「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】検証ルポ『2018シーズン 緑の轍』序章(18.12.16)

熱く燃えた2018シーズンが終わった。
ロティーナ体制2年目、東京ヴェルディは勝点71(19勝14分9敗、得点56失点41得失点+15)の6位で2年連続J1参入プレーオフに進出。レギュレーションの不利を覆して1回戦、2回戦を突破し、宿願のJ1昇格に肉迫した。
血沸き肉躍るプレーオフの戦いに夢中になった一方、自動昇格を逃したのも事実だ。2位の大分トリニータとは勝点5差、得失点10差。この開きはどのように生じ、また最終的にジュビロ磐田との決戦に敗れるに至ったのか。すべてが終わったあとだから語られることは多々ある。監督や選手の証言をもとにシーズンを整理し、ターニングポイントを振り返りたい。

 序章 宿命性に抗った物語

 ■それぞれの限界と可能性を持つからこそ

誰もいないシーズンオフのピッチは、干上がったプールのような物悲しさが漂う。

12月8日、J1参入プレーオフ決定戦でジュビロ磐田に敗れた翌日、東京ヴェルディは解団式を行い、今季の活動を終えた。同時に、ロティーナ監督とイバンコーチの退任も発表された。ひとつのサイクルの終わりだった。

毎年、僕はシーズンが終わると、サッカーと距離を置きたくなるのが常だ。さあ、お次は欧州フットボールだよと速やかにシフトする人たちを横目に、そこまで没入しきれない自分を少し恥ずかしく思うが、性分ゆえに致し方ない。

かれこれ十数年前に出た渡辺一史の傑作ノンフィクション『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(文春文庫)が、何をいまさら映画化されたと知った。そういえば、脚本家の山田太一の優れた書評があったなあと本棚から『夕暮れの時間に』(河出文庫)を探し出す。

〈ああよくあるやつね、と内容の見当がついてしまうような気がする人もいるかもしれない。それは間違いです。これはまったく、よくある本ではない。凄い本です。めったにない本。多くの通念をゆさぶり、人が人と生きることの可能性に、思いがけない切り口で深入りして行く見事な本です〉と書かれているのを再読し、上手な人は何を書いても達者にこなすと感じ入った。物事を複眼で見ることにより、本質的な部分を照射する。

もうちょいトシを食ったら自分もこういうのが書けるのかねとパラパラやっていると、ほかのページにあった次の一文が目に止まった。

〈それぞれが他の人間とはちがう限界と可能性を持っているからこそ、人生は豊かにもなり、悲しくも苦しくも喜びにもなり、陰影や深みも味わいにも恵まれるのではないだろうか。誰かに文句をいいようもないそれぞれの宿命性は、人間の持つ宝だと思う〉

人、人生を、ひとつの生命体であるクラブと置き換えることが可能だろう。

わかる。たしかにそのとおりなんだけれども、まるっと受け入れがたい感覚を、東京Vと寄り添ってきた人たちにはわかってもらえるのではないか。とどのつまりは、分相応ってやつかい。そんなもん、くそくらえだと乱暴な気持ちになる。

連綿と受け継がれてきたクラブの歴史、そこに深く根を張る有象無象のしがらみ、アイデンティティ、全部をひっくるめて宿命性としか表しようのないもの。核となる要素は大事にしつつも、どうにかして身の丈を超えていきたい。新しい何かをつかみたい。

ロティーナ監督がチームを率いたこの2年間は、その宿命性に抗った物語でもあると僕は思うのだ。

 

(検証ルポ『2018シーズン 緑の轍』序章、了)

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