「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第1回 一瞬から流れ出す時間(2016/03/02)

そうして、一瞬から多くのことを感じさせてくれるのはいいチームだ。昨年の東京ヴェルディが示した価値はそこだったと思う。ユース時代から培った南秀仁と安西幸輝の縦のホットライン。安定感を増した井林章を中心とする最終ライン。中後雅喜の展開力と合わさったスピーディーな攻撃。時間の長短はあれど、丹念に積み重ねたものが目に浮かぶようだった。

結果はもちろん大事で、応援しているチームには強くあってほしいが、僕が第一に望むのはそういうことである。

もうひとつ、2016年のヴェルディでしか表現できないサッカーを期待している。

たとえば、映画『さびしんぼう』、『BU・SU』における富田靖子。ちと古すぎるか。だったら、これならどうだ。『あまちゃん』の能年玲奈、橋本愛、小泉今日子。『クローズZERO』の小栗旬、山田孝之。『百円の恋』の安藤サクラと新井浩文もよかったなあ。必ずしも作品の出来や評価につながるわけではないが、そのときしかフィルムに焼きつけられない役者の輝きを表現できたら、それだけで充分優れた監督の仕事だ。

円熟期を迎えた中後、ゴールをこじ開けようとしている杉本竜士、キャリアの踊り場でもがく高木善朗、めきめき頭角を現してきた高木大輔、殻を打ち破ろうとしている澤井直人、もしかしたら大化けするかもしれないアラン・ピニェイロ、プロ2年目の正念場を迎えて真面目にやろうとしているのに、長年の冗談気質が災いし、なぜか時々ふざけているように見えてしまう大木暁。当たり前だが、そのときの彼は今年しかいない。結集したチームも今年だけだ。来年はまた変貌し、ランドでボールを蹴っているとも限らない。

それぞれの個が輝くマッチングを工夫し、かつ勝負強いチームをつくる。そこが監督の腕の見せどころだ。

当コラム、主題は東京ヴェルディにまつわることだが、ときにはランドの外に飛び出していくプラットホームにもなる。折を見て、気になっている人に会いに行ってみたい。

タイトルは、津村記久子の『ミュージック・ブレス・ユー!!』(角川文庫)から取った。さらなる元ネタは「ゴッド・ブレス・ユー」。隣人がくしゃみをしたとき、さりげなく声をかける決まり文句である。「お大事になさってね」、「幸運を祈る」というささやかな思い。

どうか、フットボールの祝福があなたにありますように。

※連載コラム【フットボール・ブレス・ユー】は、隔週水曜日に更新します。

練習が終わり、談笑する冨樫監督と平本。

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