【無料記事】【インタビュー】【トピックス】別れのことば『後悔は何ひとつない』奈良輪雄太(24.1.13)
■まだ現役を退いた実感は乏しく
2024シーズン、J1を戦う東京Vについて、そして自身の今後のキャリアについて、奈良輪は言葉を紡ぐ。
ヴェルディにきてよかったと心から感謝していますし、最後にいい終わり方ができて本当にうれしかったです。そこに嘘偽りは一切ないです。そもそも僕は嘘が言えない人間なので。
ピッチで活躍できる人に対価が発生し、その上位何人を選ぶかがプロの世界。僕が契約満了になったのはJ1の戦力ではないと判断されたということで、それ自体は正解だと思います。一方で、身びいきを抜きにし、自分がいれば大事なところでチームの手助けができただろうとも感じますね。
多くの選手にとってJ1の舞台は初めての経験ですが、練習試合をやっていますからおおよそのレベルはつかめているはずです。実際、最初はある程度はやれるし、戦っていけると感じるでしょう。勝つか負けるかは別にして、それなりの手応えは得られると思います。
大事なのはそこから先ですよ。接戦に持ち込みながら何だかんだで勝てないというところから始まり、時には力の差が歴然とした完敗を喫し、壁にぶつかることになります。目の前の壁をどのように乗り越えるか。この過程が途轍もなく大変なんです。そこで、自分たちのやっていることに自信を持ち続け、プレーできるか。チームとして崩れないように持ち応えることが大切になります。その部分は少し心配です。
ここ数年、僕は子どもを通じて、サッカー界以外の人たちとの交流が増え、これまでの自分がいかに狭い世界で生きてきたかということを日々実感しています。今後のキャリアは、サッカーの世界か、それ以外の道か半々というのが現時点の考えです。
仮にサッカーの世界で生きていこうとするなら、外の社会で自分の武器をしっかりと装備し、決定権のある人と対等の力を持てるくらいになってから戻るのはひとつの手かなと。現役の頃からもっとよくすることができると常々感じていたので、そういった方面から貢献することにも興味を持っています。
J1で戦うヴェルディの試合は、家族で観にいきたいです。特に、マリノス戦と湘南戦はぜひとも。たぶん、そのときになって初めて寂しさを感じるような気がします。ああ、自分はもうあの場所に立つことができないんだと。いまはまだ、引退したという現実感があまりないんですよ。
僕はひとりの書き手として、奈良輪についてペンを走らせるのは楽しかった。東京Vへの貢献に加え、同時代を生きられためぐり合わせに感謝している。
と、ここでエンドマークのつもりだったが、年が明けて1月5日、奈良輪のトップチームコーチ就任が発表される。以下、追加取材した内容を附記しておきたい。
コーチのオファーをいただいたのはクリスマスの前、12月22日でしたね。翌日には城福さんと会い、話をさせてもらっています。
その場で僕は、選手の立場を離れて外の世界にも目を向けていること、指導者の仕事について、自分の考えていることをありのままに話しました。それでも「やってほしい」と必要としてもらえたことは素直にうれしかったです。
先々、自分の思い描く最終的な目標から逆算し、今回の仕事で得られる経験は必ず生きると感じたこと、チャンスはいましかないと思ったことが決め手でした。急な話でじっくり考えたいところもありましたが、チームの編成上、時間は限られるため、「やらせてもらいます」と年内に返事をしています。
「自分がいれば大事なところでチームの手助けができただろう」と語った心残りが、気持ちを動かしたのは言わずもがなだ。現場と強化部がその部分に目を留めていたのを喜ばしく思う。
14年間の現役生活、おつかれさまでした。そして、今季も東京Vをどうぞよろしくお願いします。
◎奈良輪雄太(ならわ・ゆうた)
1987年、神奈川県生まれ。172センチ、67キロ。横浜F・マリノスユース‐筑波大‐SAGAWA SHIGA FC‐横浜F・マリノス‐湘南ベルマーレ‐東京ヴェルディ。J1通算47試合0得点、J2通算165試合4得点、JFL通算88試合6得点。右利きだが、両サイドを遜色なくこなすサイドバック。1列前のサイドハーフで起用されることも。現役時代は一貫して24番を付け続けた。2024シーズンから東京Vのトップチームコーチに就任する。