「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

クラブ創設30周年のシーズンに臨むマリノス。 現段階では既存戦力が先発に多く顔を揃えそうな雰囲気 [J1節 C大阪戦プレビュー] ※無料記事

 

新たな船出に自信をのぞかせた指揮官

 

ケヴィン・マスカット監督の新たな船出だ。

昨季はシーズン途中からの指揮を任され、すぐさま真夏の連戦を必死にこなすしかなかった。練習に時間を割くことは不可能で、懸命に試合とリカバリーを繰り返すのみ。それでも自慢の得点力を維持しながら2位でフィニッシュした手腕は評価されるべきだろう。

 

 

迎えた今季は初めてプレシーズンからチーム作りに着手できる、はずだった。

想定外は一次キャンプ途中に新型コロナウイルス陽性者が出てしまったこと。数日間はチームトレーニングができず「予定していた練習試合を3試合キャンセルせざるをえなかった」(マスカット監督)。

 

 

もともとプレシーズンの段階で予定していた練習試合は6試合だったが、最終的には半分の3試合に。実戦不足の感は否めず、ゲーム体力などのフィジカル面と共通理解やコンビネーションといったタクティクス面の両方に若干の不安を残す。

さらにチアゴ・マルチンスの電撃移籍という想定外の出来事も重なった。圧倒的なスプリント能力を武器にハイラインの背後を守っていたチアゴが去り、チームは戦い方の変化を余儀なくされる。センターバックながら存在感が際立っていただけに、方針転換にはある程度の時間と苦労が伴うかもしれない。

前田大然と合わせてハイプレスとハイラインの象徴がマリノスから離れたが、マスカット監督は決して下を向かない。

「特徴的なふたりが去ってしまったというのはある。いろいろな人が不安だったと思うが、彼らに代わる選手は彼らしかいない。でも違った特徴を持つ良い選手がいる」

 むしろ自信をのぞかせていた。

 

 

左センターバックと左サイドバックの人選は

 

サガン鳥栖から加入したエドゥアルドの起用法が最初の焦点だろう。

 

 

チアゴとはタイプが異なり、左足を使ったビルドアップとリーダーシップに特徴を持つ。まったく同じプレーを期待するのは無理難題で、スプリントに関してはウィークポイントかもしれない。とはいえ能力が高いのは間違いなく、Jリーグでの実績も十分。必ずマリノスの力になってくれるセンターバックだ。

ただし開幕時点で持っている力すべてを還元できるかは分からない。調整期間があまりにも短く、スタイルにフィットするためには時間が足りない。この開幕戦を34分の1と考えるならば、無理をする必要はあまりない。それでなくても中3日ですぐに次の試合がやってくる連戦スタートなのだから、自然と出番はやってくるだろう。

 

 

エドゥアルドを起用しないと仮定した場合、岩田智輝がセンターバックでプレーすることになりそうだ。今季は「ボランチで勝負したい」と意気揚々と語っていたが「チーム事情によっては求められたポジションで」とも話していた。さっそくその局面が訪れたわけで、守備のマルチロールぶりをいかんなく発揮してほしい。

 

 

岩田をセンターバック起用すれば、畠中槙之輔は本来の左センターバックでプレーできる。右センターバックに移動したのはキャンプ終盤からで、こちらも日が浅かった。岩田が「右のほうが視界的には見やすい。去年は左をやっていたけど縦パスのところは見えづらかった。右になってからは見えやすいし、守る時ももともと右サイドをやっていたので違和感なくプレーできている」と話したように同じセンターバックでも右と左では大きな違いがある。慣れの部分が大きいのだとしたら、慣れていない側でプレーするのはほんの少しの不安材料になる。

また、永戸勝也が万全の状態ではない左サイドバックの人選にも注目だ。同じく新加入の小池裕太も戦術理解の面に不安があり、全幅の信頼を置けるとは言い切れない。ならば小池龍太だろう。信頼と実績の背番号25なら安心して開幕スタメンを任せられる。

 

 

 

左ウイングは仲川輝人

 

中盤と前線に関しても、現段階では既存戦力が顔を揃えそうな雰囲気がある。

プレシーズンから左ウイングでプレーすることの多い仲川輝人は「もちろん裏に抜けることも第一にあるけど、ほかの選択肢としては細かく崩していくことをやっていけたらいい」と見据える。抜け出した後の左足クロスを習得するには時間がかかるだろうが、スピードそのものにはブレーキがかからない。

 

 

右ウイングはエウベルか、あるいは水沼宏太か。両者ともにチャンスメイクに優れた選手だが、タイプは大きく異なる。前者はドリブルとコンビネーションで打開し、後者には一撃必殺のクロスがある。コンディションや調子、あるいは周囲との組み合わせによって使い分けることもできそうだ。

 

 

タイトルを目指すにはクリアすべき課題が残されているのが現状だ。しかし優勝した2019年も開幕時点では不確定要素が多く、優勝候補に名前が挙がるチームではなかった。前年の2018年に残留争いに巻き込まれた経緯もあり、下馬評はとても低かった。

今季もマリノスを優勝に推す声はそれほど多くなさそう。前述したように前田やチアゴが抜けた穴は大きく、戦力ダウンは避けられないという見立てだろう。

だが予想は予想、開幕前は開幕前だ。すべては結果で示すしかない。今が1位のチームではなかったとしても、終わった時に1位になっていればいい。

クラブ創設30周年の節目に、どんな歩みを見せてくれるのか。副キャプテンに就任した水沼は力強く言う。

「毎年タイトルを目指しているし、もちろん今年も目指していく。クラブ30周年ということで偉大な先輩方がたくさんいるので、そういった人たちに恥じないようなシーズンにしたい。マリノスのエンブレムを輝かせられるように頑張りたい」

 日産スタジアムでトリコロールが勇躍する。

 

 

 

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