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【無料記事】コラム◆サロン談義と現実の狭間で着地する、東アジアカップ最終戦の「日本代表を見守る視点」(2015/08/09)

コラム◆サロン談義と現実の狭間で着地する、東アジアカップ最終戦の「日本代表を見守る視点」

まだ戦術やフォーメーションの設定が細かくなかった1990年代の『サカつく』シリーズの攻略に於いては「カウンターとゾーンプレスどちらが強いか?」式の問答がよく飛び交った。概念を可視化するシミュレーションゲーム上での論争だから、これはもちろん現実のサッカーに則したものではなく、いわゆるサロン談義に近いものだった。
では現実の具体的な論議がこのような二元論にならないのかというと、そんなことはない。メディアの報道でも、話をわかりやすくするために、アクション対リアクション、ポゼッション対カウンターという二項対立を見出しに持ってくることはよくある。さすがに本文ではもう少しこまかく噛み砕くようだが、二元論的な考えを引きずったままの記事、あるいはブログやTwitterのPostがないわけではない。

現在の日本代表をめぐる報道や論評を読むと、新しい方針を推進するハリルホジッチ監督と、それについていけなさそうな(いきたくなさそうな)選手たちの齟齬、という構図を基礎に据えながら、しかし煽りを控えたものが多いようだ。まだ答えが出ていないからだろう。これではだめだということが白日の下に晒されればいっせいに叩かれるだろうが、まだそういう段階ではない。言い換えると、歯切れの悪い記事が目につく。
この歯切れの悪さの遠因は、一般世間のサッカーへの理解度が年々高まってきていることにあるのかもしれない。現実のディテールを無視して対立煽りを企図、単純化した記事を書けば、サッカーファンに「んなわけねーだろ」と批判され、あのメディアはサッカーをよくわかっていない、という烙印を押される。自ずと、無用な煽りは控えようということになる。

東アジアカップではコンディションの悪さと国内組のみの選手選考、開催地の猛暑というエクスキューズがある。この状況で、低めの位置で奪い前線まで長い距離を走りつつタテに速いサッカーを90分間貫徹できなかったとして、それを批判することが妥当なのかどうか。そもそも、90分間をひとつの戦い方のみで貫くチームはあまりない。守備のやり方にしても、前からプレッシャーをかけに行くのか、後方にブロックをつくって構えるのかは試合の状況によって変わるし、ブロックをつくる場合でもその位置やボールの獲りどころの設定は「この状況ではこうしろ」と、コーチングスタッフはミーティングの際、こまかく選手に伝えているものだ。おそらく代表も同様だろう。この獲りどころを切り換える判断を、暑いなか、集中して最後までできたなら、監督やコーチはよくやったと評価するはずだ。

日本のサッカーには、フィジカルが弱い、プレッシャーがかかった状況下で技術を発揮しにくい(ノープレッシャーでは巧い)、タテへの推進力や迫力に欠ける――といった問題点がある。そこを克服するためにハリルホジッチ監督は球際に厳しくタテ志向を強調した大方針を掲げているのだろうが、もちろんサッカーはひとつの型の演武を競うスポーツではないから、状況によってヨコパスを入れてボールを保持する時間をつくりもする。その使い分けで、タテに行く時間あるいはボールを保持する時間が多めになる、少なめになるという変化はあるが、ポゼッションの時間を増やしたからと言ってハリルホジッチ監督への反乱にはあたらない。試合中には選手が責任を持って判断しなければならないからだ。
こうしてチームの身になって考えていくと、監督と選手の対立点は消えてしまう。仮に、ハリルホジッチ監督にチーム運用の拙さや理論の粗雑さといった欠点があると明確になれば話は別だが、そこまではっきりだめだと断言できる材料は揃っていない。対立煽りはできない、ということになる。

長身のセンターバックがいない弱点が露呈した対北朝鮮戦のあと、日本代表はディフェンスを修正して長身フォワードへの対応策を練り、対韓国戦ではなんとか引き分けた。攻撃に関しては、試合終了間際、競り勝つのが難しそうな川又堅碁に長いボールを入れて案の定競り負けるなど物足りなかったが、ボールを廻している時間帯にそのリズムのなかから山口螢が同点ゴールを決めていて(※二元論化してタテポン絶対正義の論陣を張ってしまうとここも批判しなければならなくなるが、さすがにその必要はないだろう)、進歩がなかったわけではない。対中国戦でどのような改善をするか見てみようという慎重な意見になるのは当然の成り行きとも言える。
日本代表が具体的にどう守りどう攻めてどのように試合を進めるのかを確かめながら、東アジアカップ最後の試合を見守る。意見するのはそのあとでも遅くない。

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