「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

大事なところで勝ちきれない理由 -[1st14節ガンバ戦レビュー] 藤井雅彦 -2,199文字-

 

誰が見てもラッキーな形での先制点だったが、少々強引でも相手ペナルティエリア内に入っていけばああいう事態が起きても不思議ではない。PK獲得は相手の日本代表選手がクリアミスを犯し、その次のタイミングでバウンドボールの処理をミスした。マリノスが前への圧力を強め、相手のミスを誘発したと言えなくもない。もちろん逆の展開もあるわけで、とりあえずはラッキーを受け入れればいい。

しかし、あの先制点によって戦い方は大きく変わった。強引に前に出る必要はなくなり、むしろ守備に軸足を4-3-2-1_2015置く戦いになった。時間経過とともに前がかりになっていく相手に対してカウンターパンチを浴びせるのが理想的な展開だったが、残念ながらマリノスはカウンターが下手だった。1-0のまま試合が推移し、するとラッキーな先制が勝ち切りたい試合に変わってくる。

震度4の地震による中断にも慌てることなく80分を過ぎ、いよいよ試合を終わらせる時間が近づいてきた。マリノスにとってその合図は富澤清太郎をピッチに送り込むタイミングだろう。83分、三門雄大に代えて投入され、兵藤慎剛を一列上げる。それは守備の強化を意味し、セットプレーを含む相手の高さへの対応策でもあった。その後にアデミウソンから伊藤翔にスイッチしたのも同様に高さを強化する意味合いがあった。

それなのにセットプレーから同点ゴールを許してしまった。この場面でマリノスは三つの失策を犯した。

 

https://www.youtube.com/watch?v=CsZtw4FdPZ4&start=174&end=203

 

一つ目は直接的な原因で、中澤佑二がパトリックに競り負けた。この日の中澤の出来は出色だった。だが、CBというポジションの性質を考えれば、一度のミスが許されない。この場面はミスではないが、客観的事実としてパトリックが先にボールに触れ、それがゴール方向に飛んでいる。つまりシュートを許したわけだ。レベルの高い話になるが、いかなる理由があろうとも先にボールに触れたかった。パトリックだから仕方ない、あるいはそれまでの中澤が良かったから、といったレベルの話ではなく、あのシーンだけを切り取ったハイライト番組なら、非は中澤にあるのだろう。

G大阪4-4-2 二つ目はセットプレーそのものを与えてしまったこと。左サイドでスローインのボールを受けた宇佐美貴史は囲まれているにもかかわらず突破を選択。その思い切りの良さに意表を突かれたのか、数的不利なのに兵藤は背後から宇佐美を倒してしまった。明らかなファウルだった。兵藤はそのシーンを「いらないファウルだった」と述懐しており、同時に猛省していた。突破されたら、という“たられば”もあるが、数的有利な状況と場所を考えればファウルは必要なかったと考えるべきだろう。したがって兵藤の判断ミスである。

最後に三つめは、ファウルの場面よりもさらに時計の針を巻き戻して、マイボールのタイミングだ。カウンターの流れで左サイドを抜け出した齋藤学は、コーナーキープではなくクロスを選択。このボールをGK東口順昭にキャッチされ、ロングフィードを蹴られてしまい、その後のファビオのクロスがスローインになってセットプレー献上へと続く。つまり齋藤のプレーはセットプレーを与えた遠因と言えなくもない。時間帯を考えればボールキープで時間を使う選択肢もあった。

まずはエリク・モンバエルツ監督の評から。

「二つの選択肢があった。(齋藤)学はそこで2点目を取ることを選んだ。サッカーがゲームであることを考えれば観客にとって良い選択だった。でもリアリズムという点では違ったかもしれない」

とても客観的で、口調は穏やかだった。続いてどこのメディアにも掲載されていない齋藤のコメントを独占公開する。といっても試合当日、齋藤は口を閉ざしたままミックスゾーンを通り過ぎたため、試合翌日に取材したコメントだが。こちらも指揮官同様に冷静に、そして意志の強い口調で話した。

 

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「あの判断が間違っていたとは思っていないし結果論でもある。自分がボールを拾ってから深い位置まで行けている。それにゴール前にも人数が入って、相手よりも枚数がいた。決めていればナイスクロスになった。責任を感じているけど、いろいろと問題があってそのうちのひとつということ。でもこのガンバ戦があったおかげで次の試合では選択や判断が変わってくる。次につなげないといけない引き分けだと思っている」

 齋藤の言うとおり原因は一つではない。しかし、である。先の二つが相手の攻撃に対してのリアクションだったのに対して、齋藤はアクション状態であり、自身の判断でプレーを変えることもできた。抜け出した際に一瞬でも冷静になる余裕があれば、クロスを止めてボールキープに方向転換できた。その技術はあるのだから。

誰かを戦犯に仕立て上げたいわけではない。だが、勝てないことには理由があり、この日の失点場面はしっかりと精査し、次の試合や未来につなげなければ意味がない。大事なところで勝ちきれない理由はマリノスの内に潜んでいる。

 

 

 

 

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