取りこぼしには該当しない 【J27節仙台戦レビュー】 (藤井雅彦) -1,960文字-
序盤の時間帯を除き、ほぼ互角の攻防が繰り広げられた。両チームともにコンパクトさを保った結果、中盤で自由なボール回しが許されない状況に。ベガルタ仙台の守備の圧力はやはりすさまじく、特に中村俊輔がボールを持つと厳しくチェックに走ってきた。中村は前半こそ効果的なサイドチェンジを数本見せたものの、その後は高い位置でなかなかボールに絡めなかった。
同じようにマリノスの守備の前に仙台は沈黙した。その手応えを栗原は以下のように語る。
「カンペーさん(富澤)とマチ(中町)が近くにいてくれて距離感がいい。それと今日は相手の前線が少し孤立していたし、ボールの出どころにもしっかりプレッシャーに行けていた。思ったより裏を狙う動きも少なかったので狙いを絞りやすかった」
最終ラインを高く設定して全体をコンパクトに保ち、ボールホルダーにプレッシャーをかける。次に強引な縦パスに対して狙いを絞り、鋭い出足でカット、あるいは縦を切る。そうすればダブルボランチのプレスバックでボールを奪える。ウイルソンと柳沢敦の動きがやや単調なのも好都合。赤嶺真吾がスタートから出場していれば、もっと中盤を省略するようなボールが増えたのかもしれないが(前半戦のように)、それも後半途中からの限られた時間だった。
マリノスとしては、そういった苦しい状況を打開するのが日本代表アタッカー・齋藤学の役目で、苦しむ状況でも個の能力だけでゴールネットを揺らしてきたのがマルキーニョスだった。しかし、この試合に関しては両者ともに不在で、攻撃の迫力は明らかに足りなかった。
1トップで出場した藤田祥史は特に前半、後方からのロングボールを相手の最終ラインの背後で受けて仲間の攻め上がりを促した。左右への幅広いランニングは効果的で、フィジカルコンタクトでも渡辺広大と鎌田次郎の両CBに負けなかった。ただし、サイドでボールを受けた次のアクションが足りなかった。これはチーム全体の問題でもあるが、全体を押し上げてもシュートで終わることができない。絶対的に不足しているのが「前への推進力」(樋口靖洋監督)で、兵藤慎剛や佐藤優平にそれを求めるのは酷というもの。もっとも藤田自身は45分に小林祐三から絶好のクロスを受けており、それを決めていれば評価は大きく変わったに違いない。しかし、この場面はボールをミートできなかった。
セットプレーも不発に終わった。前後半通じて5本あったCKを生かしきれず、FKもなかなか合わなかった。唯一、チャンスとなったのが相手ゴールを狙えるこの試合最初のFKの場面で、中村のキックに仙台GK林卓人が目測を誤ったような格好となったが、頭で合わせた藤田はオフサイドポジションの判定だった。以降は仙台の粘り強い守りを突破できなかった。
サンフレッチェ広島や鹿島アントラーズが勝ち点3を加えたことを考えると、たしかに勝ち点3がほしかった。前節の清水エスパルス戦と合わせて連勝を飾ることで勢いをさらに大きくできただろう。厳しい言い方をすれば、こういった拮抗したゲームをセットプレー一発で制するような力強さがなければ、悲願には手が届かずに終わってしまうのかもしれない。筆者個人としては指揮官同様に「ポジティブな勝ち点1」として捉えているが、このタイミングでのスコアレスドローにはさまざまな意見があるはず。サポーターからチームにさらなる高みを求めるような声が上がるのも自然なことだと思う。
ただ、現場に近い記者として一つだけ揺るがない事実を伝えるとすれば、それは多くの選手が納得している勝ち点1ということ。当事者は悲観することなく、かといって楽観視しているわけではない。この勝ち点1の価値はシーズンが終わったときに初めて明かされる。結果的に勝ち点2が足りないゲームとなるかもしれないが、個人的には今回の仙台戦は取りこぼしには該当しない。勝ち点3を取りきるべきゲームは今シーズンほかにあったはずだ。
もはや立ち止まっている場合ではない。「少しでも勝ち点を積み上げることが大事」と話すドゥトラの視線はすでに次節以降に向いていた。残り7試合を全速力で駆け抜けるのみだ。