中村俊輔を苦しめるボールの「質感」[磐田戦直前レポート]+金井 貢史インタビュー
「セットプレーで点を取れると大きい」
そう話したのはFKの名手・中村俊輔である。先日の天皇杯3回戦・横浜FC戦では直接FKから2ゴールを決め、チームを勝利に導いた。相手の落ち度こそあれ、やはり左足のキックは芸術の域だ。
なのにリーグ戦では、今季まだ一度もFKを決めていない。あれだけの精度を誇りながら、ポストやバーならともかく相手GKの正面を突く場面もある。期待値が高いだけに枠を捉えるだけでは周囲は満足せず、ゴールしなければ納得できない。それは彼が積み上げてきたキャリアがそうさせるのであって、決して無理難題を押し付けているわけではない。体力面とは違い、年齢を重ねても感覚は衰えないはず。インパクトの強さだけ維持できれば、中村のFKはどの局面でもゴールする可能性を秘めている。
その名手を苦しめている最大の理由は、ボールの質感にある。毎年のように変わるボールになかなかフィットできない。ボールやスパイク、芝の状態までこだわるからこそ、ほんの少しの違和感にも気付いてしまう。リーグ戦と天皇杯では使用するボールが異なり、足に当たる瞬間の感覚も違うという。「リーグ戦のボールは少しモチモチしている」という独特の表現は彼ならではだ。
中村クラスの選手でもなかなかアジャストできないのだから難敵だが、残り試合数はわずかに『6』。リーグは終盤に差し掛かっており、そろそろ決めなければなるまい。天皇杯のような歓喜と興奮をリーグ戦でも与えてほしいと願っているのがサポーターの総意であり、本人としてもこのままシーズンを終わるわけにはいかないだろう。
というのもチームとしてはモチベーションを見つけにくい状況となっている。「ACL出場権の可能性はまだある」という樋口靖洋監督の言葉を否定するわけではないが、置かれている現状はかなり厳しい。今節、3位の浦和レッズが敗れた場合のみ、可能性はわずかに残るといった状況だが、どのような結果になったとしてもかなり険しい道であることに変わりはない。残り試合を全勝しても届くかどうか、といったところだ。
だからモチベーションが個々発信でもいいと思うのである。その最たる例が中村なのだ。彼ほどの実力者がシーズンを通してFKを決められないというのはプライドが許さないはず。自分のためがチームのためとなる。ほかでは金井貢史などもそうだろう。シーズン開幕時は左SBのレギュラーだったにもかかわらずドゥトラ加入によって、ベンチへ追いやられた。それだけでなく紅白戦や練習試合では比嘉祐介に左SBを譲り、自身は右SBの控えに回った。その悔しさやストレスをジュビロ磐田戦にぶつけてほしい。
他チームの状況を見渡せば、コンサドーレ札幌の降格が決まり、ヴァンフォーレ甲府が昇格を決めた。来シーズンのディヴィジョンが確定したチームはすでに先を見据えて動き始める。それにつられて他のチームも動き出す。マリノスとて例外ではない。契約更新・非更新といった話題ももうすぐ出始めるだろう。移籍加入・放出も右に倣えである。ストーブリーグはすでに始まっているのだ。
選手は個人事業主であるわけで、まずモチベーションを自分自身で高めなければいけない。いま、マリノスの選手に求められているのはそういった最低限の部分ではないか。マリノスに限らず、中位のチームは目標を見失いがちになるもの。だからこそ、個々が責任と意地を見せてほしい。
【voice of players(磐田戦に向けて) DF 24 金井 貢史】
見返すというよりも、見せつけたい
――チャンスが巡ってきそうだが
「チャンスが来たので自分の持っている力を出し切りたい。まずはチームが勝つことが前提なので、勝つためのプレーを考えたい。それにプラスして自分の良さを出したい」
――小林との違いを見せたいところでは
「パンくん(小林)は1対1に強い。でも自分はパンくんみたいに身体が強いわけではないし、スピードがあるわけでもない。だからポジショニングで勝負しないといけない。後手に回らず、自分から仕掛けるディフェンスを見せたい」
――攻撃面は?
「ドリブルができるわけではない。うまくパスを使っていく。自分のサイドから崩さなくてもいい。うまく右サイドで起点になって、左サイドから崩す形でもいい。そうやってチームに貢献したい。あとは右利きなのでボールを持って縦を意識できる。左サイドの場合はどうしても中を向いてしまうので」
――鬱憤を晴らす舞台になる
「スタメンはアウェイのガンバ戦以来かな。そのゲームは勝てたし、勝ち運はもっている(笑)。見返すというよりも、見せつけたい」