【フットボール・ブレス・ユー】第58回 ベレーザに息づくセリアスの血(22.3.4)
第58回 ベレーザに息づくセリアスの血
昨年の暮れ、仕事が片付いてぼんやり過ごしていたところ、望月隆司さんから連絡が入った。
望月さんは育成・普及畑を長く歩む指導者で、2012年から16年まで日テレ・メニーナ・セリアス(現在はメニーナに統合)の監督を務めている。ここ2年は作新学院大学で指導し、今年から松本山雅FCのU-15コーチに就任するそうだ。
そのときはコロナが沈静化しつつあり、せっかく連絡をくれたことだしごはんでもいきますか、となった。
昔は東京ヴェルディのクラブハウスでよく立ち話をしたものだが、こうして会うのは何年ぶりだろう。育成の仕事が中心ながら最先端のサッカーの研究に余念がない望月さんは「現代サッカーの守備組織は幾何学なんですよ」とタブレットを使って丁寧に説明してくれる。しかし、僕は網の上の肉をひっくり返すのに忙しい。そのうち話はセリアス時代の教え子たちに移った。
「面白いヤツがいましてね。サッカーに必要なずる賢さをナチュラルに持っている選手がまれにいるんです。そいつ、ドリブルで独走し、そのままいけばキーパーと1対1。難なくゴールを決められるのに、わざと減速して追走してくるディフェンスをおびき寄せた。そして、身体を寄せてくる相手をケツでバーンとはじき飛ばしてから、まんまとシュートを決めたんです」
望月さんは愉快そうに笑う。
僕は話を聞きながらゾクゾクした。そうして失点した相手のダメージはいかばかりか。顔も知らない少女の不敵な笑み、唇の端を持ち上げてニッとする表情まで勝手に頭に浮かんだ。憶えておきたい名前である。
「フジノ、アオバ」
漢字がわからなかったため、カタカナでメモ帳に記した。
お行儀がいいばかりではつまらない。女子サッカー新時代、「ジェンダー平等、多様性社会の実現」を理念に掲げるWEリーグの開幕。キラキラした部分を強調したくとも全体のトーンに濃淡がつけづらいため、光が前景化してこないというのが僕の見立てだった。
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