「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【インタビュー】『東京ヴェルディの明日はどっちだ』中村考昭代表取締役社長に訊く・前編(21.8.18)

■点を線にして、組織をつくり直す

――この11年、クラブがよい方向に変わった部分もあります。リブランディングで見せ方を工夫し、いままでの「周りから興味を持たれて当然ですよ」という態度から「どうやったら興味を持たれるんだろうか」に変わった。サポーターから好評の近年のユニフォームや、新マスコットのリヴェルンが代表的な仕事と言えます。ですが、そうして行き着いた先が、昨年末の経営権をめぐる混乱です。それを踏まえ、もっとこうしたらよかったと中村社長が思うところはありますか?
「今季から直接的に関わる形になり、モードチェンジを試み、変えていっている部分がまさにそれです。目的はヴェルディという会社そのものがしっかり地力をつけていくこと。クラブが発展し、組織が大きくなっていくことで、チームも強化されていく。そのサイクルを生み出すための取り組みをしていく必要があります。といっても、特殊なことをやるわけではありません。スタッフの労働環境、チームの練習環境を改善し、さまざまな意思決定に関する部分も整備を進めています。真っ先に着手したのは、クラブハウスで提供する食事です。選手たちは身体が資本で、コンディショニングにも大きく影響する重要な要素。おいしく、気持ちよく食べられるように、メニューの内容から提供の仕方まですべて見直しています。残念ながら、この10年は東京Vという組織体が成長していくための取り組みなり、投資がほとんどされてこなかったように感じられます」

――組織をつくり変えるには相応の時間がかかるでしょう。どのあたりの時期には体制を整えられるとお考えですか?
「現在、東京Vで仕事をしてくれているスタッフ、現場の方々は高いモチベーションを持って取り組み、すばらしい人材が集まっています。個人という点を線でつなぎ、同時に逆行する要素を取り除き、どう機能的な組織にするか。それぞれの点がより輝けるように線にし、さらに面にしていくのが私の仕事です。これまで、そのあたりの意識は希薄だったのではないかと思いますね。ともすれば、不具合があったときにパーツを取り替えて済まそうとなりがち。私の考えでは、それでは組織が思うように伸びていかないんですよ。チーム編成のやり方もそう。組織の持続的な成長を実現するために、大切にしていきたい基本方針です。これは非常に時間がかかるかと言えば、そうではないと思います」

――今季の新体制発表の場で、中村社長は「オープンな組織でありたい。不安や疑念を生じさせた情報提供の不足は反省している。今後は相互で情報を交換しながら発信していきたい」と話されました。こういった話は広く周知されるべき事柄と思われますが、この半年間、メディアからの取材依頼は?
「ありましたね。怪しげなところも含めてたくさん。ここしばらくはクラブの価値が下がってしまうような記事が多く出て、面白おかしく扱われてばかりでしたので、ゼビオとしてお断りしていました。事態がようやく落ち着き、今回、シーズンが中断するタイミングでお話をいただいたのでお受けした次第です」

――折に触れ、中村社長の声明など、アナウンスが発せられるものと受け取っていたので、まるで出なかったことに戸惑いました。何はさておき、オープンな姿勢は自分たちから発信していく積極性と理解していたんです。本来、そうあるべきなのでは?
「それはおっしゃるとおり。ただ、オープンに発信していくやり方はどうあるべきか。東京Vはスポーツチームであり、チームそのものが発信源です。私のような立場の人間は経営に責任を持ち、いわば裏方の役割。部分的に経営の観点から発信することはあるかもしれませんが、監督や選手、チームが前に出たほうがいい。スポーツチームは社会公共財ですから、社長の個性やカラーを強く打ち出すべきではないという考えです。特定の企業のキャラクターで構成されるべきものでもない。それより社会との距離が近くなるほうが私の理想と言えます。オーナーシップに依存するクラブであれば事情がまた異なるでしょうけどね。経営トップがいかなる立ち位置を取るかは、前体制と大きく違う点。チーム編成や個々の選手の情報、経営に関する株の取り扱いなどを、懇意にしているメディア、あるいは個別に、恣意的に偏って発信していくのが外部とのコミュニケーションで必要だということならば、私とは考え方が決定的に違います」

――この10年、東京Vはメディアの使い方が上手になったんですよ。テーマやタイミングに応じて露出先を選定し、そこには緻密な計略、戦略がある。一方で、主体的に興味を持つメディアは確実に減っています。スポーツメディア全体の衰退も否めません。中村社長を入口に興味を持つ人もゼロではなく、東京Vの今後はスポーツビジネスに関心の強い層に刺激的なテーマです。この際、さまざまな人から多角的に照らさせるほうが望ましいと思います。
「もちろん、ほかの仕事では取材を受けてますのでNGのスタンスではありません。今後、相手側の趣旨や意図を理解したうえで、お話させていただくつもりです」

前のページ次のページ

1 2 3
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ