「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

クラウドファンディングを実施する理由と現状への危機感/栃木SC 橋本大輔代表取締役社長インタビュー(23.4.10)

(写真はすべて栃木SC提供)

 

10日、栃木サッカークラブがクラブとして初めてクラウドファンディングを実施するとリリースした。このインタビューは本企画を実施する旨、事前に情報を受け取ったこともあり、3月中に敢行している。クラウドファンディングを実施する理由や、現状のクラブを取り巻く環境への危機意識について、改めて橋本大輔代表取締役社長に話を聞いた。

 

【お知らせ】クラウドファンディング実施決定! Forward together ~つなぐ、栃木の未来~

 

 

▼成長を加速させるため

――今回、クラウドファンディングを実施しようとした経緯や思いから聞かせてください。

橋本 クラウドファンディングについては以前から「実施しないのですか?」というお声を多数頂いておりました。クラブ内でもその都度議題には挙がっていましたが、クラブのスタンスとしては、できるかぎり、まず自助努力でやっていきたいとの考えがありました。地域の方々から寄付行為をしていただくことについて、このクラブは過去に地域の方々にご迷惑をかけています(13年秋に債務超過が明るみとなり、その年の暮れに『SOS募金』を実施した)。同じような印象を抱かれるのは良くないとの考えが頭の片隅にありました。

個人の方々などから広く集める前に、まず自分たちで努力し、チケットやグッズを売ったり、パートナー企業の皆様を開拓したり、というのが本来あるべき姿だし、それをまずしっかりとやりたかった。しっかりとやれるようになってから、プラスαで成長速度を加速させていきたいとの思いがありました。もちろん、コロナ禍によってクラブが潰れてしまう状況ならば実施していたと思いますが、まずは本業を全うしようと。そのうえで今、ようやくコロナ禍が落ち着き、さらにファン・サポーターの声出し応援が始まったタイミングで、この流れをさらに加速させる必要があると判断しました。

――世間がアフターコロナのステージに入り、さあここから行くぞ、というベストなタイミングが今だと。

橋本 クラブとしては「コロナ禍が明けたときに力強く加速できるように準備しよう」とずっと言ってきた経緯があります。コロナ禍のうちにファン・サポーターが減らないように繋ぎとめる努力をしたり、新スタジアムに来ていただく努力をしたり、コロナ禍が終わるタイミングを見越して様々な準備を進めてきました。最近でいえば、新スタジアムの駐車場問題を解決する一つの方法として『akippa』をやり始めたり、『キャッシュレス決済』を始めたり、新たにお客様を集めたり満足度を上げたりするための様々な施策をスタートさせたタイミングでもあります。ここでクラウドファンディングも実施しても良いのではないか、という考えに至ったということです。

それからもう一つは、コロナ禍にクラウドファンディングが持つ意味合いが変わるのを目の当たりにしたこともあります。他クラブの様子を見ていると、ファン・サポーターや企業の皆様がクラブに関与しながら一緒に作りあげる、その一つのイベントのようなものに変わっていった印象を受けていました。“財務的な危機を乗り越えよう”という趣旨ではなくなり、“クラブとして新しくチャレンジすることに皆様もご協力をお願いします”という意味合いが強くなってきていると感じます。

僕たちはこれまでJ2の中位や下位にいますが、しっかりとクラブを経営しながら、ここからJ1昇格を狙うために新たな窓口を設けることで、さらに上位を目指すための基盤を作っていきたいし、その道のりを力強く進んでいきたいと考えています。すでにグッズ等々、シーズンパスポートなども購入いただいている方々が「もっとクラブに関わりたい」ということであれば、クラウドファンディングを一つの窓口として設けるのもいいのでは、と考えが変わっていきました。

――この間、J2勢はJリーグからの分配金が減額されるタイミングも重なるなど、クラブを取り巻く環境は厳しさを増していると思います。

橋本 毎年受け取っていたJリーグからの分配金が今後は5千万円ほど減額になります。クラブにとって5千万円の減額は死活問題ですから、減ってしまう分をどうにかしないといけない状況であることは確かです。

 

 

▼育成やトップチーム強化の資金に

――クラウドファンディングで集めた資金の使用用途については?

橋本 できるだけ競技面へ、つまり、育成やトップチームに直接関わる資金にしたいと考えています。トップチームの選手獲得のための資金に利用させていただくかどうかは決定事項ではないので、その点はクラブに任せていただきたいと思っていますが、できるかぎり選手獲得やチーム強化に対して、直接繋がるための窓口を作ろうという意味合いになります。

――集まった資金を使用する用途は幅広くなるのですか?

橋本 基本的には育成やトップチームの選手を獲得する、または環境のために使う考えを持っていますが、例えば、どのポジションの選手を獲得する、といった限定的な名目でクラウドファンディングを実施してしまうと、各方面、あるいは、既存の選手たちに対する心理的負担も大きくなってしまう側面はあります。この新たな制度を今後も無理なく続けていきたいと思っているし、基本的には強いチーム作りのために幅広く使用しますので、皆様にご協力をお願いします、というスタンスにさせてください。

――継続的に続けていきたいとのことですが、どのくらいの頻度で募集するのでしょうか? 窓口はずっと開けておくのですか?

橋本 一回一回締め切りは設ける予定で、必要であれば定期的に実施していきたいと思っています。昨今のJ2クラブの営業面の平均収入は15億円程度で、その中で、栃木サッカークラブの営業収入も毎年確実に増えているのですが、他のクラブも成長しているので、成長スピードを加速させる必要があると感じています。僕たちのなかに危機感としてあるのは、財務的な危機感よりも、このままのクラブの規模でやっていると他のJ2クラブに置いて行かれる、なんとか食らいついていかなければならない、という危機感です。

――その辺りの危機感についてもう少し詳しく教えてもらえますか?

橋本 以前もお話しをしたと思いますが、“一周回った”という感覚なんです。もともと栃木サッカークラブはクラブハウスの設立や練習場の確保について、市民クラブレベルでは早い方だったと思います。今、新たにクラブハウスや練習場ができ始めているクラブは当時、栃木にも視察に来てくれていたクラブもあります。周期が一周回ってしまい、僕らが他のクラブよりも遅れ始めてきたというのが現在地だと考えています。最近、鹿島アントラーズも練習場を補修するなどしていますが、他クラブが環境面で良くなっていく以上、そういう周期が必ずあると思っています。僕らも早急にテコ入れをしないといけないし、ここで環境面も再整備し、クラブを進化させていく必要性を強く感じています。クラブとして周りに追いつかれ、追い抜かれ、でもここから負けないように食らいついていきたい。

 

 

▼クラブ環境の劇的な変化を受けて

――環境面の整備や競技面に使用する資金をしっかりと確保したいと。

橋本 そうですね。それからもう一つは、Jクラブにも徐々にM&A(企業の合併・買収の意)が増えている現実があります。責任企業を持つクラブが増え、環境面が強化されているので、徐々に差が出ていると感じています。市民クラブとしてJ1を目指すためには、うまくやる必要があるし、期限もあると感じています。Jリーグに参入する企業が変わり、環境が変わるなか、僕らは市民クラブとして、株主様、パートナー様、地域の皆様とどう進んでいけばいいのか、このクラブを一緒に育てていこうとする地域的な雰囲気を作っていかなければいけない。そういう強い危機意識があります。

――市民クラブは、地域やファン・サポーターとの一体感がないと難しいという危機感。

橋本 例えば、監督が「集まれ!」と言ったときに選手たちだけではなく、クラブスタッフやファン・サポーターも「俺たちもだ」と思えるようなクラブになっていかないといけないのではないかと。そういう雰囲気を作っていかないといけない。そうじゃないと、いざという大事な一戦で勝てない気がしているんです。

――それは去年のJ1昇格プレーオフを見届けた肌感覚からですか? 橋本社長は今オフ、プレーオフを戦う熊本などの地域との一体感を口にされていたと思います。

橋本 そうですね。あとは、2017年のアスルクラロ沼津との決戦を思い浮かべます。あれだけのファン・サポーターがアウェイの地まで来てくれたからこそ、あの大一番を乗り越えられたと思っています。一方、大事な一戦で来ていただけなかったのは2015年のホーム最終戦(京都戦)。J3降格間際のあのときのスタジアムは4千人程度でした。サッカークラブは、いざという大事な一戦で力を発揮し、結果を残せないとどうにもなりません。大事な一戦に多くの方々に集まっていただき、その一体感で乗り越えていく。その重要性は、僕の経験上、肌感覚で強く感じています。僕らには親会社がなく、助けてもらえる確固たる母体もありません。皆様に幅広く助けていただく。ある意味で、僕らは“株式会社栃木”なんだという感覚を持っています。

――今季のキックオフパーティのときに、パートナー企業の皆様がいる前で、橋本社長が「栃木SCを使い倒してほしい」というワンフレーズでプレゼンをされていたのは印象的でした。

橋本 初めての取り組みでした。それも今お話しした思いから始めたことの一つです。これは営業部スタッフから聞いていたのですが、営業先でSDGs(持続可能でよりよい世界を目指す国際目標の意)の話題を挙げたときに地域の皆の感触がすごく良かったそうなんです。SDGsの取り組みの一つとして、僕らはこの地域のなかで栃木SCをぜひとも使い倒してほしい。僕らはもっと地域の方々と一体になってやっていかないといけないんです。そのためにも、今回のクラウドファンディングも含めた様々な施策にチャレンジしながら、地域と一緒に力強く前に進んでいけたらと思っています。

(了)

 

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