青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン

無料記事 【レビュー】2012 Jリーグディビジョン1 第25節第1日 清水エスパルス対FC東京(2012/09/18)

2012年9月15日 19:04キックオフ アウトソーシングスタジアム日本平
[入場者数]13,714人 [天候]晴、無風、気温27.2℃、湿度76% [ピッチ]全面良芝、乾燥 [試合時間]90分
【マッチコミッショナー】高橋信光【主審】家本政明
<勝ち点37→38>清水エスパルス1-1(1-0)FC東京<勝ち点36→37>

自分たちで与えた清水の先制点

試合開始前の囲み取材で、ランコ ポポヴィッチ監督はこう言った。
「よい準備ができたかどうかは、試合が始まってから見てみましょう」
そしてハーフタイムには「前半はまったくダメ」と、FC東京イレヴンに駄目出し。試合後、共同記者会見では、全体的にテンポの速い試合であったことと、後半のよさを強調していたが、その後の囲み取材では、やはり前半についての反省が口を衝いて出た。
「前半は最低。きょうの失点は相手に獲られたというより、自分たちで与えたようなものだ。対ジュビロ磐田戦での1失点目と同じ」
左サイドバックの丸山祐市が、短いクリアを大前元紀に奪われる。その危機を一度は脱したが、今度はドリブルで持ち出してゴール前の危険な状況から逃れようとした米本拓司が、またも大前にボールを奪われ、そのままシュートを撃たれた。大前は殊勲の先制ゴールをマークした。

キックオフ直後から清水エスパルスのペースだった。東京もつなぐ機会が皆無というわけではないが、清水のプレッシングに押されてショートパスをつなぎにくくなっていた。
清水は右ウイングの大前を中心とした前線の選手たちが、攻撃に於いてはシンプルなタテパスに呼応してスペースへと飛び出して脅威となり、守備に於いては出足の速いプレスでFC東京のボールホルダーからボールを奪っていた。
つまり、攻守に渡り、出足の速い清水の前線に先手を奪われ、試合を支配され、東京は後手にまわっていた。
いきおい攻守の切り替えは頻繁なものとなり、そこかしこでボールの奪い合いが発生する。東京のチャンスは速攻、それも右サイドの石川直宏と徳永悠平を中心に、周囲の加賀健一、梶山陽平、ルーカスが呼応するものがほとんどだった。
清水のプレッシングとウラやサイドのスペースへの飛び出しに苦しめられた。それがファーストハーフ45分間の、東京の姿だった。
もし石川のシュートがクロスバーを叩いた(前半21分)あとにバウンドしてゴールへと入っていれば。もしルーカスが石川からのパス(前半27分)をふかさずにシュートしていたら。ゲームの展開は変わっていたかもしれない。
しかし現実には大前によって清水の試合であると決定づけられ、その状態をひっくり返すことができなかった。

清水のアフシン ゴトビ監督は小野伸二、高原直泰、小林大悟をベンチにすら置いていない。岩下敬輔はガンバ大阪に移籍した。ずいぶんと思い切ったメンバー構成で、もし大前や、この日は欠場した高木俊幸といった突破力のある選手を中心にした「飛び出し+ハイプレッシングサッカー」で結果を残さなければチームが崩壊してもおかしくないところだが、勝ち点を重ねて中位から上の存在感を示している。
要するに清水は弱いチームではない。サッカーは相対的なものだから、清水に東京が押されていた面もあるだろう。
しかし激しいプレッシングを持つチームと対戦したらパスワークが封じられるようでは、とてもポゼッションサッカーを標榜することはできないだろう。むしろプレスをかいくぐるからこそすばらしいパスワークということになるのだが、そうした「つなぎ」は影を潜めていた。

「主導権を握るために自分たちが何をすればよいかを考えていきたい」(試合前、ポポヴィッチ監督)

試合後、監督からも選手からも、前半は判断がよくなかった、という反省の声が挙がった。試合への「入(はい)り」が悪い、という声もあった。
何がよくなかったかは、選手たちも気づいている。しかし自分たちでは、よくない状態を修正できなかった。ハーフタイムに監督に諭され、客観的に前半の内容を捉え直すまで、自分たちの実行すべきサッカー像を取り戻すことはできなかった。

ポポヴィッチ監督は言う。
「選手はそれをピッチ上で感じてはいたが、修正できなかった。相手のよさ、ストロングポイントを出させないために、いなす必要があったのだが……」(試合後、囲み取材)

イキのいい清水イレヴンの走りに対し、東京の選手たちはどことなくからだの動きがぎこちなく見えた。もしかしたらコンディショニングが十分にうまくいっていなかったのかもしれない。それならそれで、プレッシャーをかけられた状況での、時間のないなかでのすばやく正確な判断を、練習だけでなく公式戦でも発揮できるように練習するとともに、キックオフ直後から激しく動けるように、コンディションを整えなけれなならない。

パスサッカーへのこだわりにどこまでこだわるか、という基準についての意識にも、コンセプトを見失わない範囲に於いて、若干の変化が必要かもしれない。
権田修一は「(パスをつないで支配する)ウチの時間と言わず、仕留めてしまえばいい」「一瞬どこで仕留めるかというところにエネルギーを割くことができれば、得点は生まれると思う」と言う。権田はセリエAの試合を観てのフィードバック込みでそう言っていたのだが、もちろん似た事例は国内でも見つかる。
先日おこなわれた天皇杯2回戦、HOYO AC ELAN 大分(JFL)は格上のヴェルディ(J2)相手にも「自分たちの」つなぐサッカーを貫いた。しかし、要所で正確なスキル(技術+判断)を発揮したヴェルディに得点を重ねられ、敗れた。支配している状態、パスをつなぐことができている状態は、必ずしも優勢を意味しない。

J1は残り9試合。天皇杯で敗退し、J1で3位以内に入らなければ来季のACL出場権を獲得できなくなった東京にとっては、目先の勝ち点が重要になる。
理想の追求も大事だが、結果を残さなければいけないという危機感が強まっている。何度となく、試合開始直後の悪さで勝ち点を失ってきたことへの憤りもある。順序が逆になるのかもしれないが、勝ちにこだわりながら内容を追求する時期が来たと考えていいだろう。リーグ戦終了まで、もうあと二カ月しかない。

ブースターとなる選手のひとりはネマニャ ヴチチェヴィッチだろうか。ポポヴィッチ監督は「パスをするのか、スペースへ出ていくのか、勝負するのかの判断をしっかりするように。あとは楽しんでこい」と指示をしてヴチチェヴィッチをピッチに送り出したそうだ。ドリブル、パス、ショートコーナー、シュートという決定機でのプレー選択は的を射たものだった。
ポポヴィッチ監督は、あのゴールで満足してはいけないと、ヴチチェヴィッチへの期待を語った。
既に、彼を含めて選手のクオリティを議論する段階にはない。個々の質が高いことはわかっている。それをどう運用するか。ベンチワークも、選手の準備も、もう一段階上が問われる終盤戦になる。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ