「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第32回 全部、ブッ倒す ~東京ヴェルディユース 2018 葉桜~(18.4.18)

キャプテンを務め、10番を背負う森田晃樹(3年)。トップに2種登録される可能性も。

キャプテンを務め、10番を背負う森田晃樹(3年)。トップに2種登録される可能性も。

森田のポジションは最前線の中央に位置し、永井監督は「密集地帯で相手のディフェンダーや中盤の選手3、4人が引きつけられ、ほかのところが空くという寸法です。もっとも、晃樹はフリーマン。どこにいってもいい」と語る。

僕が森田のプレーを見ていて、いいぞと思うのは、不慣れなポジションでやれることを増やそうと試み、自らの器を強引にでも大きくしようとしている姿勢だ。果敢なフォアチェック、ゴールに向かう積極性はその表れである。

「去年のチームでは、(藤本)寛也くんのひとつ後ろ、中盤の低い位置でやらせてもらっていたんですが、今年に入ってからしばらくしていまのポジションに。まだまだですけど、あそこで何をしなければいけないのか、やっとつかめてきたところです。どうやってゴールに絡んでいくか、ですね」

攻撃のつなぎ役としてなら、いますぐにプロでやれる能力があるだろう。ただし、気持ちいいプレー、好きなことだけをやらせてもらえる世界ではない。

「どんな相手でもパス回しで圧倒して、チンチンにして、ゴールを取りまくって、全部、ブッ倒したい」

と、森田は言い、まるで『ドラゴンボール』に出てくるセリフみたいだなあと僕は笑った。

昨年末、ついに日本代表に選出された三竿健斗(鹿島アントラーズ)に訊ねたことがあった。アカデミー時代を振り返って、もっとあれをやっておけばよかったと思うことはあるか、と。

「ミドルシュートでしょうか。プロになると、どうしても結果を求められるので。ユースのときに数多くチャレンジしていれば、というのは思いますね」

そうしなかったのは簡単な話である。自分がミドルレンジから打つより、成功率を見込める攻撃があったからだ。後悔というほど大きなものではなく、この手の話は誰に聞いてもひとつやふたつは出てくる。厳しく自己を律し、やるべきことを率先してやっていた三竿だからこそ、この言葉の持つ意味は重い。

それぞれに与えられた役割を完遂することが、チームの成果につながる。個人が余計なことをしないのが勝利への近道。育成年代で完成度の高いチームほどその傾向は強い。

そして、バラバラになって飛び込んだプロの世界では、一人ひとりがこぢんまりとしてしまう。じつに皮肉なことで、酷な言い方になるけれども、それが僕の見てきた現実だ。

つまり、個人の分をわきまえるなんてのはクソくらえである。やりたいことは全部チャレンジ。限界をつくらずに、めいっぱい欲張って手を広げることだ。ここから先、どこまでいけるかは、他人にはもちろん、自分でさえもわからない。全部、ブッ倒すなんてそんなの無理だよと、知ったふうなことをほざくヤツの言葉には一切耳を貸すな。

 

ゲーム終盤、松橋優安の2ゴールが勝負を決めた。

ゲーム終盤、松橋優安(2年)の2ゴールが勝負を決めた。

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