「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「肉弾戦」藤井雅彦 試合直前プレビュー 神戸戦

 

ここまでの引き分け数『14』は1シーズン制になってからのJリーグタイ記録だという。他チームと比較すると、この引き分け数は断トツに多い。負けないことは大切だ。内容はどうあれ、負ければ選手の士気は下がり、チームから活気と笑顔が失われる。するといつの間にか順位が下がり、気がつけば残留争いの渦中にいるクラブも少なくない。マリノスが残留争いと縁遠いのは、負けないからだ。何も今シーズンに限った話ではない。

思い返せば序盤戦、開幕から7試合勝ちなしと苦しんだ。だが、その間の負け数をわずか『3』にとどめていた。ここまで30試合を消化して負け数は『6』で、序盤戦を除けば夏場の3連敗しか負けがない。リーグ全体ではベガルタ仙台(5敗)に次ぐ負け数の少なさで、失点数はリーグで最も少ない。一方で得点数は全体の14番目と苦しんでいるために、勝ちきれない。齋藤学はインタビューの場で「15試合負けなしだったけど、あんなの勝ちきれなかっただけ」と吐き捨てた。終盤に追いつかれたゲームも数多く、取りこぼした感は否めない。

このヴィッセル神戸戦であまり嬉しくない新記録が誕生する可能性がある。相手は残留を目指し、死にもの狂いで臨んでくるだろう。その影響でリスクを最小限に抑えるサッカーを展開する可能性もある。戦前の予想では前線に田代有三と都倉賢を並べる布陣も試しているようで、このダブルハイタワーにロングボールを蹴りこんでくるかもしれない。そもそもホームズスタジアムのピッチコンディションはいつだって劣悪で、グラウンダーのパスサッカーには適さない。自然とハイボールを多くなり、「セカンドボール争いが重要になる」(樋口靖洋監督)。観戦者が爽快な気持ちになり、満足感に浸れる90分になる可能性は残念ながら低い。

おそらくは肉弾戦になるだろう。こういった性質を持つクラブは、現在のJリーグでは以外と少なく、思い当たるのはサガン鳥栖くらいだろうか。名古屋グランパス戦も肉弾戦の様相を呈することが多いが、決してロングボール一辺倒というわけではない。それは名古屋の中盤に個性のある選手が多いからだ。そういった点では神戸も野沢拓也や小川慶治朗といった稀有なタレントを抱えているのだが、彼らを生かしきることができていない。それがチームカラーというものだ。

マリノスは肉弾戦に弱いチームではない。中澤佑二、栗原勇蔵のCBコンビを筆頭に、富澤清太郎、兵藤慎剛といった選手は混戦で力を発揮する。特に球際の強さと運動量をウリにしている兵藤は、こういった試合で抜群の存在感を示す。小柄だからといって肉弾戦に弱いとは限らず、例えばインテルに所属する長友佑都は誰の目にも明らかな強さを有する。兵藤にも共通することだが、彼らは体幹が強く、簡単に倒れない。重心を低くしてボールキープする、あるいはチャージしてボールを奪う。ピッチコンディションが悪くてもなんのその、明日は兵藤の日になるかもしれない。

お互い守備に強みを持つため、どちらかといえばロースコアな展開が予想される。ワンチャンスを生かしたチームが有利となり、そのためには攻撃回数を一度でも増やすことが肝要だ。だからルーズボールや競り合いが鍵を握る。五分五分のボールをマイボールにできれば、勝機を見い出せる。チームとしての完成度を発揮できない場合は、個々の逞しさをベースに戦いたい。

なお、この神戸戦では大黒将志がベンチ入り濃厚となっている。拮抗した展開で、ストライカーのひと仕事を期待したい。

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