「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

シュート数23対3。 内容としてはマリノスが勝つべくして勝った試合である  [天皇杯 長崎戦レビュー] -無料記事-

 

喜田拓也の投入を契機に

 

ダブルボランチを組んだ榊原彗悟と山根陸がマリノスの明るい未来を感じさせるパフォーマンスを見せた。

 

 

 

「自分と(山根)陸が中心になれたらと思っていて、いいコントロールはできていた」と手ごたえを語ったのは榊原だ。両選手の特徴として、安易にボールを下げない。最初の選択肢を前、それができない時にも斜め前、次に横を選ぶ。攻撃を停滞させないゲームコントロールでV・ファーレン長崎陣内に攻め込んだ。

 

 

 

 

加えて榊原は64分の交代までにシュート4本を記録。ミドルシュートだけでなく、ペナルティエリアに侵入していく動きでゴールを狙い、決定機にも顔を出す。山根も序盤に力強いミドルシュートを放つなど、得点への意欲も高かった。

 

 

 

 

惜しかったのは、ポゼッションでのボールロストとフィニッシュを決めるか、決めないかの部分。榊原が「簡単なミスがあるのと、最後仕留めるところの精度はまだまだ」と反省を口にしたように、良いパフォーマンスを素晴らしい結果に結びつけるところには達しなかった。

 

 

 

彼らのプレーエリアを確保するために奔走したのがトップ下に入った天野純だった。試合途中までは後輩ふたりが良さを出せるように黒子に回った印象が強い。役割分担としては正しかったのだろうが、先輩として気を利かせたことで相手に与える怖さや脅威は半減したかもしれない。

 

 

 

それが喜田拓也の登場によって流れが変わる。榊原に代わって喜田がボランチに入ると、天野は自身のエゴを全開にしてゴールを目指した。「純くんの良さも分かっているし、何をしたいかも分かっている。そういう仕事に専念させればいけるというのは肌感であった」と喜田。目立たないポジショニングと周りを動かす声掛けが徐々に効いていく。

 

 

 

 

すると背番号8の投入から3分後、天野に同点ゴールが生まれる。アシスト役の右サイドバック加藤蓮を高い位置に押し上げたのも喜田だった。さらに後半アディショナルタイムに西村拓真と植中朝日にゴールが生まれて劇的勝利。シュート数は23対3。スコア推移や得点の時間帯だけ見ると非常に苦しい試合だったが、内容としてはマリノスが勝つべくして勝った試合である。

 

 

 

 

水沼宏太と喜田拓也が小池龍太を語る

 

 

 

 

立ち上がりからの好内容を水沼はこのように振り返った。

「素直に前半めちゃくちゃ楽しかった。押し込んでいる中で点を取れていればチームはもっとラクにできたけど、違う展開になったと思う。でもボールを握って、いろいろな動きと崩し方があって、いろいろな攻撃ができた。自分たちの良さ、出ていた選手の良さが出ていたと思う」

 

 

 

 

楽しかった要因のひとつに、小池龍太の存在は見逃せない。

 

 

 

 

 

約4ヵ月ぶりの公式戦でも、人と人をつなげる役割を任せたら天下一品だ。ひとりで打開するわけではなく、鋭いクロスを供給するわけでもない。でも小池龍が入ることで、右センターバックと右ボランチと右ウイングが、つながる。そこにトップ下の天野もかかわり、ストライカーの植中朝日も絡む。気がつけばボールは相手ゴール前だ。

久しぶりの試合出場にも小池龍は過度に興奮することなく落ち着いていた。「宏太くんに楽しくサッカーをしてもらう、前の選手に楽しくプレーしてもらう、そこに自分はやりがいを感じるところ。自分自身が45分楽しかったので、それがすべて」と納得の表情なのだから頼もしい。

 

 

 

 

2022シーズン優勝時の縦関係が復活した水沼が小池龍の価値を語る。

「久々に帰ってきたので勝たせてあげたい、一緒に勝ちたいという気持ちがあった。そういう意味でお互いいつも通りやろうぜ、楽しもうぜという気持ちで臨んだ。特に何も言わなくてもあいつは自分に合わせてくれるところもあるし、僕もリュウ(小池龍太)の良さを生かせる部分があったと思う。後ろにいてくれて安心感があったし、感謝しています。帰ってきたのは間違いなく大きい。2022年から全力でやれていなくて、あそこで止まっている部分もあるかもしれないけど、またここから一歩を踏み出せたという意味で、マリノスにとってすごく大きなこと」

 

 

 

 

キャプテンの喜田も小池龍が苦しんでいる姿を近くで見てきたひとり。復帰についてコメントを求めると、とにかく嬉しそうだった。

「もう簡単に言葉にできない。彼の毎日の姿を見ていると本当に感じるものがあるし、彼はリーダーのひとりとして自分がどんな状況でもチームを助けてくれて、チームのための行動ができる。それは誰しもできることではないし、そういう彼の心の強さや体の強さ、意志の強さはチームにとってかけがえのないもの。それをピッチで見せられる状態になったのは喜びでしかない。すべてが解決ではないし、付き合っていかなければいけないものもあるだろうけど、サポートできることはする。彼のモチベーションにつながるような振る舞いができれば、彼自身は絶対にやってくれる。また大きな存在が帰ってきた、心強い存在が帰ってきた」

 

 

 

 

怪我との戦いが終わったわけではない。リバウンドなどの経過を慎重に見極めていく必要もある。ただ、それも公式戦のピッチに戻ってきたからこその段階だ。2024年8月21日は背番号13とマリノスにとって忘れられない日になった。

 

 

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