「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

期待と不安の4-4-2 [J10節 柏レイソル戦 プレビュー] (藤井雅彦)

どうにも良いイメージが湧かない相手である。柏レイソルが一昨年にJ1へ戻ってきてからマリノスは一度も勝っていない。レアンドロ・ドミンゲスにスーパーゴールを決められ、昨年末の天皇杯準決勝では接戦ながらも差を見せつけられた。「最近はレイソルに勝っていない」と中澤佑二も口にしているように、選手たちにもそういった類の印象があるようだ。これ以上の苦手意識を持たないうちに結果を出す必要がある。

リーグ戦の成績を見る限り、相手のチーム状態は決して良好とは言えない。しかしながら柏はどうやらアジア制覇を第一目標に掲げているようで、リーグ戦よりもACLのプライオリティが高い。柏のようなチームはJリーグでは稀有な存在で、ほかにないかもしれない。アジアを制覇し、世界へ飛び出す。そのためにクレオやキム・チャンスといった優秀な外国籍選手を獲得し、狩野健太や谷口博之といった選手を加えて層を厚くした。どうやら目線はずっと高いところにあるようだ。

とはいえ早々にJリーグの覇権争いから脱落するわけにもいかないだろう。現在順位はまさかの11位で、最近も波に乗り切れない試合が続いている。昨年もそうだったが、どうにも失点癖が止まらない。特に試合序盤に失点するケースが目立つ。そういった傾向を見極めて富澤清太郎は「試合の入り方が重要になる」と気を引き締めた。得点できればもちろん有利だが、注意しなければいけないのは相手に一瞬の隙を突くスペシャリストがいるからだ。

レアンドロ・ドミンゲスは現在のJリーグにおけるトップ・オブ・トップのタレントだろう。試合を決めるだけでなく、試合を掌握する能力が備わっている。彼を乗せてしまってはマリノスに勝ち目はない。これまでの対戦でも痛い目に遭ってきた。ボランチの富澤を中心に、中盤でどう対抗するか。レアンドロはチームが守備に回るケースでも攻め残っていることが多く、ファジーな位置で浮いている。そこからフリーで前を向かせてしまえば失点は避けられない。常に警戒が必要な選手と言える。

相手の出方を想像すると、昨年末の天皇杯準決勝が一つの参考資料となる。柏はドゥトラのいるマリノスの左サイドにロングボールを集めて主導権を握った。レアンドロ不在時の戦術という見方もできるが、ネルシーニョ監督は策士だ。こちらが嫌がることはどんな状況でも選択するに違いない。ならば今回もそういった戦い方を優先し、何かしら戦術変更があっても不思議ではない。例えば工藤壮人を右サイドに置いた[4-2-3-1]にしてくる可能性が考えられる。

柔軟性ある柏に対して、マリノスはどう挑むべきか。樋口靖洋監督はここにきてのシステム変更を決断した模様だ。これまでの試合でも何度か試合開始からの[4-4-2]を検討していたが、実際にそのシステムで臨むのは初めてのこと。ナビスコカップでは今季初黒星を喫した大宮アルディージャ戦、さらには先日の湘南ベルマーレ戦で採用したシステムだが、リーグ戦では初のことだ。

その背景には柏の守備の脆さがある。時間をかけて攻めるよりもマイボールをすかさず相手ゴール前へ運ぶほうが効果的なのは確か。そのとき相手は藤田祥史のディフェンスライン裏へのランニングを嫌がる可能性が高く、守備側にギャップを生むかもしれない。負傷がちでここ数試合は不発が続いているマルキーニョスへのマークが軽減され、必然的にチャンスが増えるという副次的な効果もある。

一方でシステム変更によってそれぞれのスタートポジションが変わり、攻守ともに自分たちの形が機能しなくなる恐れがある。特にトップ下で自由を謳歌していた中村俊輔は右サイドで窮屈なプレーを強いられる。これがチーム全体にどれだけ影響を及ぼすか。昨年途中まで右MFとしてプレーしていた中村は下がりすぎる傾向が強く、中盤でのボールロストが目立った。コンディションやバイオリズムが同じではないため一概に昨年以前と比較できないが、[4-2-3-1]が中村のためのシステム変更だったことは明白だ。わざわざトップ下に置くトリプルボランチを開幕前に模索していたのも、中村の居場所を確保するためという見方がおそらく正しい。

鹿島戦前にはそのトリプルボランチの布陣を試し、今回は試合開始時から2トップを採用する。戦い方にバリエーションが生まれたと言えば聞こえはいいだろうが、穿った見方をすればブレているとも捉えられる。あくまでオプションという位置付けならいいのだが、スタートから採用すべきかどうか。ベンチに藤田という駒を置いておくことで可能だったシステム変更はおそらく使えない。オプションを行使することでバリエーションを狭める可能性は否定できない。

実験しながら勝てるほど甘い相手ではない。「鹿島戦のようにがっぷり四つの戦いになる」(兵藤慎剛)だろう。ほんの少しのディテールの差が勝敗を分ける。そのとき、準備期間が少なくこれまで成功体験の少ない[4-4-2]が吉と出るか凶と出るか。期待と不安はやや後者が勝っているといったところか。

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