「自分の中にある活力を一番引き出してくれるのが横浜F・マリノスのエンブレムなんです」 [朴一圭インタビュー(前編)]
【朴一圭選手インタビュー(前編)】
インタビュー・構成:藤井 雅彦
横浜F・マリノスのゴールマウスを守る覚悟とは――
約5年ぶりに戻ってきた朴一圭は、人一倍強い思いでピッチに立ち続けている。
「自分の中にある活力を一番引き出してくれるのが横浜F・マリノスのエンブレムなんです」
ここまで公式戦全試合にフル出場し、先日のガンバ大阪戦ではファインセーブの数々でリーグ戦初勝利をもたらした。
しかし、遡ってみるとかつて在籍していた時期は知られざる苦悩があったという。
「いつも不安に駆られていて、このエンブレムを背負うのが重かった」
もがき、苦しみ、それでも戦い抜き、ついにJ1リーグ制覇を成し遂げた。
その裏にあった守護神の葛藤と努力が、いま明かされる。
(以前の在籍時代は)自分がこのチームを引っ張るという強い気持ちは持てていなかった。あくまでも11人の中の1人でしかなくて、主人公ではありませんでした
今年からF・マリノスに戻ってきて、毎日がめちゃくちゃ充実しています。
この刺激をずっと求めていました。ピリッとした雰囲気と、自分が安泰ではない感じ。ちょっと気を抜いて隙を見せると、すぐに足元をすくわれる。ポジション内の序列どうこうではなく、常に自分の良さや、結果を出し続けないと、ふるいにかけられてしまう。それが僕にとっての横浜F・マリノスというクラブの価値で、ものすごく心地良い日々を過ごしています。
2019年に在籍していた時は運良くチャンスを掴めて、夏に(飯倉)大樹くんが移籍したこともあって、アンジェ(ポステコグルー元監督)が僕をずっと試合に使ってくれてJ1リーグ優勝という結果を出せた。
あの頃、本当は重圧に押し潰されそうになりながら、必死に耐えながら試合を戦っていました。J3リーグのFC琉球から個人昇格したばかりなのに、状況や仲間に恵まれて結果を出すことができた。それによって周りからの目が変わってきたことに対して、自分の心・技・体がまったく追いついていませんでした。
2020年は外国籍選手枠の問題でACLのピッチに立てなくて、チームとしてはカジ(梶川裕嗣/現・鹿島アントラーズ)が良いパフォーマンスを見せて好スタートを切りました。
でもJリーグの開幕戦は自分のミスから失点して、ガンバ大阪に1-2で負けてしまって……。
ものすごくプレッシャーを感じている時期でした。もしかしたらキャパシティオーバーだったのかもしれない。実力以上のものを追い求めて、空回りしていたような気がします。
いつも不安に駆られていて、このエンブレムを背負うのが重かった。全体練習に加わるのも怖かった。GK練習の時は何も考えずに、個のスキルを伸ばすメニューに取り組めていたけれど、フォーメーションやビルドアップの練習では全体の一部になる。チームのみんなと一緒にプレーする時はパニックに近い状態に陥ったり、不安を持ちながらやるシーンがいくつもあった。それをなるべく見せないように背伸びをしていました。
GK練習は自分のことだけを考えてやれて、シゲさん(松永成立GKコーチ)もそれを助けてくれました。あの当時、練習をやっていて一番充実しているというかサッカーが楽しいと思えるのはGK練習の時間だけでした。
試合では虚勢を張りながらゴールマウスを守っている状態で、自分がこのチームを引っ張るという強い気持ちは持てていなかった。あくまでも11人の中の1人でしかなくて、主人公ではありませんでした。
その後は、コロナ禍の影響でシーズンが中断になって、自分自身も怪我をしてパフォーマンスが上がらなかった。そして秋にサガン鳥栖へ移籍することになりました。
チームを離れる時に決心しました。いつかもう一度、横浜F・マリノスのエンブレムを付けてピッチに立つ、と。でも同じような精神状態や実力で戻ってきても、きっと同じような結果が待っているだけ。だからしっかりと力を付けて、進化して戻ることを決めたんです。
力を養って、いつか戻るチャンスがあったら戻りたいと思って、その瞬間瞬間を120%の力で生きてきた。戻ってきてシゲさんに褒められたいと思っていました
サガン鳥栖での4年ちょっとの時間は自分にとって本当に大きかった。それを実感したのは、今年F・マリノスに戻ってきて最初の数日でした。
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