「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

マスカット監督は周囲に気を配れる性格で、いわゆるボスキャラとは縁遠い。 隣り合わせの監督室とコーチ部屋を行き来し、他愛ない会話でコミュニケーションも  [検証 : 2022シーズン優勝への軌跡 (2) 監督編]

 

歓喜はいかにして、もたらされたのか。

全3回に分けて、優勝の決め手を検証していく。

第2回の今回は、チームを優勝に導いたケヴィン・マスカット監督のマネジメントに迫る。

実質的には指揮を執ってからのファーストシーズンでこれ以上ない結果を出した指揮官。

大胆な采配に踏み切れた要因、それを支えた揺るがないこだわりとは。

 

 

 

 

マスカット監督2年目の変化

 

水沼宏太が変化を感じ取ったのは1月の宮崎キャンプ中のこと。

「ウイングのポジショニングに関しては、高さと幅を取ることがアンジェ(ポステコグルー監督)の基本線だった。でも今年に入って、ケヴィン(マスカット監督)の指示が去年から変わっていった。自由度が上がって、少し引いた位置や絞った位置を取るのがOKになった。これは自分にとって劇的な変化だった」

 

 

指揮官はビルドアップ時に選択肢を増やす動きを求めた。是非の話ではなく、方法論の問題である。前線の選手はボールを待つだけでなく、能動的に関わるアクションが増えていく。例えば、水沼の動き出しが合図となり、ボランチの喜田拓也がサポートし、右サイドバックの小池龍太が幅を取る。三角形の形と大きさを目まぐるしく変えながら、チームを前進させていった。

 

 

 

2021年の後半は、違った。ケヴィン・マスカット監督はあくまでもアンジェ・ポステコグルー監督のスタイルを継承するという任を引き継いだ。これはフロントが監督就任の際に出した条件で、クラブとしてのフィロソフィーにも関わり重要なタスクだ。

 

 

反面、自身の色を出す機会はどうしても減ってしまう。右腕となって動けるコーチングスタッフを招聘することもできなかった。ポステコグルー監督のセルティック行きはシーズン途中の突発的な出来事で、予算が限られていたからだ。

それでも2位でフィニッシュできたのは、ポステコグルー監督がしっかりとした土台を築き、松永英機が引き受けたバトンをしっかり手渡したから。その背景にあった強化部のサポートも見逃せない。そしてマスカット監督は及第点以上の仕事をこなし、新シーズンに臨んだ。

 

 

その最初のトライが、冒頭の変化である。ややマンネリ化しつつあったチームに新たな刺激を注入し、同時に前田大然という特徴的なピースを手放した影響も大きかった。現在の駒に合ったプロセスを作っていく必要に迫られたというわけだ。

 

 

 

マスカット監督はパーソナルの面で、コーチングスタッフの意見を尊重する姿勢も持っていた。周囲に気を配れる性格で、いわゆるボスキャラとは縁遠い。隣り合わせの監督室とコーチ部屋を行き来し、前任者と違って他愛ない会話でコミュニケーションを取る場面も珍しくなかったという。

これらのマネジメントは多くが吉と出る。指揮官が与えたヒントによって新鮮な血がマリノスの体内を駆け巡り、次なる一歩を踏み出した。

 

 

 

 

徹底したターンオーバーでシーズンを戦い抜く

 

しかしチーム運営は一筋縄ではいかない。

プレシーズン中にコロナ陽性者が大量発生し、その後は負傷者続出に頭を悩ませた。メンバー全員が出揃った日はシーズン終わりまで皆無に等しく、最後まで選手の出入りが激しいシーズンだった。

しかもワールドカップ開催やACLの集中開催により、開幕直後からいきなりの連戦を強いられる。

印象的な試合を挙げるとすれば、3月2日のヴィッセル神戸戦だろう。前節から連続先発したのは高丘陽平、エドゥアルド、アンデルソン・ロペスの3選手のみ。負傷と出場停止で8人を入れ替えた。

 

 

 

ヨコエク

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