「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【東京ダービー連動企画】【新東京書簡】特別版『木曜日の朝には』海江田(23.7.10)

よし、すっきりしたぞ。

よし、すっきりしたぞ。

■響き渡ったダービー専用チャント

12年ぶりのダービーに向けて、双方、クラブ側の温度は低い。世代交代が進み、指導者や選手はもちろん、多くのスタッフが入れ替わり、往年の戦いを知る人は少なくなった。なにせ干支がひと回りしたのだ。無理もない。周囲をヘンに刺激して、トラブルが起こるのを避けたい思惑も透けて見える。そういったクラブの方針は尊重する。もとより東京ダービーは外野発祥の文化だ。

一方で、ただの一試合であろうはずがないという思いも尊重されていいはずだ。積み重ねた歴史は計量化できず、その善し悪しを裁けるつもりでいるのは思い上がった考えである。人は合理のみで動くにあらず。

また、選手が観客のレベルに合わせてプレーしないように、ライターも基本的には読者のリテラシーに合わせて書くことはない(伝える努力はするけれども)。その行為は相手への侮辱に等しいからだ。

冷蔵庫の上の段から、宮崎生まれの『マキシマム』オリジナルスパイスの詰め替え用がごそっと出てきた。以前、だいぶ探したが、こんなところに隠れていやがった。後藤さん、いるかな。いらねえな。料理なんぞせんだろう、あんたは。

とりあえず、冷蔵庫の2段分は空いた。やや心許ない。やはり3段分のスペースは必要か。遠目にしか見たことがないから、いまいちスケール感がつかめない。強引にぎゅっと突っ込めば、入らないことはなかろう。こそこそ内密に進め、妻には「あとでわかるから」とだけ言ってきた。空前絶後のアルティメット・サプライズだ。あまりの衝撃と喜びに、泣き出してしまうかもしれない。

2‐2のドローに終わった昨日のJ2第25節、FC町田ゼルビア戦。試合後、選手たちを迎える国立競技場のゴール裏からダービー専用のチャントが響き渡った。ユース出身の深澤大輝は言う。「聞き覚えのある歌詞とメロディ。自分たちにとってFC東京とのダービーはとても大きいもの。中2日でどんなメンバーになるかわかりませんが、チーム全員の力を合わせて勝ちたいです」。

現在の立ち位置がどうあれ、メンバーをターンオーバーしようが、ダービーはダービーである。勝ちにいかないゲームに価値なんぞビタイチない。城福監督は日本のトップ・オブ・トップを意識してチームづくりを進めており、無様なゲームは受け入れがたいはずだ。

それにしても、J1で11位につけるFC東京の胸を借りられるなんて幸せである。暑くて熱い真夏の夜、緑者も青赤野郎も水分補給を怠らず、よくよくハメを外し過ぎないように気をつけてほしい。相手は大事なサッカーファミリーだ。

最後は、細々としたものを野菜室と冷凍室に放り込み、作業終了。ま、こんなところでいいだろう。おれはずいぶんとすっきりした冷蔵庫の中を見回す。ちょうどいい掃除になった。

木曜日の朝には、ここにかわいいタヌキの生首が納まっているだろうよ。

 

『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗

 

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