青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

【無料記事/「夢に向かってともに歩もうチャリティーマッチ」第1報】高橋秀人「平松スカウトの尽力で……」平松大志「来てくれたことにありがとうと言いたい」青赤ファミリーがつないだ絆(2016/08/15)

試合前の花束贈呈。

試合前の花束贈呈。

8月14日、FC東京は福島県のいわきグリーンフィールドに遠征、いわきFCと対戦する「夢に向かってともに歩もうチャリティーマッチ」に臨んだ。結果は0-2で東京の勝利。とはいえ、将来のJ昇格をめざし、次週には福島ユナイテッドFCと天皇杯県予選決勝を争おうという実力者のいわきは、公式戦さながらの激しいプレッシャーで東京に襲いかかった。なかなかボールを思うように運べず、苦戦するなかでの結果だった。試合後は両チームの選手たちがバナーを持ち、場内を一周した。
いわきは「魂の息吹くフットボール」を標榜している。サッカー選手が躍動する姿は、復興を成し遂げようとする人間の力の象徴でもある。プロとして招かれた東京が一定の責任を果たしたことに、意義はあったのではないか。

試合後に両チームの選手が場内を一周。戦いが終わり、ノーサイドの光景。

試合後に両チームの選手が場内を一周。戦いが終わり、ノーサイドの光景。

試合後の囲み取材を終えた高橋秀人が、日本プロサッカー選手会会長らしい気遣いで、陰の功労者に言及した。
「今回、いわきFCの平松大志スカウトの尽力で開催が実現し、FC東京ファミリーのつながりを感じながら試合ができたことが非常によかった」
この“いじり”で、平松・高橋の“首脳会談”に花が咲き、夕焼けが映えるノーサイドの光景をさらに輝かせていた。

ボランチで先発出場した高橋秀人。

ボランチで先発出場した高橋秀人。

今シーズン、福島県リーグ3部から2部に昇格したいわきFCは、アンダーアーマーを展開する「ドーム」の運営会社「株式会社いわきスポーツクラブ」へと運営権を移譲、再出発に乗り出した。「復興から成長へ」をヴィジョンに掲げ、大倉智社長をはじめここに集結した頭脳のひとりに、元FC東京の平松がいた。開催にこぎつけたさまざまなつながりのなかに、彼の存在があったことは想像に難くない。

いわきFCで強化をはじめ多くの職務を遂行する平松大志。

いわきFCで強化をはじめ多くの職務を遂行する平松大志。

忙しそうに駆けずりまわっていた平松は、取材を申し込むと笑顔で応じてくれた。いわきFCは福島県リーグ2部としてはオーバースペックのチームで、格差がありすぎて正確な実力を把握しにくい状態にある。FC東京との対戦でそこがはっきりするということも、強化担当としては成果なのだが、やはり、なによりもファン、サポーターを含む東京の厚意がことのほかうれしかったようだ。
「まず、復興支援のための試合にFC東京さんが来てくれたことにありがとうと感謝を述べたいと思います。J1で試合をしているメンバー数名にユースの選手を加えたチームを相手に、自分たちが対峙してみて、いわきFCの現在の実力がどのあたりにあるのかということを推し量れたのは非常によかった。そして昨日(13日)、神戸で試合があって、きょうはいわき、そんな日程でもファン、サポーターのみなさんが大勢かけつけてくれて、ほんとうにありがたかった。ぼくのユニフォームを持ってきてくれた方もいて、うれしかったですね」
平松の眼は、さらに少し遠くの未来に飛ぶ。
「今度はさらにレベルが高いメンバーを相手に、いわきの選手たちに試合をさせたいですね。小平に行きたいです(笑)。小平に行って、東京のファン、サポーターがいるところで、みなさんに見ていただきたい。のちのち、ぼくらがJ1に昇格したときに、ああ、あのときの、平松も強化に携わっているチームが、今シーズンのJ1に来たのかと思っていただけたら、J1でともに戦えたらいいな、と。そう願っています」

この試合に臨んだ東京のメンバーは、ほぼFC東京U-23に似た編成。中村忠コーチが指揮し、トップチームから榎本達也、高橋秀人、林容平、平岡翼、柳貴博が参加。U-18の蓮川壮大と坂口祥尉がセンターバックを務め、左サイドバックにはユーティリティな才を持つ生地慶充が入った。ボランチで高橋とコンビを組んだのは鈴木喜丈。トップとU-18の4番が合体した。そして4-2-3-1のトップ下に半谷陽介、左サイドハーフに内田宅哉が入り、チームを支えた。サブのゴールキーパーは1年生の大本竜司。松岡瑠夢のほか、2年生の品田愛斗、小林真鷹がベンチに控え、このフィールドプレーヤー3人は全員が途中出場を果たしている。

いわきFCとのチャリティーマッチに臨んだFC東京メンバー。

いわきFCとのチャリティーマッチに臨んだFC東京メンバー。

ファーストハーフの45分間はなかなか相手陣内に攻め込めなかった東京。30分頃から、たまらず中村コーチがベンチを飛び出し、熱い言葉を投げかけ始めた。
「ちょっと受けにまわっていたので、そこを前半のうちに修正できれば、と。1点を獲れたのですが、前半はそれ以外が難しい内容でした」
こう反省した中村コーチは、ハーフタイムに修正を指示。前半30分、生地の浮き球を中央ゴール前で1トップの林が落とし、これに鈴木喜丈が反応して先制点を叩き込んだが、攻撃そのものは活性化せず。さらに勢いのある姿勢を見せようと、選手たちに伝えた。
中村コーチは言う。
「前半は硬さもあり、あまりいいサッカーができなくて……ハーフタイムに『このままでは終われない。もっと力を出そう!』と言い、受けにまわるのではなく、おれたちが圧倒して攻撃を仕掛けるのだと話をしました。後半は、立ち上がりから、選手が前へ前へとゴールに向かってくれた。スコアは2点にとどまりましたけれども、ゴールへ向かう姿勢を、後半に関してはファン、サポーターのみなさんに伝えられたのではないかと思います」

爆走のち、すっ転び。平岡翼。

爆走のち、すっ転び。平岡翼。

高橋が「ハーフタイムに修正を施し、後半勝負というかたちで、後半は特にFC東京らしいサッカーをお見せできたのではないかと思います。林(容平)、やっち(柳貴博)、平岡(たすく=翼)の能力を十分に見せることができたと思うし、チームが出来上がったなかでユースの選手も個々に特長を表現できていた。恥ずかしくない試合ができたんじゃないかと思います」と言うように、セカンドハーフの開始から爆発的なランニングが増加。後半アディショナルタイムに林がカウンターから独走でゴールを決め、試合を締めくくった。

この一戦に向けて準備を進めていた遠山大貴強化担当は、試合が始まる前に、用意していた映像を選手たちに見せた。
高橋は言う。
「震災当時のことをまとめた映像を見て、あらためて震災のときの被害の大きさ、被災された方の思いを試合前に感じることができて、心に残ることがたくさんありました。
ピッチに入ってしまえば、そういった気持ちは、一旦留めて置いてプレーに専念するわけですけれども、サッカー選手ができることはかぎられている。そのかぎられているなかで、最大限やれることをやろうと心に決めて臨んだ試合になりました」

何かを心に決めたような、試合前の東京イレヴン。

何かを心に決めたような、試合前の東京イレヴン。

中村コーチはこの映像を踏まえたうえで「だからこそ、きょう会場に来て下さった子供たちやファン、サポーターに対して100パーセントの力を出すことが、公式戦以上にやらなくてはいけないことだ」と伝え、選手たちをピッチに送り出した。
クラブの存在意義からして、根本的に何かを背負うことを宿命づけられ、かつ、強いフィジカルを志向するチームづくりと相まって、いわきは開始から全力で戦ってきた。そこに、即席の東京が気圧されたことは確かだろう。しかし試合前、前半の途中、ハーフタイムと、中村コーチが声をかけつづけたこともあり、最後は林の50メートル近い激走によるゴールで、いわきが掲げる「魂の息吹くフットボール」を表現できた。

サッカー選手はプレーをすることしかできない。しかしそのできる範囲で最大限のことをする――高橋の言葉が示す努力は、いわき、東京双方のファン、サポーターの拍手となって返ってきた。ちいさな波紋かもしれないが、この姿勢と反応を復興の先にある成長につなげるべく、努力をつづけなくてはならない。

試合後にはに惜しみない拍手。

試合後には惜しみない拍手。

 

 

 

 

 

——–
■後藤勝渾身の一撃、フットボールを主題とした近未来SFエンタテインメント小説『エンダーズ・デッドリードライヴ』(装画:シャン・ジャン、挿画:高田桂)カンゼンより発売中!
◆書評
http://thurinus.exblog.jp/21938532/
「近未来の東京を舞台にしたサッカー小説・・・ですが、かなり意欲的なSF作品としても鑑賞に耐える作品です」
http://goo.gl/XlssTg
「クラブ経営から監督目線の戦術論、ピッチレベルで起こる試合の描写までフットボールの醍醐味を余すことなく盛り込んだ近未来フットボール・フィクション。サイドストーリーとしての群青叶の恋の展開もお楽しみ」
◆購入または在庫検索は下記までお願いします!
http://www.amazon.co.jp/dp/4862552641
http://www.keibundo.co.jp/search/detail/0100000000000033125212
http://www.kinokuniya.co.jp/disp/CKnSfStockSearchStoreSelect.jsp?CAT=01&GOODS_STK_NO=9784862552648
http://www.junkudo.co.jp/mj/products/stock.php?product_id=3000187596
http://www.honyaclub.com/shop/g/g16363019/
http://www.tsutaya.co.jp/works/41336418.html
———–

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ