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『地元でやる誇り、Jの誇り』後藤 【無料記事】【新東京書簡】第二十九信

厳かで、かつ温かい空気に充ちていた石原克哉の引退発表記者会見。

第二十九信 地元でやる誇り、Jの誇り

■引退発表にこめたもの

ことしは高木義成、石川直宏と、惜しまれつつ引退を表明する、なじみの選手が続出しているよね。Jリーグができてから四半世紀、ひとつの節目を迎えているんだなという気がする。
ヴァンフォーレ甲府の石原克哉もそのひとりだ。もう旧聞に属する話だけど、10月15日、山梨中銀スタジアムに行ってきた。甲府とFC東京のJ1第29節を取材するためでもあるけれど、試合後に石原の引退発表記者会見があるとなっては見届けないわけにはいかない。

当日。試合に関する取材をミックスゾーンで終え、さきほどまで監督会見をやっていた場所に戻ると、そこに引退会見用のテーブルがしつらえられていた。

甲府の7番がやってきた。
ピシッとスーツを着こなした石原が一礼ののち、入室する。その厳粛な佇まいを見、地元記者、甲府番記者の熱く優しいまなざしを感じるだけで、こちらも胸がいっぱいになる。
2001年から甲府ひと筋。出場試合数がふた桁に達しなかったのは2016年と、故障に苦しみ一試合もピッチに立てていない今シーズンだけ。それでもなお、最終戦の出場をめざしてトレーニングに励んでいる。

質疑応答が始まる。思い出に残っている試合はと問われ、答えは「2005年のJ1・J2入れ替え戦第2戦」。その、大木武が率いて初のJ1昇格を果たした上り調子の時代から、堅い守備でJ1残留を成し遂げてきた最近まで、どのようなサッカーをしていても甲府の主力でありつづけてきたことになる。その日々も、膝のけがで終わる。
「練習生から参加、ほかのチームに行くと一回も考えたことはなく、拾ってもらった恩を感じながらやってきました。それがいいかどうかはぼくにはわかりませんけれども、ぼくはこの17年間ヴァンフォーレ甲府という地元のクラブでやれたことを誇りに思っています自分はそれだけのことをやってくることができたかどうかわかりませんけれども、ちょっとでもヴァンフォーレ甲府、山梨県のお役に立てたらと思い、これまでやってきました」

紳士的に、ひとつずつ質問が重ねられていく。
甲府番のみなさんによる質問がほぼひとまわりしたところで、自分からも訊かせてもらった。
「引退の発表がこのタイミングになったことに他意はないのか、それともチームを後押ししたいであるなどの想いがあるのでしょうか」

石原の答えは思いの外、長かった。
「会見をきょうやらせていただくに先立ち引退を発表した、10月12日という日付に意味はありません。しかし、少し早く言わせてくださいとは自分のほうから言いました。それは、ぼく自身そんなに強い人間ではないので、『逃げないように』と決めた部分もあります。決めた時点でホームのFC東京戦がどんな試合になるかわかっていませんでしたけれども、残留を争うなかでのホームゲームでやはり勝点3を獲るべきだと思っていますし、そういう戦いをきょうもしてくれました(結果は1-1の引き分け)。残念ながら勝点1で終わってしまったのは仕方がないことで。
(引退を表明することで)もしかしたら、ひとりでも多くのサポーターのひとが来てくれるかもしれないと思ったり、少しでも一人ひとりの声が大きくなることがあれば、という気持ちももちろんあります。選手は100パーセントでやってくれているので、そういう気持ちの部分(の難)はまだそんなにないかなと思っていますけれども、この山梨中銀スタジアムにひとりでも多く脚を運んでいただいて、ヴァンフォーレ甲府というチームを応援し、観る機会を持つ方がひとりでも多く増えればと思い、(発表を)ホーム戦の前にさせていただきました」

■Jの誇り

日本代表の成績や戦いぶりはもちろん重要。でも、臨時の選抜チームである日本代表が活動していないときでも、クラブチームの練習場では、日々選手たちが同じ顔ぶれで研鑽に励んでいる。そして週末ともなれば、一週間磨いてきたサッカーを発表する場に、地元のファンが押し寄せる。この舞台にいる、いつづけることの重要性を、石原の17年間は雄弁に語っているんじゃないかと思う。
インテルと言えばやっぱりベルゴミだよね。ネラッズーリひと筋。石原も負けていない。VFKひと筋17年、ミスターと呼ぶにふさわしい選手生活を送ってきた。日本にもこういう選手が出てきたんだ。石原は「地元のクラブでやる誇り」を語ったけれど、すべてのJクラブのファン、サポーターは、石原を誇りとしていいんじゃないかな。

もちろん、生え抜きじゃなくても、クラブに貢献しようという気持ちが強ければ、その選手は地元の人々にとって大切な存在になる。冒頭に挙げたふたりもそうだね。高木はヴェルディ川崎でプロのキャリアを始めたけれど、いまは同じ緑をクラブカラーとするFC岐阜で慕われている。横浜F・マリノスの下部組織からトップに昇格した石川は、いまやトリコロールから白を抜いた青赤軍団であるところのFC東京の看板だ。

日本代表や欧州移籍をめざすだけでなく、Jリーガーであることを誇りとする選手がもっと増えてほしい。スペイン人のシシーニョがJ2の岐阜に移籍して、アビスパ福岡の城後寿に「あなたのファンでした」と告白する時代だ。さらに言えば、福岡県出身の声優、田村ゆかりさんに後押しされる特権は福岡の選手にしかない。日本代表にないものを福岡は持っている。たぶん、そうした特別な何かは、それぞれのクラブにあるはずだ。

話はかなり飛ぶけれど、浦和レッズにはJの代表として、なんとしてもACLで優勝を果たしてほしいね。日本代表がワールドカップアジア予選を突破するのが片方の山なら、もう片方はACLからFCWCにつながる路だ。世界へのルートはひとつだけじゃない。
“先遣隊”がいれば見通しがよくなる。そしてふもとや中腹から頂上をめざすことができ、ACLへとつながるJの日々に誇りを持つことができる。クラブでプレーする喜びとクラブを応援する喜びが、もっと強くなればいいと思う。

『トーキョーワッショイ!プレミアム』後藤勝

(了)

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後藤勝渾身の一撃、フットボールを主題とした近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(装画:シャン・ジャン、挿画:高田桂)カンゼンより発売中!
書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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