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田中翔一朗エリアプロモーション部長に訊く「TOKYO=FC TOKYO」を成し遂げるための日常と転職の理由【不定期連載/FC東京クラブスタッフジャーナル #2/前編無料公開】

 

©FC TOKYO


 FC東京のビジネススタッフやアカデミースタッフの仕事ぶりに触れ、どのようにファン・サポーターやホームタウン、パートナー企業など東京に関わる人々に接し、クラブを発展させようとしているのか、その様子を知るための連載『FC東京クラブスタッフジャーナル』。第2回は地域や自治体の人々に接する田中翔一朗エリアプロモーション部長の仕事、「TOKYO=FC TOKYO」を実現するという目標からの逆算について迫った。
 
◆ホームタウンを担当する部署
 
 エリアプロモーション部は、一般的には「ホームタウン担当」と呼ばれる、地域に根ざしてクラブの価値を高める仕事を担っている。田中さんはそこの部長として各自治体の人々に会い、また選手に協力を求めるべく小平の練習場に足を運んだりと多忙な日々だ。
 
「基本的には東京都をはじめ行政、自治体、地元の商工会、JCと呼ばれる青年会議所、商店会、そのほかさまざまな地域の団体や個人、そういったところと対峙をしている部署です。その中には小学校など教育機関も当然含まれてはくるんですけど、主には、地域の皆様とコミュニケーションを取りながら、街の中で東京をプロモーションしていく。だから『エリアプロモーション』だと、ぼくは理解しています。地元の皆様のご協力を得ながらFC東京をプロモーションしていくということですね」
 
 よくビジネスでは「0から1をつくる」という表現が用いられるが、エリアプロモーション部は、まさに新規開拓を担っている。
 
「いわゆる『0→1をつくる』部署だと思っています。より多くの方に興味関心を持ってもらうことでJリーグIDを獲得し、FC東京から情報を届けるファンベースをつくるということがクラブの方針としてあって、主に京王線沿線を中心とした23区も含めた小学生、およびそのファミリー層にリーチしていくというものが戦略としてあります。そこで、我々の部署は地域とつながっているので、それぞれの地域の小学校に選手と一緒に訪問したりして『FC東京の試合を観に来ませんか』と言ってノベルティやチラシ等を渡す。まずは一回スタジアムに来てみてよ、というきっかけをつくっています」
 
 クラブ創設後初のJ2加盟、あるいはJ1昇格といった時期にも、たとえば駒沢など試合会場近くのポスティングによって近隣でホームゲーム開催があることを知らせて動員につなげようとしていた。田中さんは今年の1月からエリアプロモーション部で働いているというが、それぞれの地域を開拓し、浸透していこうとする姿勢は現在も受け継がれているようだ。
 
「FC東京の中で、出資自治体の6市は特別なエリアとしてしっかり連携をさせてもらいつつ、京王線は人口の多い世田谷区と杉並区、それに都心に近い渋谷区と新宿区も走っているので、23区も含めた多くの自治体と連携を取っています。とはいえ「TOKYO」イコール「FC TOKYO」をぼくはつくりたいですし、東のエリアにもファンはいますし。城北、城東、城南、それから調布は城西と呼ばれるエリアだと思いますが、ベースは、6市と京王線沿線をとても大切にしつつ、しかしほかのエリアも少しずつ。クラブがいままで大事にしてきた地域との繋がりを受け継ぎ、新しい形も取り入れながら地域イベント等で『FC東京の試合を一回観に来てね、待ってるよ』と呼びかけたり、FC東京へ興味関心を持ってもらう策をそれぞれの街で講じたり、そういう仕事をしています」
 
 人口が1,400万人を超える東京は広大だ。とはいえ、人が実際に訪れる場所はローカルな点であり、一人ひとりの顔を見て接することになる。個別の土地にFC東京というクラブを知ってもらい、結果として東京全体をホームとするクラブにFC東京を育てていくという気の長い話だが、その未来を実現するべく、田中さんたちは地道に、その日一日に出来ることを重ねてきている。
 
「いろいろなエリアでイベントをやる時に『自分はFC東京のファンです』とか『この間味スタ行きました』と言っていただく機会が絶対にあるんですよね。そういう会話は大切だなと思うし、いろいろなエリアに東京のファン・サポーターはいる。ぼく自身、FC東京の応援をしていたのは、FC東京が“東京”のクラブだからで、そう思っている人は多いんじゃないですかね」
 
 少しずつではあるが、東京都内での認知度が高まってきているという感触があるようだ。
 
「クラブ設立から25年が経って、もう26年目になりますが、着実に積み上げてきたクラブの歴史と実績というのはもう絶対にある。新規の商談などの場で、FC東京というクラブを全く知りませんという人にはほとんど会ったことがないし、クラブの創設期とは、多分フェーズは変わってきていると思うんですよ。しかし味スタはまだ満員になっていない。そこはまだまだこれから、という感じですね」
 
◆「TOKYO=FC TOKYO」
 

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「TOKYO=FC TOKYO」。世の人々がこう思う状況をいかにしてつくるか。その仕事に終わりはない。街からクラブの息遣いを感じる、日常生活の中にクラブがある。一朝一夕に実現するものではないけれども、四半世紀が過ぎたなりに浸透はしてきている。手応えはある。100年の歴史を持つ海外のようではないにしろ。
 
「ヨーロッパとか南米とか、フットボールの歴史がより長い国だと、クラブが街のアイデンティティになっていて、街に何があるかわからなかったとしても、クラブを通して街を知ることは可能だったりする。世界の人たちから東京を見た時に『東京に行けば、渋谷の雑踏もある、寿司もあるな、歌舞伎もある、その中にFC東京の試合もあるな』と思われる状況をつくりたい。そのぐらい市民権があるクラブになりたいですよね。当然チームの成績もあると思うんですけれども、でもチームの成績に左右されない市民権を得ていることこそが本当に愛されてる証拠だと思うから、頑張って『0→1』をつくる。広報やプロモーションとして広告を仕掛けるのは空中戦だと思うんですが、ぼくたちの部隊は完全に地上戦。人々や地域との関係を築いていく上で魔法はないと思っていて、コツコツ積み上げることで、気が付いたら碁盤の目が全部青赤になっている、みたいなことをやりつづける仕事です。部のメンバーみんながそれぞれ、いろいろな自治体の担当エリアを持ち、関係者と会話をしながら、その街がFC東京を使ってよりよい街になるようにどうしていけばいいのかを考えてくれています」
 
 2023年3月27日に締結した東京都とのワイドコラボ協定に基づく連携活動は田中さんの担当だ。2023年4月から2024年3月まで年間で50項目以上の活動をおこない、今年に関して言えば10月時点までに40件を超えた。たとえば乳がん月間の10月はそこに合わせてピンクリボンの啓発、具体的には生存率を上げるために乳癌の検査を促す活動をおこなっているが、このようにFC東京は東京都の各部署と連携して都民に伝えるべき情報を媒介する役割を果たしている。スポーツとは直接関係がなくとも幅広い分野で東京都と連携して都民に広く周知していくことがワイドコラボの狙いであり、この連載第1回に登場した平山隆史マーケティング本部長がつくり上げたそれを、田中さんが引き継いでいる。東京ボランティアレガシーネットワークというポータルサイトに登録するとエコバッグをもらえるというFC東京の取り組みでは、そのコラボを実施した1日に400から500のアカウント登録があり、そうしたファン・サポーターの能動性の高さは東京都も認知しているようだ。そのように東京都の各部署の担当者も発信力の点でFC東京を頼もしく感じているようだが、一方で東京都自身にも自ら発信してもらえるよう田中さんらからの働きかけがあり、都の媒体にFC東京の文字を載せることでクラブの認知度を高める効果もある。各ホームタウンの自治体との連携を維持しながら東京都とも連携をおこない、「TOKYO=FC TOKYO」の図式を一歩進めようとしている。
 
◆FC東京に就職した理由
 

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 過去にインターネット広告や企画営業などの仕事をしてきた田中さんがFC東京に骨を埋める覚悟をしたのには、それ相応の想いがある。
 
「ゲーム業界の仕事に10年以上従事してきていたんですが、10年以上やってきて一定の達成感も得て、35歳ぐらいで次の10年をどうしようかなと立ち止まりました。、そのままゲーム業界にいるのかどうなのか、自分のキャリアを冷静に考えた時に、次に新しいことを始めるんだったら、年齢的に最後に近づいているのでラストチャレンジになると思ったんですね。そこで、働く上でモチベーションを上げるファクターは何か、自分の好きなものは何かと考えた時、一番最初に出てきたのがFC東京でした。僕はサポーターという立場で、FC東京を応援してきましたがそのタイミングでちょうどスポンサー営業の採用情報を得て、すかさず受けたら採用してくれた、という感じです。東京に限らずですけど、こういうものはもう、縁とタイミングじゃないですか。それがよかったんだろうなと」
 
 これまで大手企業で磨いてきたビジネススキルはタスク管理、汎用的な営業、ファンマーケティングというところが主。そして田中さん自身が1999年からスタンドにいたFC東京のサポーターであり、自身の人生の中にクラブの歴史が刻まれているということも特質のひとつになっている。それらを今後どう活かし、クラブを発展させていきたいのか。後編ではさらに田中さんの仕事を掘り下げていく。
 
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