選手は本当にモチベーションを保てるか [天皇杯準々決勝大分戦プレビュー] (藤井雅彦) -1,516文字-
ヨコハマ・エクスプレスでは、樋口靖洋監督ならびに先発が予想される数選手のコメントを毎回掲載している。これまでも同じ手法で読者の皆さんに楽しんでもらっていたわけだが、あらためて人の言葉を文字にして温度を伝えるのはとても難しいと感じた。語尾を変えて体裁を整えれば、それだけで温度は失われてしまう。同じコメントでも意味が大きく異なることさえある。
それでもサポーターは彼らの言葉に耳を傾ける。筆者が長々と現状を書くよりも、選手のわずかなコメントを楽しみに待っているからだ。それが選手とサポーターをつなぐ数少ない“生”だからであろう。筆者のオピニオンよりも、指揮官のプランニングやプレーヤーの意気込みが重宝される。
ただし、選手も人間だから本音と建前がある。取材している側もそれを理解しており、例えば試合前のネガティブ発言は意識的に掲載を避ける傾向にある。内容を180度変えるわけにはいかないので、仕方なく消去するというように。ちなみに、今回のコメントに関して消去している箇所はない。それでもあえて言わせてもらえば、言葉すべてが本音とは限らない。
マリノスはすでに来季のACL出場権を獲得している。一昨年、昨年はリーグ戦で3位以内に入れず、天皇杯で結果を残すしかアジアの舞台に立つ方法がなかった。今年は状況が決定的に違う。勝てばタイトルが近づく反面、オフに入るタイミングが遅れる。来季の始動に影響を及ぼし、オフ期間が短くなるかもしれない。この時期に天皇杯を行う最大のデメリットである。それで選手は本当にモチベーションを保てるのだろうか。
実は選手にモチベーションがない、などと言うつもりはない。正確には疑っているだけだ。コメントでは大分戦、そして天皇杯に向けて気力充実の言葉が並んでいる。優勝を争ったリーグ戦と変わらないトーンで読めるだろう。話を聞いていて、その表情が曇っていたわけではない。「優勝したい」。富澤清太郎は力強く言ってくれたし、担当記者として安堵した。
問題は全員が同じテンションで臨めるか。すべては明日の13時以降に明らかとなる。
戦力面で優位なのは揺るがない。リーグ戦では10月末に対戦し、中村俊輔の直接FKで1-0の勝利を収めた。その試合ではスコア以上の差を見せつけ、リーグ18位でJ2降格が決まっていたチームからしっかり勝ち点3をもぎ取った。10回戦えば9回は勝てる。強気すぎるだろうが、リーグ戦で準優勝したチームに自信を持っている。
でもマリノスのモチベーションが上辺だけのものだとしたら、1回の負けが明日訪れる可能性も否定できない。リーグ戦での悔しさがどれだけあるか。天皇杯でそれを晴らす決意があるか。ただ、漠然と戦っていては、これがJ1チームとして最後のゲームになるかもしれない相手を上回れない。
素晴らしいシーズンをもう少しだけ楽しみたい。最低1試合、最大で3試合。3試合勝ち続ければ、目前で逃したタイトルを獲得できる。今年のマリノスはタイトルがよく似合うはず。そのために、大分戦を通過点にしなければならない。