「ゼルビアTimes」郡司聡

奈良坂巧/勝負のシーズンへ。「一人前」の証明を結果で示す【蔵出しキャンプレポート】

中島裕希に食らいつく奈良坂巧

▼「先陣を切って、自分が…」

名護キャンプでのゲーム形式のトレーニング中。給水でインターバルができた時、近くでプレーしていた選手を奈良坂巧が呼び止め、ジェスチャーを交えながら改善点を確認していた。

あるいはまた別の日の実戦練習。ゴール前のルーズボールに反応できず、そのこぼれ球を押し込まれる形で失点を喫すると、アラート不足を指摘する奈良坂の声が飛んだ。

「現状、自分たちがいるグループは序列の中で言うと、試合に出る可能性は少ないグループだと思う。だからこそ緊張感を持って、黒田剛監督やコーチングスタッフが求めることをやっていかないと。せっかく2人がスライディングで止めにいったのに、そのこぼれ球を決められるというもったいないシーンがあったし、立って見ている選手がいたことでの失点が気になったので、そういう話をしました」(奈良坂)

周りを指摘する以上、自分自身も咎められるようなプレーをするわけにはいかない。チームメートに対する指摘は自分自身への戒めであり、下手なプレーはできないと、自らにプレッシャーを掛けていることを意味する。奈良坂は言う。

「僕自身もプロ4年目。昨年はカマタマーレ讃岐で試合に出させてもらった立場だし、序列が下であることを受け入れながらどうやって上を目指すのか。先陣を切って、自分が出られるようになれば、ほかの選手のことも勇気づけられるので、そういう気持ちでプレーしています」

自らを高めるために、キャンプの練習から戻った宿舎ではその日のトレーニング内容を自分で分析するノートをつけることを習慣化。プロ入り後、続けていることだが、讃岐の米山篤志監督からはフィードバックならぬ“フィードフォワード”として習慣化することを奨励されてきた。

「自分には能力がないので、努力で補って生き残っていかないと。客観視しながら言語化して噛み砕けると少しずつ余裕が生まれると思いますし、その内容を後ろの選手として、前の選手に伝えることもできます。一個一個を潰していくことはヨネさんの影響が大きいですね。練習のことを振り返るというよりも、前に進むための振り返りだから、ヨネさんは“フィードフォーワード”と言っていました」

 

讃岐の米山篤志監督は、奈良坂の変化を一番近くで見てきた

 

ルーキーイヤーから目を掛けてきた讃岐の米山監督は、町田のコーチとして指導し始めた頃の奈良坂のことは「素人」にしか見えなかったが、昨季限りで讃岐を離れる際は「一人前」になろうとしていることに目を細めていたという。“米山チルドレン”として勝負を懸ける町田4年目。初の対外試合である名桜大戦はCチーム相当のグループでのプレーだったが、「今の序列を真摯に受け止めて一つずつ序列を上げていく」ことに集中している。

「このチームはレベルも強度も高いし、成長するチャンスが転がっている」と奈良坂。“最後尾”からの逆襲は覚悟の上だ。

Photo&Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)

 

試合に出ることで一回りも二回りも逞しくなった

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