「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

サッカーの技術や戦術で日本が負けているとはどうしても思えない [ACL全北戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,544文字-

チームは24日夕方に日本を出発し、夜にソウル入り。さらにバスで約3時間かけて、全州近くの宿泊ホテルに入った。予想していたほどの極寒ではなく、想定外のアクシデントも起きていない。ここまでは順調に調整を進めているようだ。

チームの後を追うようにしてソウル入りした筆者はソウルは明洞付近に1泊。翌25日早朝のKTX(韓国版の新幹線?)に乗り、約2時間30分で全州に到着した。ACLは試合前日に公式記者会見が行われるのが通例になっており、今回は午前11時に設定されていた。非公開練習は15時スタートなのだが、それに先駆けての記者会見取材である。

ちなみに、会見終了から練習開始まで3時間以上も時間を持て余すことに。といってスタジアム周辺には恐ろしいほどに何もない。バスなどでグループとして固まってスタジアムに行き帰りするのであれば問題ないだろうが、もし個人で動こうと思ったらほとんど何もできない。10分程度歩いたところに奇跡的に民家を改造したようなジャージャー麺屋を発見したが、ほかにはガソリンスタンドしかない。これから全州に来る方はご注意あれ。

さて、まずは公式記者会見の様子から。マリノス側から登壇したのは樋口靖洋監督、選手代表は齋藤学だった。公式会見といっても、取材に訪れたメディアは10名前後。その約半数が筆者を含む日本人メディアだから、殺伐としたアウェイの雰囲気は皆無であった。事実、会見が始まる直前まで樋口監督、齋藤ともに和やかな雰囲気でメディアと会話していた。そして海外ではお決まりの定刻に会見が始まらないことに苦笑いを浮かべる。

4-2-3-1_ACL ただし、いざ会見が始まると韓国人メディアから上から目線でいくつかの質問を浴びせられた。「Jリーグのチームは最近のACLで結果を残していないが…」、「全北現代はACLで準優勝したことあるが…」といった具合に不必要な枕詞がついてくる。いやはや実績とは恐ろしい。こちらは何も言えずに黙っているしかなかった。

ちょっぴり悔しかったので続けて行われた全北現代側の会見で、チェ・ガンヒ監督に質問をぶつけた。「最近のACLで結果を残していないJリーグの印象は?」と。返ってきたのは最近はJリーグチームがACLで結果を出していない。でもJリーグの水準は高い。KリーグはJリーグのいい部分を見て、もっとKリーグも奮起しないといけない。韓国と日本が協力して発展する方向に行かなければいけない」という紳士な答えが返ってきた。

韓国代表監督も務めていたというこの指揮官、かなりのやり手のようだ。会見中ほとんど表情を変えなかったあたりに芯の強さを感じさせる。答える内容についても、こちら側をリスペクトしつつ、しっかりと己の考えを主張する。無礼な韓国人メディアとは大違いである。一方、樋口監督は普段どおり真面目に誠実に対応した。明日のゲームは両監督の采配が鍵を握る予感がある。

 

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練習はAFCの規定で冒頭15分のみの公開となった。そのためウォーミングアップしか確認できなかったが、そこではピッチコンディションを確認するかのような基礎トレーニングが行われた。芝生の状態については「悪くはないけど、決して良くはない」と小林祐三は言う。全体的にデコボコしている模様で、GK六反勇治曰く「ゴール前は柔らかい」とのこと。勝利のためには、まず慣れないピッチとの戦いを克服しなければいけない。

そういった条件下だからなのか、全北現代は比較的早いタイミングでFWの選手目掛けてロングボールを蹴り込んでくるようだ。チームの性質がもともとそうなのか、あるいはピッチコンディションがチームの戦い方を決めたのかは定かではないが、基本的にはキック&ラッシュを仕掛けてくる。スカウティングの段階でそれを見極めた樋口監督は「主導権を長く握れない試合になるかもしれない」とつぶやいた。会見では「予選リーグを突破するためにアウェイでの戦い方、ホームでの戦い方の微調整は必要だと思っている」と慎重な発言をしており、どうやらリーグ戦と同じというわけにはいかないようだ。

ここ2年、樋口監督は順位や状況にほとんど関係なく『主体的でアグレッシブなサッカー』を志してきた。あるときは勝利しても内容に満足せず、その逆のケースもあった。それがACLに関してはトーナメント勝ち上がりを最重要テーマにしている。砕いて言うと、アウェイでの勝ち点1は悪くない結果ということ。ただし引き分け狙いで引き分けられる相手ではない。試合のどのタイミングで目標を切り替えるのか。勝利を願いつつも、見逃せないポイントとなるだろう。

そして最後に、この試合は戦いだ。小林は「キレイにやるつもりはない」と言い切る。その言葉の意味はサッカーの質だけでなく、この試合が日本と韓国の意地のぶつかり合いであると自覚した上での発言だろう。間違いなく韓国チームは目の色を変えて圧力をかけてくる。チェ・ガンヒ監督に「韓国のクラブチームや代表チームは日本チームと対戦する際にいつも以上の力を発揮する。なぜだ?」と質問したところ「昔から韓国と日本の試合は激しいゲームになる。精神力の部分でほかの国と対戦するよりも日本戦は強くなる」と回答された。そう、韓国にとって日本はいつになっても特別な相手なのだ。

その点で日本人は淡々としている。代表カテゴリーであれだけ韓国に煮え湯を飲まされながら、次の対戦では同じ過ちを繰り返しす。なぜか。負けた理由を明確にしていないからではないだろうか。サッカーの技術や戦術で日本が負けているとはどうしても思えない。韓国をもう少し特別視すべきなのだ。

明日も必ず激しい試合になる。そのとき近頃眠っている栗原勇蔵が目覚め、富澤清太郎や小林、あるいは中町公祐が参戦し、その上で真っ向勝負を制す。マリノスのそんな姿が見てみたい。

 

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