「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「サッカーもたくさん学びましたけど、とにかく人として成長させてもらいました。 家族や学校という環境もありますが、F・マリノスが僕を変えてくれた」 [山根陸選手インタビュー(前編) ] (無料)

【山根陸選手インタビュー(前編)】

実施日:7月26日(火)

インタビュー・文:藤井 雅彦

 

 

背筋をピンと立て、どんな場面でも慌てずボールをさばく。

相手をいなす柔らかいボールタッチと的確なターンはまさしく芸術品。

その様子は“エレガント”という表現がよく似合う。

山根陸がユースからトップチームに昇格し、約半年が経過した。

順調そうに見える活躍にも、本人は決して満足していない。

さらなる高みを目指す俊英が、ここまでの歩みと週末の鹿島アントラーズ戦についておおいに語り尽くした。

 

 

 

 

ピッチに立ったら年齢は一切関係ありません。プロになった瞬間から、ひとりのサッカー選手として扱われていると自覚しています。

 

――プロ1年目のシーズン真っ最中ですが、ここまでリーグ戦9試合に出場し、そのうち先発は4試合。445分のプレータイムを記録しています。満足度はいかがでしょうか?

「シーズン開幕前は、公式戦に出場できるのかまったく分からない立場でした。キャンプなどのプレシーズンを過ごした感想としても、自分の実力が足りないと感じる部分も多かったのが正直なところ。出場した試合数や時間を考えたことはなかったですが、今それを聞いて、想定したよりも試合に出ているな、という実感があります」

 

 

――数字の面では合格点に達している?

「公式戦に絡めているのは良いことだと思います。でも内容やパフォーマンスには満足していません。プロサッカー選手として、ひとつのスタートラインに立てた、最初のラインを越えられた、というのが自己評価です」

 

――それでも6月の中断期間明け以降は6試合連続で出場中です。評価が上がってきていることを感じる部分や手ごたえもあるのでは?

「まず練習環境が素晴らしいことに感謝しています。周りの選手のレベルが高いからこそ、自分は必死にやって追いつかないといけないという立場。そこでの成長はこの半年間ずっと感じています。ただ、Jリーグの公式戦に出場することは、ひとつの練習よりも大きな何かを得られる場面です。自分を成長させるための近道はとにかくピッチにたくさん立つことだと思うので、それが最近の試合出場につながっているとしたらうれしいです」

 

 

――試合では成功体験を得られる反面で、ミスや失敗もあるのがサッカーだと思います。どちらの経験が、より大きな成長材料になりますか?

「難しい質問ですが、同じくらい価値があると思います。成功体験は間違いなく自信になりますし、成功がいくつも続けば自分の中でいい感覚を持ち続けられます。反対にミスや失敗というか、難しい局面に直面した時も成長の種だと思っています。難しい状況に頭を悩ませることもありますが、そこを打開することでより大きな成功体験に変えられる。シチュエーションにもよりますが、すべてが成長につながる貴重な経験です」

 

――これまで『18歳』という年齢や『高卒ルーキー』という括りで表現される機会が多かったと思います。「年齢は関係ない」と口にする場面を見てきましたが、あらためていかがですか?

「はい、ピッチに立ったら年齢は一切関係ありません。プロになった瞬間から、ひとりのサッカー選手として扱われていると自覚しています。年齢が何歳でも、パフォーマンスやプレーのクオリティで評価されていく世界です。それは僕が年齢を重ねて、例えば30代後半になっても変わらない。何歳でも成長しなければいけないと思いますし、この世界で生き残っていくためには成長するしかありません」

 

 

――チームとしてはボールを握る時間が長く、触る機会も多いと思います。だからこそ判断と技術、それぞれの質が重要なのでは?

「技術の部分で『止める・蹴る』は必須です。その上で判断スピードも早くして次の展開を考えないとチーム全体がノッキングしてしまいますし、相手のプレッシャーを受けてしまう。とにかく頭をフル回転させないとダメで、約半年間やってきて体より頭のほうが疲れる感覚です(苦笑)。試合の後半はどうしても肉体的な疲れが出てきますが、だからこそ頭を使わないといけません。予測が遅れてしまうと、本来見える範囲や数が減ってしまう。90分間そういったことがなくプレーしたいので、常に心身ともにフレッシュな状態で戦えるフィジカルを養っていきたい。それに先日のサガン鳥栖戦では、ここでパスを通せていたらビッグチャンスになった、というシーンが自分の中で何回かありました。そこ質の部分はもっともっとこだわっていかないといけないと思います」

 

 

鹿島のような素晴らしいチームと真剣勝負できるのは大きな経験。決して怖がらず、F・マリノスのサッカーを表現したい。

 

――今週末は“The CLASSIC”と銘打たれた鹿島アントラーズ戦です。両クラブは同じオリジナル10という立場で、互いに一度もJ2に降格していません。激しい一戦になること必至ですが、まずは鹿島の印象を聞かせてください。

「鹿島アントラーズは多くのタイトルを獲得していて、どんなに難しい試合でも最後は勝ってという印象があります。僕がF・マリノスのスクールに通い始めた小学校低学年の頃、日産スタジアムで鹿島戦を観戦しました。もちろんF・マリノスを応援していたのですが、試合はたしか鹿島が3-1で勝利。その時の強さ、インパクトは鮮明に覚えています」

 

 

――今シーズンの前半戦は3-0で勝利しました。今回も球際の攻防が激しくなりそうですが、中盤の主導権争いがポイントになるのでは?

「鹿島が中盤で圧力をかけてくることは想定していますが、そこで相手と入れ替わることができればビッグチャンスを作れるはず。F・マリノスのサッカーにリスクは付き物。もしボールを奪われても、すぐに切り替えて奪い返すのもF・マリノスのサッカーです。チャレンジしていく姿勢は選手全員の共通理解ですし、やり方は絶対に変えない。僕自身は、鹿島のような素晴らしいチームと真剣勝負できるのは大きな経験になりますし、すごく楽しみです。ピッチに立つことができたら、決して怖がらず、F・マリノスのサッカーを表現したい」

 

――先ほどスクール時代の話が出ましたが、あらためて山根選手のF・マリノス歴は?

「プライマリーに入ったのは9歳からですが、スクールには6歳から通っていました。だから今年でF・マリノス歴は13年目です。ジュニアユースの時は日産スタジアムでボールパーソンも経験させてもらいました。中村俊輔選手のプレーをいつも楽しみにしていました」

 

©Y.F.M

 

 

――鹿島戦では試合前に30周年記念OBマッチが行われます。それぞれの時代を彩った名選手たちが顔を揃えますが、アカデミー出身の山根選手が注目しているポイントを教えてください。

「憧れていた選手がたくさん出場するので、ものすごく楽しみにしています。僕としては、お世話になったコーチたちのプレーに注目しています。永山邦夫コーチの現役時代のプレーを見たことがないので、どんなプレーをするのか興味があります。大橋正博コーチは一緒にミニゲームやボール回しをしたことがあって、めちゃくちゃ上手かった記憶しかありません。松木秀樹コーチや小原章吾コーチのプレーも楽しみです。ケガをしないようにしっかりコンディションを整えて臨んでほしいです(笑)」

 

 

―-F・マリノス愛が伝わってくるコメントをありがとうございます(笑)。では山根選手にとって横浜F・マリノスとはどのような存在ですか?

「スクールに通い始めた頃の自分は周りと比べても体が小さくて弱々しかった。でもF・マリノスでプレーするようになってから、すべてがガラッと変わりました。小学校2~3年生から自立の重要性を学び、人間形成の部分でもたくさんのことを教えてもらいました。もちろんサッカーもたくさん学びましたけど、とにかく人として成長させてもらいました。家族や学校という環境もありますが、F・マリノスが僕を変えてくれた。そしてアカデミー時代も、トップチームに所属してプロになってからも、素晴らしい先輩方の背中を追いかけて自分の中で基準を作ることができました」

 

――最後に、横浜F・マリノスのエンブレムを付けて戦う意味、そして未来を背負っていく覚悟を聞かせてください。

「いまは自分が一番下の年齢で、いろいろな選手の背中を見て学ぶ立場です。でも年齢を重ねていけば、今度は自分がそういった役割を果たす立場になっていくはず。いまはたくさんのことを吸収して、自分の中に植え付けていく段階。いずれは自分が姿勢やメンタリティの部分を後輩たちに示して、アカデミーの子どもたちが目標として名前を挙げてくれるような選手になりたいです」

 

 

(後編へつづく)

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