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【無料記事】一枚の写真◆Uターンは大事。地元のクラブに捧げる夢(2017/04/18)

これは4月2日に江東区夢の島競技場で開催されたJ3第4節、FC東京U-23vs.鹿児島ユナイテッドFCの試合開始前に、大久保択生と前田遼一が談笑している写真。相手は鹿児島の松下年宏だ。元FC東京のこの男が、FC東京U-23の前に立ちふさがる脅威であると同時に鹿児島のヒーローになった。

1-2でFC東京U-23が敗れたこの試合の後半6分、松下は流れを変える先制ゴールを決めた。東京の選手に当たり、コースが変わったシュートに大久保択生が反応できないという幸運の要素はあったものの、そもそもは鹿児島が高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪ったところが起点。やはりアグレッシヴな意識が実ったと考えるべきなのだろう。この試合を迎えるにあたり、練習や練習試合を通して前がチャレンジする量を増やしていこうと意識を共有、ふたりの関係だけでなく二手前から動き出そうとするアクションが少しずつ出始めていたのだという。それが得点にも影響したのかもしれない。

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松下が在籍していた2010年といえば、東京がJ2降格を経験したシーズン。当時の城福浩監督が解任され、大熊清監督体制となってからの松下はベンチスタートで途中出場するケースが多くなっていた。そして迎えた10月16日、ユアテックスタジアム仙台。後半41分からピッチに入った松下は、アディショナルタイム、仙台に期限付き移籍をしていた同郷かつ鹿児島実業高校で同級生のフォワード赤嶺真吾のアシストによってフェルナンジーニョにゴールを決められての敗戦を味わった。
松下は翌2011年、期限付きで仙台に移籍。その後完全移籍を果たし、2013年までの3シーズン、赤嶺と同じチームでボールを追った。赤嶺は松下が横浜FCに移籍した2014年まで仙台でプレー。2015年には松下がプロデビューしたガンバ大阪に移籍し、2016年にはファジアーノ岡山へ。仙台ののち、鹿実コンビは実現していない。

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J1で12シーズン、J2で3シーズンを過ごしてきた松下にとって、J3は初めての挑戦になる。それもこれも、地元にできたJクラブに尽くしたいという思いがあってこそだ。2017シーズン初ゴールの喜びは、そこに密接に結びついている。
「カテゴリーも(J1とJ3で)ちがうのであれですけど、古巣相手にというより、このチーム(鹿児島)での初ゴールだったので、そのこと自体がうれしいですね」
松下はこう言った。
赤嶺真吾が来たらもっとアツイですね! と水を向けると、さらに松下の顔がほころんだ。
「それはね(笑)、このクラブは自分たちを自分たちの力で押し上げて(赤嶺が)来たくなるようなクラブになっていけばいいなと思います」
鹿児島実業高校で同期だった登尾顕徳GMのいる鹿児島ユナイテッドFCに松下がやってきたのであれば、もうひとりの同期が来る可能性もあるかもしれない。
地元出身Jリーガーが集まってくる最初の世代が松下選手で、これからベースができていくのでは――と問いを重ねた。やはり松下は頷いた。
「とは思いますけどね。そういうふうになっていくんじゃないでしょうか。ほかのチームにいる鹿児島の出身のひとたちも『このクラブでやりたいな』『鹿児島を盛り上げたいな』という思いは多少なりともあると思うので、そういう選手が来たくなるような、まあ、遠藤(保仁)選手とか(笑)。来てほしいと思います」
夢は大きく、遠藤保仁が来たいほどのクラブに。

DAZN(ダ・ゾーン)マネーの流入で活動規模が大きくなり、頂点を上に伸ばす動きが強まってきている反面、地方クラブによる町おこしはまだまだ途上にある。その点、J3に参入してきた新興クラブには「地元にJクラブができたから地元に帰ろう」というUターン組の発生が上積みの要素になるのではないか。現実に、鹿児島県人のFC東京サポーターが鹿児島ユナイテッドFCの応援をしている例があるが、このUターンがプレーヤーサイドにも増えていくと、ますます人気が高まり、ファンの愛着がわくだろう。Jリーグが歴史を重ねてきた意味はそこにもある。松下のように、地元に活気をもたらす選手が増えることを期待したい。


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『青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン』は、長年FC東京の取材を継続しているフリーライター後藤勝が編集し、FC東京を中心としたサッカーの「いま」をお伝えするウェブマガジンです。コロナ禍にあっても他媒体とはひと味ちがう質と量を追い求め、情報をお届けします。

 

 

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◎後藤勝(ごとう・まさる)
東京都出身のライター兼編集者。FC東京を中心に日本サッカーの現在を追う。サカつくとリアルサッカーの雑誌だった『サッカルチョ』そして半田雄一さん編集長時代の『サッカー批評』でサッカーライターとしてのキャリアを始め、現在はさまざまな媒体に寄稿。著書に、2004年までのFC東京をファンと記者双方の視点で追った観戦記ルポ『トーキョーワッショイ!プレミアム』(双葉社)、佐川急便東京SCなどの東京社会人サッカー的なホームタウン分割を意識した近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(カンゼン)がある。2011年にメールマガジンとして『トーキョーワッショイ!MM』を開始したのち、2012年秋にタグマへ移行し『トーキョーワッショイ!プレミアム』に装いをあらためウェブマガジンとして再スタートを切った。

 

■J論でのインタビュー
「ライターと編集者。”二足の草鞋”を履くことになった動機とは?」後藤勝/前編【オレたちのライター道】

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