「ゼルビアTimes」郡司聡

【コラム】J2第7節・モンテディオ山形戦/リーグ最少失点タイ。堅牢なる守備、問われる真価

■明治安田生命J2リーグ第7節・4月9日(土)13:00キックオフ
NDソフトスタジアム山形/5,320人
モンテディオ山形 0-1 FC町田ゼルビア
【得点者】町田/9分 鈴木孝司(PK)

▼守護神の実感

強風が吹き荒れるコンディションの中、FC町田ゼルビアのイレブンは前半、風下に立たされた。6戦未勝利のホームチームは、その風上の状況に乗じて立ち上がりからパワーをかけてアウェイチームに襲いかかる。モンテディオ山形のファーストシュートは6分。素早いリスタートを出発点として、左サイドから高木利弥の上げたクロスボールにディエゴ・ローザが頭で合わせた。シュートはゴールの枠を逸れたが、町田のCBカルフィン・ヨン・ア・ピンが「最初の10分は山形が攻め込んできた」と振り返ったように、風上に乗った山形が序盤は攻めのリズムをつかんでいた。


しかし、終わってみれば鈴木孝司のPKによる“虎の子の1点”を守り切った町田が敵地で勝利の凱歌を轟かせている。山形の石崎信弘監督は、「不運なPKを取られて、自分たちのリズムが狂ってしまったんじゃないか」と試合後の会見で述懐したが、チーム最後尾で山形の攻撃と対峙した守護神・高原寿康はこう言って胸を張った。

「ほとんど自分の出番がなかった」

山形戦の最終ラインは実に安定していた。山形の攻撃陣をオフサイドの網にかけた回数は4度。事前のゲームプランとして、町田の最終ラインの背後を突く意識を持っていた山形の攻め方が影響した部分はあったが、「しっかりとラインをそろえてオフサイドを取れていた」(高原)。たしかにまだまだ時折ヨン・ア・ピンがラインの後方に残ってしまう場面はあった。しかし、チームメートは「(個で対応できる)彼の持ち味を出すためには仕方がない。それで前向きなプレーができれば良い」(高原)と、彼の動きを許容している。

最終ラインが安定していた背景には、忠実なチームコンセプトの実践が隠されている。サイドからのクロスボールに対しては、反対サイドのSBが忠実にポジションを中央に絞ってクロスボールをはね返し、サイドの攻防では両SBの個の対応を含めて、相手をそれほど自由にさせず。クロスボールに対しての絞った守備は、SBに与えられた基本的使命である。

また、山形の攻撃の一つのポイントだった左ウイングバックの高木に対しては、「自分も攻めることはできなかったけど、仕事はさせなかったと思う」と振り返った右SBの三鬼が粘り強く対応した。ウォーミングアップエリアで試合を見つめた山形・田代真一は、元同僚で弟のようにかわいがっていた三鬼の奮闘に、「気合が入っていたし、しっかりと守備で対応していた」と目を細めている。

カウンターへの対処も徹底していた。55分には自チームのCKのチャンスから相手のカウンターを食らう展開となったものの、この場面では8人が自陣へ猛然と帰陣し、最後はローザの突破を三鬼が食い止めている。「みんな走らないと使ってもらえない」と土岐田洸平。フルコートでの3対3など、日々のトレーニングで鍛え上げられたチームは、誰もがサボらないハードワークの徹底という哲学を貫き通している。

もちろん、無失点勝利はディフェンスラインだけの功績ではない。指揮官・相馬直樹監督は、「ディフェンスラインだけでなく、前線の選手が出し手のところでのボールを制限できていることが大きかった」とチーム全体での守備に対して称賛の言葉を残した。

▼真価が問われる次節・千葉戦

6戦未勝利と不振に陥っている山形が相手だったことは差し引く必要があるだろう。とはいえ、1トップ2シャドーを基本軸に、前線の3枚がポジションをローテーションしながら攻めてきた山形は「重厚感のある相手だった」(相馬監督)。終盤の79分には相手の隙を狡猾に突く元日本代表FW大黒将志が投入されるなど、疲れた時間帯に神経を使う選手がピッチに入ってきたことは、外から見るほど単純な状況ではなかった。もちろん、逃げ切り態勢をより強固にするために、92分に高さのあるキム・ソンギをボランチに配置し、フォアリベロ的な役割を与え、相手のロングボールをはね返すための用兵で指揮官は勝利への執念を見せた。そうした勝利への執着心が無失点勝利へと結実する一つの要因となった。

「昨季までのベースがあるから、大崩れはしないと思う」

昨年のシーズン終了後、J2での戦いに自信を見せていた土岐田の言葉を実証するかのように、山形戦の無失点勝利により、7試合3失点と1試合平均失点は0.5点を割った。首位を走るセレッソ大阪と並んでリーグ最少失点タイもキープしている。

“守り切るためのスイッチ”が入ったときの町田は、ここまで強さを発揮している。ただし、「まだ研究されていない」(土岐田)町田の攻略法は現状、ボールサイドに人数をかけてボールを奪う守備戦略に対して、ボールサイドに相手を引き出し、サイドチェンジで手薄な反対サイドを突く形ぐらいしか露見しておらず、百戦錬磨の相手がそろっているJ2リーグでは、いつ新たな攻略法のモデルケースが誕生してもおかしくない。もちろん、「今後は4バックのミスをなくしていかなければならない」とヨン・ア・ピンが話すように、まだまだ突き詰めるべきことも少なくない。

それでも、ディフェンスリーダーである深津康太が負傷で離脱している中、たとえメンバーが代わろうとも、“相馬ゼルビア”の強固な守備は健在のままである。まさに“難攻不落の守備力”が、5連勝中の町田を根底から支えている。次節は5位・ジェフユナイテッド千葉とのアウェイゲーム。船山貴之や井出遥也ら、機動力のあるアタッカーをそろえる千葉を相手に、町田の守備力の真価が問われる。

Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)
Photo by ©FC町田ゼルビア/春木睦子

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