「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第46回 あなただけに ~株式会社PASU 谷口友星~(19.12.4)

谷口友星について、澤井直人は「かわいいヤツなんですよ。自分もできることは協力したい」。醸し出す空気感から、そのへんはなんとなくわかる。

谷口友星について、澤井直人は「かわいい後輩なんですよ。自分もできる範囲で協力したい」。醸し出すフレンドリーな空気感から、そのへんはなんとなくわかる。

9月中旬、澤井直人を介して連絡があり、ある人と稲田堤の喫茶店で会った。東京ヴェルディユース96年組の谷口友星。同期に、三竿健斗(鹿島アントラーズ)や中野雅臣(FC今治。来季より東京ヴェルディに復帰)がいる。

第一印象は、スポーツマンらしい快活な若者というものだった。聞けば、國學院大学在学中、南アフリカのケープタウンに留学。現地でNPO法人を立ち上げ、スラム街の子どもたちのために図書館を建設するクラウドファンディングを成立させている。

「ヴェルディでは中1のときに心臓病を患い、以降もけがが多かったうえに実力不足で、ユースの頃は高2まで紅白戦も絡めない有様でした。大学に進学し、サッカーの道をすっぱりあきらめたのは20歳のとき。広い社会でいろいろな方々とお会いして刺激を受けたのをきっかけに、ビジネスマンとして成功したい、と」

そう語る谷口が目をつけたのは、憧れのアスリートからビデオメッセージが届くサービス。欧米では複数の先行事例があり、日本でもぽつぽつ出始めているという話だ。

「その人にとって大好きな選手の言葉は特別です。サービスを利用してくれる人に、驚きや感動、勇気を与えたい」

と谷口は熱っぽく言う。

僕はそちらの方面に暗く、へえ、ほう、そんなビジネスがあるんだと説明を聞き、何はさておいても徒手空拳で起業しようとする心意気に感心させられた。

この新規ビジネスの立ち上げに際し、僕を訪ねてきた理由は、選手のインタビューを掲載する場合などプロモーション面における相談だった。また、参加選手のラインナップを拡充したい旨の話もあったが、取材対象である現役選手と個人的な付き合いのない僕はまったく役に立てない。せっかく訪ねてきてくれたのに、結局、いくつかアドバイスをした程度でなんの手助けもできず、申し訳なく思う。

先日、谷口から連絡があり、新事業の準備が整い、ついに始動したとの報告を受けた。

『PasYou』(パスユー)

こういったビジネスがうまくいくか皆目見当がつかないが、僕には応援したい気持ちがある。軌道に乗って事業を展開し、ビジネスの世界で成果を挙げられれば、サッカーの外に可能性を求めるアカデミーの後進たちの励みにもなろう。

ユーザーは対価を支払い、メッセージを送る選手にとっては報酬の発生するれっきとした仕事に違いない。けれども、この30秒間はカメラの向こうにいる自分のことだけを一心に考えて話してくれたんだ、とその人の胸に届かせられるかが肝である。幻想? それがどうした。お仕着せのビデオメッセージの枠を飛び出すには、なんでそんなこと知ってんの? というパーソナルな情報を入れ込んだほうがいい。

形のあるなしを問わず物事の価値とは、たぶん、そういうことなんじゃないかなあと僕は思うのだ。平成が終わって令和の時代になり、流行が移り変わっても、人の心を動かす根本は変わらない。

選手とファンを仲介する便利屋さん以上の仕事に仕上げるのは至難である。がんばってほしい。

僕もまた、生きていくため、お金を稼ぐためにせっせと原稿を書いているのだけど、読者が自分に向けて語りかけられたように感じてくれたらうれしいなとほのかな願いを込め、日々キーボードを叩いている。

 

 

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ