「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第36回 プロセスが生き続ける ~東京ヴェルディユース 2018 秋風~(18.10.3)

「今年はチームを引っ張るくらいの気持ちで」と山本理仁(2年)。

「今年はチームを引っ張るくらいの気持ちで」と山本理仁(2年)。

「リーグ戦で負けてはいますけど、負けたと思った試合はひとつもない。敵わないと思わされたチームもないです。今日も決めるべきところを決められていれば。結果は大事です。でも、それ以上にいいサッカーをして勝つのが大事」

と言うのは、山本理仁(2年)。少し下がった位置からゲームをつくり、ほぼすべての攻撃が山本を経由する。

「去年は1年でしたから先輩たちについていけばよかったんですが、今年は自分がチームを引っ張るくらいの気持ちで。チームを勝たせる選手になりたい」

山本の左足はスペシャルだ。ボールを動かす仕事のほかに、ゴールに直結するプレーを増やしていくことが求められる。

永井秀樹監督は現状を次のように話した。

「育成年代の指導者の仕事は、一人ひとりの能力を伸ばしていくこと。今日のゲームも勝つことだけを求めるなら、後ろの枚数を増やして逃げ切ろうとするのがセオリーでしょう」

3枚の交代カードの切り方は中盤に厚みを持たせ、かつピッチの横幅を生かそうとするもので、守備的な采配ではなかった。結果として同点に追いつかれ、裏目に出てしまったが。

「どんな勝ち方でも勝ちは勝ちという考えを否定はしません。自分は、残り3分、相手に一度もボールを触らせない。そういう勝ち方を選んだ。今日のゲームはそれをできなかったのが一番悔しい」

永井監督の美学と捉えられるかもしれないが、それだけではない。育成の一環として、十二分に練られた考えがある。

「同じ1‐0の勝利でも、幾通りもの道筋がありますよね。圧倒的に攻めながらの1‐0があれば、とことん守らされての1‐0もある。大事なのはプロセスなんです。残り3分、相手を翻弄して完勝できれば、それは選手たちのなかでずっと生き続けます。結果ではなく、プロセスこそがその先の支えになる。相手にはもうヴェルディとはやりたくないよという敗北感を与え、自分たちは強い自信を手にできる。プロになってからも大切な部分ですから、そこにチャレンジしているんです」

クラブの黄金時代を知る永井監督らしいアプローチだ。前述した山本も考えを変える気などさらさらない様子で、「自分たちのやり方で勝つ」ときっぱり言った。

もし力及ばず、プリンスリーグ関東から降格となれば、アカデミーが売りの東京Vにおいて毀損されるものは大きい。残り4試合、結果と内容の両にらみになるだろう。

矢板中央高戦の後半、決定機を逃して悔しがる味方に、「次いくぞ。次だ!」とキャプテンの森田晃樹(3年)が声を張り、急激に士気を上げるシーンがあった。ゲームを支配できるがゆえに、牙をむくまでが少々のんびりしているかなというのが僕の印象である。時間帯を問わず勝負どころを感じ取り、きっちり仕留めるプロセスもまた身につけておいて損はないはずだ。

 

永井秀樹監督はプロセスを重視し、選手たちの支えとなるものを残そうとしている。

永井秀樹監督はプロセスを重視し、選手たちの支えとなるものを残そうとしている。

 

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