【サッカー人気4位】【激論・浦和編】沖縄キャンプで見る浦和の期待と不安(10)…

You’ll Never Walk Alone Magazine「ユルマガ」

【VS北海道コンサドーレ札幌】俵積田の同点弾を陰でアシストしたバングーナガンデ佳史扶の好判断と成長 「今の東京の武器を前で使いたかった」

 

6 J112節 北海道コンサドーレ札幌 1-2 FC東京(札幌ドーム)

 

 認識をあらためなければいけない選手がいる。リーグトップの攻撃力を支えているのは、もしかしたら彼なのかもしれないと、そう思わせるだけの価値あるプレーぶりだった。この日、俵積田晃太が挙げた同点弾の陰には、バングーナガンデ佳史扶の隠れたお膳立てがあったのだ。

 

 この一戦は前半5分に先制を許したことで、早々に追いかける展開となった。ただし、そこからチームは、まず失点を最小限に食い止めてゲームを推移させることを選択する。守備時は4-4-2でブロックを組み、攻め残る相手をしっかりと管理下に置いた上で反撃の糸口を探した。

 

 その流れの中で、仕掛けた選手がいた。それが左サイドバックに入っていた佳史扶だった。

 

「あの失点はアクシデント的なところもあったし、個人的にもやれてない、やられているという気もしなかった。失点してもピッチの中も、『全然いけるでしょ』という雰囲気があった」

 

 ここ数年、FC東京の選手たちは失点すると、ガクッと気落ちすることが多いと言われ続けてきた。その最たる一人に数えられていた佳史扶は、まるで腕まくりをするかのように失点直後から好戦的なスタイルを見せ始める。

 

 札幌ドームの記者席からピッチを俯瞰して見ると、4-4-2のブロックはキレイに並んではいなかった。左ウイングの俵積田だけが少し前目に攻め残るようなカタチを取っていたのだ。元々、攻撃時は左肩上がりになることが多いのだが、それが妙に気になった。

 

「左ウイングには(遠藤)渓太君だったり、(タワラ)俵積田晃太だったり、強力な選手がいる。その選手と左サイドの攻撃をどう組み立てるのかをキャンプから試行錯誤しながらいろいろやってきた。そのなかでアンダーラップの動きや、中央でボールを受ける動きはまだつかみきれていないけど、試合をやりながらコーチ陣と自分でも分析していろいろ試しながらやっている」

 

 その一つが、あの不揃いなブロックのカタチにも表れていたという。佳史扶はこう続けた。

 

「タワラを(守備で)下げすぎたくはなかった。逆に、そこで僕が21の状況でタワラにボールをつけられたら前にガッと行ける。それはスカウティングでも話していたことだったので。そういうこともあって、下げたくはなかった。それに、自分でも2枚見られるという感覚もあったので」

 

 その言葉通りアクシデント的な失点こそしたが、それ以外の場面で佳史扶の守備での存在感は絶大だった。対面する選手の自由を奪い、数的不利な状況でも水際で食い止める場面が目立った。

 

「途中交代するまでのプレーは個人的に満足するまではいかないけど、守備のところは良かったと思う。相手の特長としてミーティングでも近藤友喜君の名前は出ていたので、そこに勝てたのは良かった。1失点目はアクシデントで取られたけど、それ以外ではやられなかったと思う。そこはいい収穫だったと思う」

 

 

 そして、それが実った。前半26分、右サイドにつくりを任せ、自身は中央寄りのポジションをキープする。俵積田は前線の高い位置に張り出すように配置し、逆サイドの崩しを信じた。長友、安斎とつなぎ、ディエゴオリベイラが3人目の動きで抜け出した高宇洋に速さ、タイミングも絶妙なスルーパスを届ける。それを見た俵積田は「スピードはオレのほうが速いと思っていたので、走り勝つことだけを意識していた」と、かけっこの勝負を仕掛ける。完全に相手DFの一歩前に出ると、高からは「トップスピードに乗りながら足を伸ばせばというちょうどいいところに来た」という完璧なボールが届いた。それを左足を伸ばし、試合を振り出しに戻すゴールネットを揺らした。

 

「(自分のサッカー)人生でもあんまりなかったカタチ。ああいうカタチを増やしていきたい。自分からアシストもできて、(クロスに対して)ゴールもこういうゴールも奪えるようになったら相手にとっては怖い選手になれる。こうして点に絡めているのは去年との違い。より成長してきていると思う。これに満足せずにやっていきたい」(俵積田)

 

 そう後輩が一歩成長を遂げたと、感じられる働きができたのも、後押しした佳史扶の存在なくしては語ることはできない。なぜなら佳史扶は守備に専念していたわけでも、攻撃参加を自重したわけでもないからだ。俵積田が挙げた得点の場面も、あわよくば自身も得点しようとゴール前に詰めていた。攻守でフルパワーを使い、疲労の色はいつもよりも濃かったという。だが、その表情には達成感がにじんだ。

 

「前半、相手のポジションとこっちのポジションの兼ね合いもあって、2枚を見ているカタチも多かったので。前半はいつもの倍ぐらいの疲れはあった。でも、行けるところまで行こうという話をコーチともした。僕自身後半もプレーしたかったので、最後は無理をせずに交代というカタチになった。本当に楽しめました」

 

 この日は殊勲の途中交代となったが、「あのゴールを陰でアシストしたのは佳史扶だよ」と伝えると、いつもの笑顔でこう口にした。

 

「そう言ってくれるとありがたいですけど、タワラは前で生きる選手。今の東京の武器であることは間違いない。その力を前で使いたかったので。守備のところでは自信になった試合ですけど、まだ完璧にできているかというと、そうじゃない。ただ、やってきたことは間違いじゃないんだと確認できた。そこは本当にいい収穫だと思う」

 

 

 周りの先輩たちの陰に隠れ、遠慮がちにプレーしていた姿が懐かしく思えるほど、見違える姿になってきた。自身もここにきてさらなる成長を実感しているという。

 

「試合を重ねるごとに課題は出ているけど、やれることも増えている。自分の中でも変わってきたというプレーが出せているのはプラスだと思う。去年と比べて数字も出せている。かといって、試合を見返すと、まだまだここで入っていけるというシーンもある。そこができるようになったら、より結果を出せると自分でも思っている。だからこそ、より求めていきたい」

 

 パリ五輪アジア最終予選を兼ねたU-23アジア杯のメンバーには招集されなかった。荒木遼太郎、野沢大志ブランドン、松木玖生がアジアを制し、パリ五輪行きの切符をつかんで帰ってきた。一方で、佳史扶は「自分は目の前のことを全力でやるだけ」と言い続け、そのなかでも確かな成長を遂げられることを証明してみせた。

 

「目の前のことをやっていけば、おのずと見えてくるモノがある。まずは東京でより結果を出すことにフォーカスしていきたい」

 

 もしも、あのプレーを90分間維持し、このまま得点にも絡み続けるのならば……。そのときは、きっと日の丸や世界が放っておかない。そういうレベルのプレーを見せ始めたのだ。確実に、佳史扶は次のレベルのドアを開けようとしている。

 

 

text by Kohei Baba

photo by Kenichi Arai

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ