「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

過去を引きずりながら戦うのは準々決勝までにしなければいけない [天皇杯準々決勝・大分戦レビュー] 藤井雅彦 -2,039文字-

4-2-3-1_best10月のリーグ戦で対戦した際とほぼ同じ内容のゲームになった。マリノスが個々の能力で上回っているのは明らかで、特にポゼッションでは優位に立つ。大分トリニータは組織としてとても統制のとれているチームで、なかなか崩しきれない。サッカーではよくある光景と言えるかもしれない。

得点パターンまで当時と似ていた。リーグ戦では中村俊輔が技ありFKを叩き込んだが、今回テクニックを見せたのは中村と、そして得点者の栗原勇蔵だった。栗原が「自分にしては珍しくうまいヘディングだったと思う」と振り返るゴールは、得意のファーサイドではなく中央ややニア寄りで頭に当ててコースを変えるシュートだった。CKのボール精度が素晴らしかったのはもちろんなのだが、栗原が試みた動きの工夫はセットプレーからさらにゴールを量産できる可能性を示唆している。

この時点で90分間での勝利を確信したサポーターも多かったのではないだろうか。筆者自身、相手のクオリティーを考えて、失点するリスクはかなり低いと考えていた。それが同じような形式で失点するのだからサッカーは難しく、恐ろしい。大分の左CKに、今度は完全なニアで合わせたのは途中出場の森島康仁だった。マークを担当していたのは、あろうことか得点者の栗原である。

話が試合から脱線することをお許し願う。栗原の自作自演によって、試合は延長戦にもつれ込んだ。必然的に試合終了時間は30分以上遅れることが確定。試合 が終わり、監督会見とミックスゾーンでの選手取材を終えてスタジアムを飛び出たのは16時20分だった。あらかじめ呼んでおいたタクシーに飛び乗るが、出 口渋滞につかまる。大分駅前から大分空港行きの高速バスに乗り込んだのは17時15分を回っていた。すでに出発時間が遅れ、さらに再び渋滞にハマる。この 時点で予定していた18時30分発の飛行機に乗れる可能性は相当低くなっていた。
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一縷の望みを運転手に託すも、なんとのんびりしたことか。そういえばタクシー運転手もそうだった。慌ててせかしても、あちらはまったく慌てない、動じない。それどころか笑っているではないか。これが県民性というヤツか。結果、無情にも予定していた便には間に合わず、高速バスの車内で別便の予約をクレジットカード決済。37,970円を追加して、どうにか横浜へと戻ってきた。天皇杯と栗原勇蔵、恐るべしである。

4-2-3-1大分あまりにも切ない大分遠征で、未来を明るく照らしてくれたのは富澤清太郎の一撃である。リーグ戦終盤を迎え、彼は居残りでのミドルシュート練習を毎日のように行った。思い返せば2月の宮崎キャンプでは「10点取りたい」と笑いながら本気で言っていた。ポジション柄、さすがにそれは難しかったが、苦しむチームを救う値千金の一発だった。全体的なパフォーマンスが良かったとは言えずとも、その選手が試合を決めるのだからサッカーは面白い。富澤が「オレは優勝したい!」と高らかに宣言していた選手だからこそ、だと思う。

中澤佑二は言う。「リーグ戦の結果に関しては、シーズンが終わらないとしっかり振り返ることはできない」。誰もが、あの苦い記憶をすべて消化できていないのだろう。サポーターも、担当記者も、当事者である選手はもちろんそうだ。あれからわずか2週間程度して経過していないのだから、忘れろというほうが無理難題である。そんな精神状態で勝利したチームを誇らしく思う。

ここまで、そして、ここからだ。過去を引きずりながら戦うのは準々決勝までにしなければいけない。準決勝以降は、どれだけ本気でタイトル獲得を目指せるかの戦いになる。大分戦のような生半可な気持ちでは、おそらく勝てない。リーグ戦の失望をいますぐ消化しろとは言わない。だから一度忘れよう。元日決戦で頂点に立つことを考えよう。中澤の言うとおり、振り返るのはそれからでいい。

大分遠征では37,970円の余計な出費という苦渋の選択を迫られた。だが、その高額チケットは終わったことを無駄に振り返らない大切さを教えてくれた。満席だったはずの最終便があの瞬間、インターネットサイト上に出現したことに、可能性を追求する大切さを学んだ。あのまま大分で夜を明かせば、鬱屈とした時間を過ごしていたのは間違いない。

次がある幸せをかみ締めながら、12月29日を楽しみに待とうではないか。

 

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