【新東京書簡】第十八信『ふたつのフィーバー』海江田(2017/05/10)

川崎フロンターレの森本貴幸。あのときから十年以上の歳月が流れた。
第十八信 ふたつのフィーバー
■ほうほうのていで逃げ出した
FC東京の15歳の新鋭、久保建英がJリーグを席巻している。こちとらJ2だから直接的な関わりはないが、それでも騒ぎの波動は伝わってくる。
思い出されるのは、自分が間近で目撃したふたつのフィーバーだ。2003年の高校選手権の平山相太(ベガルタ仙台)と、04年Jリーグ史上最年少デビューを果たした森本貴幸(川崎フロンターレ)。強烈な光を放つ彼らの取材現場は壮絶を極めた。
いまはなき国立競技場の室内練習場。1月の底冷えするミックスゾーンで、記者が二重三重に取り囲む平山の周辺だけ熱気が渦巻いていた。2年連続、選手権得点王の怪物だ。背筋にぞくっと寒気が走るようなシュートを突き刺していた。
平山はぼそぼそ小声で話し、後方の記者は人垣の肩越しにテープレコーダーを突っ込む(当時ICレコーダーはなかった)。おれはといえば、とりあえずアタックしたものの、ポジショニングが悪くて接触を図れず、やがてほうほうのていで逃げ出した。
その場にいることで得られる質疑応答の内容にまるで興味を惹かれず、これは切り口を工夫して別の角度から平山を書いたほうがいいと思った。取材に同行していたスポーツ雑誌(すでに廃刊)の編集者にわけを話すと、「そこは行ってくださいよ」と強い口調で言う。
そりゃそうだよね。雑誌が求めるのはメインを張れる平山であって、斜に構えた原稿ではない。写真も同じで、盛大にフラッシュを浴びる被写体の絵がほしい。
この手の仕事は自分に向いてないなとつくづく感じた。人波をかき分けて最前列を確保するずうずうしさがない。
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