出すならば、お金が必要でしょうし、環境も用意しなければならないでしょう。いい人材に来てもらうために必ず必要な要素だと思っています。でも、我々はまだまだその段階に到達していないことを踏まえると、ここから踏ん張ってやっていくマインドがないと難しいと思っています」

――そのマインドを持つ集合体を作ることに着手し、昨季はその色が少し見えたシーズンだったと。

「そうです。新しいことにチャレンジしたいと思っている選手が多かったと思います。でも、何度もいいますが、結果には現れなかった。うちのチームはまだまだ認知がありません。栃木という地域内でもまだまだ認知されていない。街中を歩いていてもわかってもらえないし、栃木SCがまだまだ知られていない。その現状を何とか変えていきたい。そのためには結果も出さないといけないし、何とかできないか、という思いで動いているということです」

――かなり大きな視点で動いているということですね。

「大きいかどうかわからないですが、このクラブを何とかしないと、という思いで自分自身は動いているということですね」

――それは栃木に来た最初からそう思っているということですか?

「そうですね。良くなる要素しかないと思っているんです。でもなかなか進まない」

――何が一番難しいのでしょう。

「難しいのは、競技とクラブ運営は別物だと思っていて、でもいつか合体するのですが、競技ももちろん良くしていかないといけないし、クラブも良くしていかないといけない。競技面では見て、喜んでもらえるサッカーもしていかないといけない。楽しいとか、清々しいとか、そういうものを栃木SCと一緒に作り上げていく。あとは、同時にクラブのイメージも上げていかないといけない。競技とクラブは別物で、いい選手、いい若い選手たちが来たいと思ってもらえるところから始まっています。あそこに行けば選手が育つ、あそこに行けばプレー面のみならず人として大きくなれる。ヤンチャな子でもいいんです。自分の思いがあり、行動に移せる。そういう選手たちと一緒にやっていきたいんです。橋本大輔社長と話をしていていればわかると思いますが、このクラブのフィロソフィーを前に進めていきたい。マインドもそうだし、プレーもそうだし、それを表現していきたい。そういう思いがあるなかで、去年は結果が出ませんでした」

――そのために、山口強化部長として表現することは選手獲得が一つだと思います。

「そうですね。監督からすれば『もっと実績ある選手を』という思いもあるかもしれない。クラブもそうかもしれない。サポーターもそうかもしれない。もちろん、それも大事だと思っているし、去年の夏にはFC東京から髙萩洋次郎が来てくれました。実績もマインドも素晴らしいし、もっとやれる選手だし、もっと成長したいという思いで一緒にやってくれると思っています」

――選手獲得に際して色々な条件はあると思いますが、マストなのは成長意欲を持っていること。ここに重きを置いている。

「そうですね。我々は若いチームです。社長も若い、強化部長も若い、監督も若い方です。選手たちも24,5歳頃が多く、(矢野)貴章と(髙萩)洋次郎がいなければ平均年齢はもっと低くなります。そういう選手たちとやっていくなかで、勝とうという欲がないと勝てないし、日々表現していかないといけない。その欲がなければクラブのフィロソフィーに合わないし、マインドにも合わない。時崎監督も成長したい、良い監督になりたいと思っていると思うし、選手たちも、スタッフたちも、そう思っていると思います。ここで満足しているようならば一緒にはやっていけないという話は常々しています」

――成長意欲を持ち、それを表現し、結果に出ればJ1が見える。そのマインドを持ってくれと。

「そうです。そういう考えでやっています」

――クラブのこととピッチ上のことをトータルで考えて仕事をする、というのは一般にはGM(ゼネラルマネージャー)に相当するのでは?

「いやいや、GMはクラブ経営と競技のことを考え、ピッチ上に結び付けていく存在だと思うのですが、僕はまだまだそんな大したことはできないです」

――競技面のトップチームやアカデミーが持つマインドを変えることに主眼を置いている。

「そうです。僕はマインドが大事だと思っています。それができたかどうかは別として。逆にいえば、かつての僕にはそれができなかった負い目もあるのかもしれない。僕が選手だったとき、一緒に過ごした周りの選手たちはほとんどが出世していきました。彼らは何が良かったのか。常に上を目指していたし、本気なんです。人はどこかで自分自身でセーブをかけてしまう。僕もそうでした。でも、一緒にやってきたメンバーたちは違った。昨年のカタールワールドカップにも日本代表選手として出場しています」

――吉田麻也選手ですね。

「(吉田)麻也もそうですし、川島永嗣もそうです。マコ(長谷部誠)はブンデスリーガの最年長選手として試合に出続けています。彼らと小さい頃から一緒にやってきて、彼らはプレー面のみならず、マインド、捉え方、サッカーに対する姿勢、人と話すときの姿勢などが素晴らしかった。それはスポーツをやるなかで培われていったと思っています。僕はそういう人材を栃木から輩出していきたい、それが大きな視点としての目的です。『そもそも何でサッカーをやっているの?』と聞かれたときの答えですね。もう、競技だけをやっていればいい、ということではないので」

――そういう思いをもって進めるなかで、選手たちとも合意し、共有し、獲得も進めながら一緒にやっていこうと。

「そうですね。貪欲に成長していこうという話はよくしています」

 

 

▼「人と関わる」ことはできるように

――そういうマインドが醸成されつつあり、昨季はピッチ上で表現しようとしたと思うのですが、ピッチ上での話をクローズアップすれば、昨季は時崎監督にこういうことをやってもらいたいという狙いがあり、そのベクトルに沿った選手たちが集まって表現したのだと思います。狙いとしてある程度できたこと、できなかったこと、色々とあると思いますが、大きく言えばどういうことでしょうか。

「できなかったことでいえば、簡単にいえば、スタイルの構築ができなかったと思っています。うちのチームは何? というものが薄れたと思っています」

――スタイルというのは?

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