「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料記事】【プレイヤーズコラム】栃木SC 前節突如訪れたチャンスで勝利に貢献した坂田良太、そして試合後は震災後初めて熊本へ。

突如訪れたチャンスで冷静にプレー

 

前節のC大阪U-23戦の前半16分、CB広瀬健太が負傷離脱し、出番は突然やってきた。

緊張していた。冷静に、冷静に、と心のなかでつぶやきながらピッチに入ると、周りにいるベテラン勢、尾本敬、山形辰徳、菅和範らが手を叩きながら坂田を迎え入れてくれた。

 

「オモさんもノリさんも声をかけてくれて、あと菅さんが『お前、この日のために練習してきたんだろ?』と声をかけてくれたんです。そうだよな、このときのためだよなって。そういう思いを再認識しているうちに冷静になれました。そうそう、一番後ろから吉満も、大丈夫だぞ、と言っていましたね。なんかあいつ、風格が出ちゃってて、すごく落ち着いているんですよ()。でも、安心感がありました」

 

突如訪れた試合出場のチャンス。坂田は、

(自分らしく、ヘディングでリズムを作ろう)

と、意識しながら入った。

相手の対応で簡単に中へ行かせてしまうシーンもあるなど反省点は多々あった。

だが、求められたのは結果。チームにとって今季初となる連勝が懸かるなかで、仲間たちとともに身体を張り、そしてゼロに抑えた。試合後はこの上ない安堵感が胸に広がった。

 

実は、試合前の時点で地元熊本に帰ることを決めていた。試合後の月曜と火曜は二日連続オフの予定だった。4月中旬の震災が発生して以来、実家にいる両親からは「帰ってこないでサッカーに集中しなさい」と言われ続けていた。現地の混乱も徐々に落ち着きを見せて、ようやく帰るタイミングができたのだ。

そのため、試合当日は荷物をまとめてグリスタ入りをしていた。観戦席で見守る妻とともに、試合後すぐに熊本に旅立つ予定だった。

そんな折に突如訪れた試合出場の機会。そして今季初となる連勝劇にピッチのなかで立ち会った。

「こういうこともあるんだなって。試合に勝って、連勝を果たして。熊本に帰ったら両親も家族もすごく喜んでいて嬉しそうだった。少しはいいお土産になったのかなと思います」

この二日間は、久しぶりに熊本の家族とともに水入らずの時間を過ごした。震災が発生したあと、初めて家族の顔を見ながら過ごす安堵のひとときだった。

 

長く住んだ熊本県益城町はいたるところで家屋が倒壊したままで、二階建てのアパートが一階だけの状態で野ざらしになっていた。自分が知っている風景とはかけ離れたものばかりだった。

「改めて自分の目で確認したときは衝撃だったし、正直辛かった。今、こっちではニュースがなくなって風化されてきているけど、ここからが復興に向けて大変なときだし、これからも個人として考えて行動していきたいと思っています」

 熊本を出て、そして栃木に戻ったとき、自分がサッカーができるのは当たり前ではない、と思いを新たにした。これからも熊本の復興と、栃木SCで活躍するために邁進していく。その思いが強くなった。

 チームは2連勝、そして6戦負けなし。今季が開幕して以来、一番の上り調子のときを迎えている。

「熊本もそうだけど、チームもこれからが大事。練習から必死になってアピールして、チームに少しでも貢献できるように、そして優勝できるように全力で頑張ろうと思います」

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