「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【練習レポート】『沖縄キャンプレポ7日目』澤井直人の必死(2016/01/28)

田村直也と中野雅臣が激しくぶつかり、もつれ、倒れる。黄色のビブスを着たフリーマンの高木善朗がボール受け、反転、逆サイドに展開。アラン・ピニェイロが猛然とダッシュを仕掛ける。そこへ安在和樹の左足からロングパスが放たれる。

「人を見て、動く。重ならないように。最終ラインを常に意識しよう」と、冨樫剛一監督の声が響いた。

コンパクトなエリアで、判断のスピード、切り替えの早さが要求されるポゼッショントレーニングだ。相手の最終ラインを1本のパスで突破することに力点が置かれている。

「昨日のFC琉球戦、負けはしましたが、できるようになった部分もあるんです。ビルドアップから中盤のつなぎは前の試合よりも良くなっていた。今日の目的はその先。シュートまでいかに素早く持ち込むか」(冨樫監督)

敗戦が刺激となったか、選手から声がよく出ており、熱のこもったトレーニングだった。その様子を別メニュー組の中後雅喜と北脇健慈が見ている。そこに今日は柴崎貴広とウェズレイが加わった。琉球戦で激突したふたりはともに軽度の故障を負った。どうやらFC東京戦は新加入の鈴木椋大がゴールマウスを守ることになりそうである。

■「あの出来では下げられても仕方がない」(澤井)

この日、僕は澤井直人に話を訊こうと決めていた。北海道コンサドーレ札幌戦は3トップの右、琉球戦は中盤の底、2試合連続で先発出場した。琉球戦は前半で下げられ、試合後、冨樫監督とのマンツーマンはおよそ20分にも及んだ。

時折、澤井は首を縦に振り、冨樫監督の言うことに耳を傾けている。やや上目遣いに唇をかんでいる。顔色は真っ青だ。これほど敗北感を露わにする人も珍しい。この人はプレーも必死だが、落ち込むときも必死なのである。

スカしているよりずっといいじゃないかと思う。もっとも人の心はわからなくて、スカしているように見せて、内に激しく炎をたぎらせているタイプもいるのだけど。

「ハーフタイムで交代を告げられたとき、意外ではなかったですね。あの出来では下げられても仕方がないなと。昨年もこの時期ボランチで使ってもらい、うまくいかなかったので、今年こそは違う自分を見せたかったんですけど、またうまくいかなかった」

試合前のイメージは充分に描けていた。攻撃の起点として、パスの受け手と出し手になること。守備は相手を中に入れず、外に追い込んでいくこと。まずはディフェンスをしっかりやり、中盤を安定させようと心に刻んでいた。

「ところが、どれもこれも全然ダメで。冨樫さんからは、スピードを落としてみろとよく言われます。一生懸命になりすぎて気持ちが急ぎ、プレーを早く早くやろうとしてしまう。もっと周りとコミュニケーションを取って人を生かし、プレーに緩急をつけろと。わかってるんすよね。頭ではわかっているのに、どうしてうまくできないんだろう」

そうなると、いつもなら難なく止められるボールがわずかに弾む。キックがワンテンポ遅れる。必然、精度が狂う。ミスを挽回しようとして気持ちが焦る。さらにミスを重ねる悪循環に陥る。持ち前の懸命さ、ストレートな性質が裏目に出て、遊び心のあるプレーなど出る幕がない。

「ホテルで落ち込んでいるとみんな気遣ってくれますけど、チームにそういう人間がいるのはけっしていいことではない。だから、自分からサッカーの話をしに行きますね。昨日は(楠美)圭史くん、タムさん(田村)、(杉本)竜士くんだったかな。『あのとき、おれにどうしてほしかったですか? どうすればよかったですかね』と訊くんです。悪いことを引きずってしまうタイプなんですよ。このメンタルは自分の弱点でどうにかしたいんですが、いつまでたっても上手にコントロールできるようにならない」

食事のとき、「おい、おまえ大丈夫か?」と肩を叩かれれば、「大丈夫っす」と答える。ジョークを付け加えたりもするのだが、じつは心はベコベコにへこんでおり回復とはほど遠い。それでも無理に笑おうと努める。

「この壁を乗り越えたら、きっと違うものが見えてくると思います。常に100%でやる。その自分のスタイルは絶対に崩したくない。だから緩急も100%というか、すっと抜くときも100%で。う~ん、うまく言えないっすねえ。とにかく、そういうふうに考えています」

こうして話すときも、どうにかして伝えようと必死なのである。それでいいよ、澤井。他人の必死なふりを見て、冷笑を浴びせるような奴はどうせ小者だ。ぐんぐん前に走って、きれいさっぱり置いてきぼりにしてしまえばいい。

 

撮影されるときも必死にいい顔を作ろうとするが、なかなかうまくいかない。

カメラを向けられたときも必死にいい顔を作ろうとするが、なかなかうまくいかない。

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