「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

【無料記事】藤井雅彦『鹿島戦戦マッチレポート』(2012/09/27)

戦う集団となって

(マリノス)
[4-2-3-1]
.         マルキ

齋藤  中村  小野

兵藤  熊谷

ドゥトラ 富澤 青山 小林

.           榎本

(鹿島)
[4-4-2]
.     興梠  大迫

レナト    ドゥトラ

.     柴崎  小笠原

新井場 青木 岩政  西

.          曽ヶ端

鹿島アントラーズがこれだけミスの多いゲームも珍しいのではないか。本来はそれとは対極に位置するチームであるはずなのに。近況について詳細は知らないが、あれだけ中盤や最終ラインのプレーヤーがミスをすれば、流れを手放して当然だろう。特にボランチの柴崎岳は明らかに精彩を欠いており、ボールロストの連続に陥った。
それはあろうことかゴール前にも伝染し、マリノスの先制点は相手守備陣の連係ミスである。ゴールまでかなり距離のあるFKの場面で中村俊輔がゴール前にボールを送ると、緩慢なマークの隙を突いてマルキーニョスがヘディングで合わせる。強い弾道にはならないシュートはゴールマウスを襲うとGK曽ヶ端準は安易なボールタッチでキャッチしきれず、これがDFと重なり、こぼれ球が熊谷アンドリューの足元にこぼれてきた。かつての王者が低迷し、いまの順位にいるのも頷けるワンシーンであった。

そういった相手の不調を差し引いたとしても、マリノスの奮闘は称えられるべきだろう。この試合は中澤佑二と栗原勇蔵という守備の二枚看板を欠いていた。前者は前節の浦和レッズ戦で打撲した右太ももの状態が万全ではないため遠征に帯同せず、後者は首痛で試合当日に欠場と判断された。今季ここまでリーグ戦フルタイム出場を続けていた両者だっただけに「守備の再構築が必要だった」(樋口靖洋監督)。さらに言えばこの試合ではGKを飯倉大樹から榎本哲也にチェンジしており、チームを支える守備の3選手が入れ替わっていた。そのため落ち着かない立ち上がりとなった印象は否めない。

チームを立て直したのは富澤清太郎だった。マリノス加入後はボランチの主力としてプレーしていたが、彼本来の良さが出るのはやはり最終ラインだ。実際、開幕前の宮崎キャンプではレギュラーCBを上回るパフォーマンスを見せていた。味方を動かすコーチング能力に長け、ヴェルディ時代は主将を務めていたように責任感も強い。「いまも声が出ないように、叫び続けた」と話したのは試合直後で、声はすっかり枯れていた。そのことが富澤の奮闘ぶりを物語っている。立ち上がり萎縮していた青山直晃を懸命に鼓舞し、時間経過とともに立ち直らせたことが隠れた勝因でもある。

富澤が入った効果がほかにもある。強気なラインコントロールを見せたことで、中盤はしっかりプッシュアップし、ボールホルダーへのプレッシャーを怠らなかった。最近は低調なプレーが続いていた兵藤慎剛は水を得た魚のように守備で本来の良さを発揮し、ルーキーの熊谷も狙いをもったボール奪取を披露。中村俊輔に「アンドリューはボランチの一番手と言ってもいいくらい」と言わしめた。前線でも、別コラムで述べたようにマルキーニョスが鬼神のごとくプレスに走り、両サイドの小野裕二と齋藤学もそれに呼応。中村俊輔も懸命のプレスバックで身を投げ出した。

相手をパスで圧倒する華麗なサッカーではなかった。チームコンセプトの達成度はお世辞にも高いとは言えない。だが、この日のマリノスには勝利への執念があり、それこそがここ最近のチームに足りなかった要素ではないか。中村がゴールを決めた瞬間、ピッチでは選手がそれぞれの方法で喜びを爆発させた。あえてベンチに走った小野が「どこに行けばいいのかわからなくて、とりあえずマルキのところに行った。そうしたらマルキがいなかった」というエピソードは取材していて、とても微笑ましい一幕であった。

洗練された組織ではなくても、戦う集団になっていた。そうやって勝利を手にした鹿島戦を今シーズンの分岐点にできるか。残り8試合にすべてがかかっている。

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