【無料記事】【新東京書簡】第四十八信『やっぱり大豊作の95年組』海江田(18.10.31)
■クラブを外から支えるひとりに
「周りとはフィジカルの差があって、サッカーのスタイルも違う。そのあたりはなかなか難しかったですね」
山口の話は大学サッカーの世界に飛び込んだほとんどの選手が直面することだ。巧さで勝負するなら他を圧倒するくらい図抜けた力量を発揮しなければ、試合に出ることすらままならない。味方とあうんの呼吸でボールを受け渡し、「いくら相手が強くても、ぶつからなければ済む話でしょ?」とうそぶくにはそれ相応のチームのビジョンが必要だった。そこにあるのは良し悪しではなく、求められるプレーモデルの違いである。
山口は大学5年生を半期で終え、10月から都内の大手保険会社に勤務しているという。ピカピカの新卒社会人だ。
「就職すること自体は大学に入った頃から頭にはありました。ずっとサッカーをやってきて、そっちの可能性を見てみるのも面白いのかなあと」
そこに本当の気持ちがどの程度含まれているのか、おれにはわからない。ただ、きれいさっぱり振り返るには、もう少し時間があったほうがいいのだろう。
「今日は田村(直也)さんと会うためにきたんです。社会人になった自分が、外からヴェルディのために何かできることはないだろうかと思って。田村さんに相談したら『とりあえず、メシいくか』と誘っていただきました」
聞いた? 後藤さん。もっかい言うわ。「外からヴェルディのために何かできないか」だってよ。
妻からは冷血人間と罵られ、4、5年ぶりに涙がちょびっと出たのが映画『リズと青い鳥』のエンディングというおれでも、胸にじわっとあたたかいものが広がった。
だいたい、山口はそんなことを言いだすタイプには全然見えなかった。プレーヤーとして感覚的な部分を大事にしていて、こだわりが人一倍強く、自分だけの世界観を持っているような。同世代がバリバリ活躍するのを横目に見て、内心は複雑な思いもあるだろうに、こういった働きかけはそう易々とできることではない。
アカデミーで育った選手には、たとえサッカーで成功する道が閉ざされても、元気でやっていってほしい。これは応援するクラブを問わず、誰もが思いを同じくするところに違いない。トップのダービーマッチとなれば、相手をギタギタのズタズタにしてやれと青天井に残酷になれるが、育成年代の選手は別。少なくとも、青赤小僧であれサッカーを嫌いになって去っていってほしくはない。
今回、たまにはクラブ自慢をしたいなと思ってさ。うちにはこんなナイスガイがいるぜ。どうだ。
『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗