「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【SBGニュース】『そして、バトンは渡された』加藤弘堅がAC長野パルセイロ、杉本竜士がザスパクサツ群馬に移籍。2023チーム編成・夏〈6〉(23.7.27)

加藤弘堅の優れた洞察力とキックはAC長野パルセイロの助けとなるだろう。

加藤弘堅の優れた洞察力とキックは、AC長野パルセイロの助けとなるだろう。

アグレッシブなプレーでスタジアムを沸かせた杉本竜士。ザスパクサツ群馬で健在ぶりを示してほしい。

アグレッシブなプレーでスタジアムを沸かせた杉本竜士。ザスパクサツ群馬で健在ぶりを示してほしい。

■思いは受け継がれる

東京ヴェルディは24日、加藤弘堅がAC長野パルセイロに完全移籍すると発表。27日には杉本竜士がザスパクサツ群馬に期限付き移籍となることを明らかにした。出場機会を求めてチームを離れたふたりはオフィシャルサイトを通じ、またはSNS等でメッセージを出している。

加藤弘とピッチ内外で交流の深かった深澤大輝は言う。

「僕がヴェルディに加入した年と弘堅さんが移籍してきたタイミングが同じで、本当にお世話になりました。2年半の間、何度もメシに連れていってくれて、いろいろな話を聞かせてもらいましたね。教わったのは、チームが勝つために個人は何をやれるか。準備の段階から、少しでも勝利に近づくためにできることを弘堅さんは一つひとつ実行していました。ピッチで苦しい状況に置かれた際、『むやみに怒鳴るよりも、その選手がどうすべきなのか、何をしてほしいのかを具体的に短く伝えたほうがいい』というアドバイスは特に心に残っています」

ディビジョンが異なり、当面対戦する機会はない。再会した暁には、互いの状況がガラッと変わっている可能性もある。

「次に会うときは弘堅さんの結婚式……う~ん、それはないか。ひょっとしたら僕のほうが早かったりするかもしれないですね」。アハハのから笑いが寂しく響いた。

加藤弘、杉本ともに、東京Vでのプレーは12日の天皇杯3回戦、FC東京戦(1‐1△ PK8‐9●)が今季最後となった。

西谷亮にとって、東京Vユースの10期上の先輩である杉本は仰ぎ見る存在だった。

「竜士くんは東京ダービーを知り、影響を濃く受けている世代ですから、勝ちたい気持ちは誰よりも強かったと思います。あの試合に懸ける熱量はものすごかった。常に周りを鼓舞する声を出し、いいプレーをすれば褒めてくれて、しんどいときは『亮、もうちょいやれ』と活を入れてくれる。いつも、あの声に背中を押されてきた気がします。人一倍熱くて、仲間思いな人です」

とりわけ、鮮明に記憶されるのが、2015年4月11日のJ2第7節FC岐阜戦だ。東京Vジュニアに所属する西谷(小6)はボールボーイを務めていた。

「前半は0‐3で、後半から竜士くんが出てきたんですよ。すると、終盤に4点取って、4‐3の大逆転勝利。『やべえ、杉本竜士!』(心の声は呼び捨て御免)と興奮したのをよく憶えています」

なお、その岐阜戦で杉本は後半アディショナルタイムに同点弾を叩き込んでいる。少年期の柔らかい心に刻まれたヒーロー像は永遠だ。26日のミーティングの場で杉本から別れの挨拶があり、その後、「自信を持ってやれ。堂々とプレーしろ」という激励のメッセージを西谷は受け取っている。

去る者がいて、思いを受け継ぐ者がいる。今季、残り15試合。後ろを振り返ることなく、東京Vはひたすら前へと進む。

※タイトルは瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』(文春文庫)より。いい本ですよ。ちょいとラッキーガールすぎる話でもありますが。

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