「勝ちながら反省する」(栗原)なら、いまが絶好のタイミング [J第2節清水戦レビュー] (藤井雅彦) -1,733文字-
順当勝ちと言っていいだろう。
前線にツインタワーを設置した清水エスパルスだが、昨季序盤同様に戦い方がまったく定まっていなかった。戦術の中でツインタワーを活用しきれず、かといってツインタワーありきのサッカーを志すわけでもない。ただ前にいるターゲットマンが二つに増えただけで、その片割れはJ1での実績に乏しい。中澤佑二や栗原勇蔵が警戒していたノヴァコヴィッチも2列目での起用では能力が半減してしまう。清水は人選と配置次第で上位を争えるチームだと思うが、今回に関してはタイミングの良い巡り合わせだったと言わざるをえない。マリノスとの完成度の差は歴然としていた。昨季もナビスコカップを含む公式戦で3戦3勝しているように、すっかり清水をお得意様にしている。
ただし余裕を持った勝利ではなかった。終盤にはあわやという場面を何度か作られ、後半ロスタイムの大前元紀のシュートがゴールネットを揺らしたように見えた人も多いのではないだろうか。何を隠そう筆者もその一人で、一瞬だけ頭を抱えてしまった。それだけ際どい場面を作られたことが問題で、相手が退場者を出して一人少ないのであれば、もう少し余裕を持ったゲーム運びができないものか。そのあたりの拙さが解消されたわけではない。
清水側にすれば、負けているのだからより当然、ロングボール攻勢を強める。その際にマリノスは全体が下がった。途中出場で試合を終わらせる役目を担った兵藤慎剛は「相手の攻撃を受けてしまってセカンドボールを拾うラインが下がってしまった」と振り返る。ラインが下がれば下がるほど自陣ゴールに近い位置で守ることになり、競り合ったこぼれ球をそのままフィニッシュに持ち込まれるリスクが高まる。ボールの出どころにプレッシャーを与えると同時に、なるべく高いラインでハイボールを処理すべきだった。
あるいは逆に引いて守りきる手もある。ゴール前を固めて篭城するのが悪い戦術だとは思わない。そのときはハイボールの競り合いに強い選手を投入し、例えばノヴァコヴィッチにマンマークをつけるのも有効な手段だ。しかし、樋口靖洋監督の動きは開幕戦に続いて遅かった。ファビオが出場の準備をしたのは後半ロスタイムに入ってからで、結局は出場することなくタッチラインの外で試合終了のホイッスルを聴くことに。ファビオを出場させる意図があるならば、もう少し早くなければ意味がない。事実、マリノスはロングスローからノヴァコヴィッチの頭を経由して大ピンチを迎えてしまった。勝っているからこそ前向きに反省し、同じ過ちを繰り返さないようにしたい。
試合の終わり方のほかに課題を挙げるとすれば、それは攻撃面にある。大宮戦で2得点、清水戦では1得点を挙げたが、その内実は決して明るいものではない。そのうち2ゴールは齋藤学の独力による部分が大きく、藤本淳吾と伊藤翔のシュートはいずれもビューティフルすぎた。つまり、そうそう出せない類のシュートということ。あのシュートを見てハードルを設定したら、彼らは今後おおいに苦しむだろう。
打開策は齋藤のドリブル突破のみ。いまや彼の存在はマリノスにおける最大の武器なのだが、そこには大きな危険もはらんでいる。齋藤が予期せぬ負傷で離脱する、あるいは夢にしている海外移籍を夏に実現させた瞬間、マリノスの攻撃は高い確率で停滞してしまう。おそらく解決方法は補強以外にないが、そういった問題から目を逸らしてはいけない。「勝ちながら反省する」(栗原勇蔵)なら、いまが絶好のタイミングだ。