【無料記事】北風と太陽……2025-J1第2節・岡山戦(H) マッチレビュー
▼風が味方したソロモンのゴール
逆に後半は横浜FCが、「追い風になったことで攻める時間が増え、チームとしての狙いを出せる時間が多くなった」(四方田修平監督)。今季レノファ山口から移籍してきて初先発となった新保海鈴は、期待された最後のクロス以外は前半から上々のパフォーマンスを見せており、福森晃斗、鈴木武蔵に、さらにジョアン・パウロも時折り加わって、後半開始から左サイドで圧力をかけ続けた。これが今季初ゴールの伏線となった。
もともと昨季から、左サイドでボールを保持して相手を寄せて右に展開するのは、横浜FCの得意パターンである。57分、左サイドから戻されたボールを、市川暉記が大きく右サイドに蹴り出したとき、岡山の選手たちの意識は完全に(横浜FCの左サイドである)右に集中していた。さらに追い風で伸びたボールが岡山の左ウイングバックの裏に出て、追いついた山根永遠がワンタッチでクロスを送る。ただ、手前で大きくバウンドしたボールに合わせるのは難しく、山根のクロスは本人が認めるように「ミスキック気味」で、ゴール方向に飛ぶには飛んだが、ボールは上空に高く舞い上がった。
逆にこれが横浜FCに幸いした。GKが処理できそうなボールにも思えたが、風でどう流れるか読みきれなかったのか、それともゴール前で櫻川ソロモンをマークしていた田上大地に任せる判断だったか、飛び出しかけたブローダーセンは足を止めて後退。ソロモンと競り合っていた田上も、風で目測を誤ったかソロモンに体を抑えられてか、頭に当てられずボールをバウンドさせてしまった。田上と入れ替わったソロモンはフリーでヘディングシュート。これは目の前のブローダーセンの正面に飛んだがキャッチまではできず、こぼれたボールを再びソロモンが右足で押し込んで横浜FCが先制した。
▼逆光のピンチをしのいでクリーンシート
開幕のFC東京戦では相手にそれをやられてしまったが、粘り強く守りながら一瞬の隙を突いて得点するという、横浜FCにとって願ってもない展開に今度は持ち込んだ。岡山は64分に一美和成を投入してルカオと2トップにし、江坂をトップ下でプレーさせるが、流れを好転させるには至らない。終盤は必死の岡山のクロスが横浜FCのペナルティエリアに入る本数も増えたが、横浜FC守備陣も体を張ってチャンスを作らせない。
岡山の決定機は試合を通じて一度だけ。87分、岡山はスローインからクロスを放り込むが、山﨑浩介のクリアが小さくなってしまったのは太陽が目に入ったのかもしれなかった。岡山がこぼれ球を拾ってゴール前の一美和成の足元に入れる。しかし反転して一美が放ったシュートは、クロスバーに弾かれてゴール裏に消えた。90+1分にボニがハイボールにかぶってブラウン・ノア賢信にシュートを許し、90+3分には再びロングボールの処理でボニがペナルティエリア手前でハンドを取られた場面もあり、これらももしかすると太陽が目に入ったのかもしれないが、岡山の得点にまでは結びつかず、横浜FCが開幕2試合目で今季初勝利を手にした。
「お互いに似たようなチームだったので、どっちが先にボロが出るかみたいな感じでした」という山根永遠の言葉が、この試合を最も正確に言い表しているように思う。互いに堅守をベースにした固い展開で、互いに決定機は一度しかなく、しかも風や日差しの影響などで偶発的に決定機に至ったもの。横浜FCは決めて、岡山は外し、勝負はそれで決した。
▼初勝利で勢いを持って横浜ダービーへ
ただこの試合で横浜FCは、開幕戦では見られなかった、キャンプから取り組んできたポケットを取る攻撃のチャレンジが何度か見られたし、『3人目(の動き)』による崩しも数は少ないが見ることができた。ボニ→市川→山根で岡山の裏を取った得点直前のプレーは、アタッキングサードの局面ではなくピッチ全体を使って、山根が3人目でポケット(の少し外側)を取ったとも言える。
攻撃では収穫が見られた。しかし守備では、粘り強く無失点で抑えたものの、最後に与えた決定機は外してくれて助かったというレベルで、「一瞬の隙を与えない」(ンドカ・ボニフェイス)という開幕戦での反省はクリアできなかった。そのシーンに限らず、昇格チームである岡山(横浜FCもそうだが……)のクオリティに助けられたところは大きかった。そのクオリティを担保するはずの江坂任が、まだ岡山に加入間もないためか、特に前半は試合からまるで消えていたことも横浜FCには幸いした。
ともあれ「最初の勝利が本当に難しい」(四方田監督)のは確かで、2年前のJ1では初勝利をつかんだのは第11節だったし、その前の21シーズンは第14節までかかったことを思えば、第2節での勝利は本当に喜ばしい。まして開幕黒星で迎えたこの試合、同じ昇格組でJ1初挑戦の岡山に勝てなければ残留を達成する自信を持てなくなるところだった。「大きい勝利だった」と選手たちは口をそろえ、「ホッとした」と安堵の表情を見せた。次にやっても同じように勝てるとは限らないが、とりあえずリーグの中に「勝てる相手がいる」という事実は大きい。岡山は似たタイプのチームだけに、岡山に負けたチームがあることも気分を明るくしてくれる。
さあ次は中3日でマリノスとの横浜ダービーだ。その後も広島、町田、セレッソ、名古屋、神戸と強豪やビッグクラブとの対戦が続く。厳しい道のりになることは確実だが、もともと我々はチャレンジャーなのだから、臆せず立ち向かっていこう。
(文/芥川和久)