「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【新東京書簡】第八十二信『味わう力を育む好機か』海江田(21.6.10)

新東京書簡

第八十二信 味わう力を育む好機か

■『ノマドランド』を観て

こないだぽっかり空いた日があり、かねてより興味を惹かれていたクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』を観にいってきた。

本作は米アカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞。主演のフランシス・マクドーマンドは『ファーゴ』(1996年)、『スリー・ビルボード』(2017年)に続き、3回目のアカデミー主演女優賞を獲得している。

昔はアカデミー賞なんて、けっと思っていたけど、最近は『パラサイト 半地下の家族』(2020年)、『ムーンライト』(2017年)など物語に引き込まれ、ずしんとくる作品と出合えている。『ノーカントリー』(2008年)もサイコーだったなあ。

で、『ノマドランド』ですよ。ネバダ州のある企業城下町がリーマンショックのあおりを受けて消滅し、住み慣れた家を失った主人公のファーンは亡き夫との思い出を抱えてキャンピングカーで車上生活を送ることに。Amazonの物流センターで期間労働者として働いたり、同じような境遇の人たちと交流し、トラブルやちょっぴりウフフな展開もあり、旅を続けるというのがおおまかなストーリーだ。

原作はジェシカ・ブルーダー著、鈴木素子翻訳のノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社)。一部の役者を除いて実際のノマドの人々が演じており、フィクションとドキュメンタリーのあわいをいくテイストがおもしろい。

映画館を出て日差しを浴び、頭がくらっとした。いい映画を観たという手触りがあった。日々の懸命な営みが雄大な自然とともに描かれ、これは大きなスクリーンで観てこそだ。

一方で、ストーリーを追いながらチューニングをうまく合わせられない、ふわっとした感触があった。作中、声高に叫ばれることはないが、背景には現代アメリカ社会への問題提起があり、そのへんの教養も不足している。

自分にはまだ、この映画を味わう力が充分備わっていないことに見当がつく。

翻って5月。東京ヴェルディはJ2第13節のヴァンフォーレ甲府戦で0‐2、第15節のジュビロ磐田も0‐2のスコアで敗れた。両ゲームともするっと退けられ、ストレート負けの印象である。

どうもうす味に感じられ、負けるにせよ負け方にコクがなさすぎる。自分が現場で感じたとおりにレポートを書いた。書いちゃったものは取り返しがつかないが、本当にそうだったのかいまさら怖くなった。

(残り 1221文字/全文: 2208文字)

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