【無料記事】【この人を見よ!】vol.4 ゴー、ケンジ。ゴー! ~FW29 北脇健慈~(2016/04/06)
■ヴェルディが強くなるために
紅白戦の北脇は、とりわけ熱い。次節のスタメンが予想されるAチームに対し、鬼気迫る形相でプレッシングをかけ、味方にも「(澤井)直人、ゴー!」、「(郡)大夢、ゴーゴー!」と絶え間なく要求する。
あるとき、北脇に激しく絡まれた中後雅喜が「なんだよ、おまえは関係ねえだろッ」と珍しく声を荒げたことがあった。井上潮音が持つボールを中後が奪おうとし、そこに北脇が背後からガツンと当たりにいったのだ。たしかに無謀な競り合いを仕掛けた北脇の側に非はあった。プレーが途切れたあと、北脇はジャンプしながら中後の両肩を後ろからポンと叩き、「さっきはすみませんでした」と可愛く詫びている。
「あの場面はボールのないところでちょっと絡んじゃいました。冨樫さんがレフェリーをやってたんで、見えないところでやっちゃえ、こんくらい試合でもあるだろうと」
相手がはるかに先輩で、チームの中心選手だろうと遠慮はしない。しかも、このときの中後はようやく故障が癒え、練習に合流したばかりのデリケートな時期だった。
「ピッチに立てば年齢は関係ない。もちろん、先輩に対してリスペクトの気持ちは持ってますよ。ただ、同じピッチに立つ以上、相手がチュウさんだからここは引こう、永井(秀樹)さんだから行くのはやめようとするのは違う。そういうのはなし。自分もアピールしなければいけないわけですし。コーチには『ほどほどにしろよ。間違ってもけがはさせるな』と言い含められ、おれもそこはわかってるんで、けがをさせない程度にバチバチ行きますよと。実戦を想定しているわけだから、行くべきところで行かなければ意味がないじゃないですか。Bチームがガツガツ当たれば、チュウさんは試合のほうがラクに感じて、余裕を持てるかもしれない。とにかく、おれは練習から激しくやり合いたいんです。いまのヴェルディでは一番大事なことだと思います」
それは北脇が外の世界から持ち帰った財産でもある。
「ヴェルディの選手はみんな巧い。いまのところは2勝3敗ですが(※話を聞いた4月1日時点)、まだまだ勝ちを増やせるはずです。練習でもっとバチバチやり合って、巧さにアグレッシブさをプラスできれば、絶対に強くなれる。おれのテーマである周りの技術に追いつくこと、試合で使ってもらったら結果を出すことは個人でつづけていくとして、アグレッシブさは人より多く持ち合わせているので、そこは全開にしてチームに貢献していきたい」
冨樫剛一監督は北脇を評して言う。
「健慈が11人いても試合には勝てない。だが、あいつがいることによって(高木)善朗が生きる。南(秀仁)のプレーが引き立つ。そこに得がたい価値がある」
その暑苦しさゆえか、集団から浮いて見えるときがある。敢えて空気を読まないようにしているのだろうか。
「わりと空気は読めるタイプなんですけど、雰囲気にわざと逆らってかき回すのが好き。おれの立場では、目立ってなんぼですよ。自分の長所である明るさを出し、この際、ひとりでも多く道連れにしてやりたい。若いヤツらも、それぞれ熱いハートは持っているんです。恥ずかしがって表現しようとしないだけ。そいつらを片っ端からおれのホームに引っ張り込んでやる」
いいね、ケンジワールド。ひょっとするとチームを大きく変えるかもしれない、ワイルドサイドを行く人である。
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