「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

なぜ、東京石灰工業株式会社は栃木SCのトップパートナーになったのか?/菊池宏行代表取締役社長インタビュー(22.12.23)

今年7月、栃木SCは2022シーズンのトップパートナーとして、東京石灰工業株式会社と契約を締結したとリリースした。

東京石灰工業株式会社――

今まで馴染のなかった企業がいきなりトップパートナーに――?

すぐにホームページを検索すると、本社は東京、カナダのバンクーバーに支店があり、事業本部は佐野にあるという。

「佐野」「石灰」というキーワードからピンとくるものがあった。まだ北関東道が通っていない頃、宇都宮から佐野方面に向かうときは国道293号をよく使ったものだが、その道中に砕石系の工場地帯があった。

ズバリだった。インタビューのために佐野方面に車を走らせると、293号沿いにその建物は見えてきた。

今回、栃木サッカークラブの協力もあり、東京石灰工業株式会社のグループトップ、菊池宏行代表取締役社長にインタビューをさせていただく機会を得た。テーマは「なぜ、東京石灰工業株式会社は栃木SCのトップパートナーになったのか?」。その一部始終をお伝えしたい。

(取材・撮影 鈴木康浩)

 

東京石灰工業株式会社の菊池宏行代表取締役社長。創業地の佐野市出身。

 

▼東京のインフラはほぼ栃木の石

――東京石灰工業株式会社は今年初めて栃木SCのトップパートナーに就任しました。BtoBの業務形態ということもあり、一般のファン・サポーターにはなかなか馴染がない方もいると思います。まず、どういう会社なのかお伝えしてからインタビューを始めさせてください。

「会社の主力として扱っているのは建設資材である砕石、道路のアスファルト、生コンの石や砂、家や工場を造成するときに敷きならす砕石などです。あとは、目につくものでいえば関東一円を通るJRの線路の敷石のほとんどが弊社で請け負っています。来年開通する宇都宮市のLRTの一部にも弊社の敷石が入っています。建材系の素材を多数扱っており、関係会社に建設会社、佐野ガス、カナダにはレストランや不動産の会社があります」

――ホームページを見ると本社は東京ということですが。

「本社登記が東京で、事業本部は佐野。ここが創業の地になります」

――創業の地は佐野で、この地域に根差していきたいということですね。

「地域に根差そうとする姿勢は昔から変わりません。この地域のみならず、佐野からダンプの陸送で100キロ圏までカバーしており、羽田空港や成田空港、湾岸地域、お台場、その他東京のインフラはだいたい栃木の石で作られているんです。そのうち佐野地域の石が占めるパーセンテージは非常に大きいです」

――菊池社長のご出身はどちらになりますか?

「この佐野ですね。私が東京石灰工業の三代目社長になります。中学と高校は九州、大学は東京に出て、卒業後に佐野に戻ってきました」

――スポーツとのかかわりはいかがでしょう?

「ずっとやっていたのは水泳で、チームプレーのスポーツはほぼ経験がありません。その良さを感じたのは大人になってからです。互いを補完し合えるのがチームスポーツの醍醐味ですよね。これは会社経営に近い。仕事を受注して、生産して、ダンプに積む人がいて、出荷担当がいて、納品して、請求書を作って、はじめて会社にお金が入金される。そういう横軸の繋がりで会社は成り立っている。今、ワールドカップではずっと森保監督を見ています。この前、カンセキスタジアムに行かせてもらったときは時崎監督をずっと見ていました。メンバー交代、配置転換をどう考えるのか、と見入っていましたね。会社経営との親和性を感じ、面白いです」

 

▼スポンサードを即決した理由

――それでは、なぜトップパートナーになる決断をしたのか? について覗わせてください。実際に栃木SCからスポンサードの話が来たときに率直にどう思われたのでしょうか?

「話が来たときにスポンサードの話であることはわかっていました。栃木SCさんのホームページを見たときに、県南の企業のスポンサーが少なく、きっと県南の企業に何かしらのアプローチがしたいのだろうと。そういえば、県南はそれほどサッカー熱がないと感じます。とはいえ、この辺りから栃木SCの試合を観に行っている人たちはたくさんいるんですけどね」

――もう15年以上前ですが、栃木SCがまだJFL(日本フットボールリーグ)を戦っていた頃には足利で公式戦を実施していた時代があったんです。

「そうなんですね。それである日、栃木SCさんの営業の方々がいらっしゃって、県南地域を盛り上げたい、と言われ、じゃあやりましょうと」

――即決ですか?

「はい。初めは、栃木SCさんのようなスポーツチームがこういう業種にアプローチに来るんだ、と驚きました。本来、一般の方々でもイメージがしやすい業種にスポンサードのお願いをするものと思っていたんです。ただ、話を聞けば、宇都宮中心から県南地域もターゲットにしたいとのニーズがあるようで、よくここを調べられましたね、という感じでしたね。それで、どこのスペースが残っているのですか? と聞くと『パンツのスペースが空いています』と。ではそこでお願いします、と決まりました」

――スポンサードに対するハードルはなかったのですか?

「事前に社内でも話をしていて、スポンサードするならばサッカーがいいよね? という話で合致していたんです」

――サッカーがいいと思うのは、なぜですか?

「サッカーは地上波にしても露出が多いし、世界規模ですから。スポーツビジネスについて詳しくはわかりませんが、やはり野球、サッカーだろうと」

――コロナ禍であり、スポンサードに対して消極的になるのが一般的だと思いますが、即決だったと。

「私、逆張りなんです。世の中が停滞しているときにできるだけの投資をするんです」

――その心は。

「周りが動かないからです。もちろん、それで失敗するほどの投資はしませんよ。出来得る範囲でやれることをやる。利益が上がらないから何もやらないと利益率は下がるだけです。世の中は動いているので、そのスピードに何が何でもついていくには、できるだけ前進しなければいけない。実は、コロナ禍になるずっと前から広報活動が重要だと思っていました。学生さんたちの『行きたい企業ランキング』と『知っている企業ランキング』はほぼ同じなんです。そうである以上、広報にある程度の予算をつけながら、会社をきちんと外へ打ち出していく必要がある。サッカーのユニフォームを着た選手たちが頑張っているときに、うちの企業名がちらちらと映るだけでも広報活動は成功していると考えています。

スポンサードに限らず、 東京石灰工業はコロナ禍においてより投資をしています。景気が悪いときに生産性を高める投資をし、働き方を見直し、効率性を上げ、利益率が上がるように持っていく。すると、やがて景気が良くなったときにボンと利益率が上がるのです。だから、生産性投資は景気が悪いときにするべきなんです。景気が悪いときは社員の考え方や意識が慎重になるから、仕事が雑にならない。そのときに社員が気持ちよく働けるように、生産性投資を進め、より良い環境をどんどん作ってあげると、より利益を生み出してくれます。忙しいお店に行くとサービスが雑なときがありますよね? 忙しいときはどうしても効率性や生産性は落ちがちになるので、このタイミングで生産性投資をやっても社員が変化に気付けない。だから、社員がわかるとき、つまり景気が悪いときに投資をするんです」

――なるほど。

「そのような投資の一部として、会社を広報することにもっと予算を割くべきだとずっと考えていましたが、ではどう広報すればいいのか、それがわからなかった。潜在的な悩みでしたが、そんなときにちょうど笹川さん(栃木SCの営業スタッフ)がスポンサードの話を持って来られて、これは面白いかもしれないと感じました。即決でしたし、タイミングが良かったこともありますね」

――BtoCの領域で東京石灰工業の露出を増やせる機会だと感じたわけですね。

「そうですね。頑張っている選手たちのユニフォームに自分たちの会社のロゴがある。これほど神々しいものはありません。昨日、たまたま関係会社の方が来たときに『栃木SCのスポンサーになられたのですね?』と言われたんですよ。その会社の女性社員が栃木SCさんのサポーターらしく、東京石灰工業のロゴを見つけてくれたらしいんです」

――さっそくの効果ですね。

「そうなんです。私にはこの企業の認知度を高めなくてはいけないという使命感のようなものがあります。栃木県の骨材でこの日本が作られていると言っても過言ではありませんから。東京石灰工業は創業70年という歴史があり、これから先も脈々と歴史を紡いでいかなければならない仕事である以上、この地域に限らず、この会社を全方位的な方々に知ってもらうことは非常に大事だと考えています。

それと、これは表現が失礼かもしれませんが、栃木SCさんがまだまだ発展途上のチームというのがいいし、クラブの哲学である『Keep Moving Forward』という姿勢や考え方が素晴らしいじゃないですか。東京石灰工業のように創業70年も経つ企業はどうしても『Keep Moving Forward』という考え方は薄くなってしまうものなんです」

――『Keep Moving Forward』、常に前進し続ける、という意味ですね。

「東京石灰工業は企業として成熟期を迎えていますが、私は成熟するというのが苦手です。会社は常に『Keep Moving Forward』という精神でありたい。自分たちの意識として常に成長していないといけない。だから、栃木SCさんが発信されていたその言葉が自分のなかに刺さったんです」

――刺さった。

「まだまだ発展途上で、地域や社会に支えられている栃木SCさんに対し、我々東京石灰工業も企業として、そして社員たちが貢献する。それは東京石灰工業が社会への貢献度を高めることに他なりません。そもそも強いチームを支援するのでは、個人的には勝馬に乗ったようで面白くありません。そうじゃないチームだからこそ良いと思っています」

 

 

 

▼前進しようとする人間は負けることはない

――このお話は、栃木SCの橋本大輔社長もきっと喜びますね。栃木SCのクラブフィロソフィーである『Keep Moving Forward』は数年前、それまで毎年掲げていたスローガンを取り辞めて、未来永劫、普遍的にあり続けるクラブの哲学として作り上げたものでした。それが外から見た方々にそのように“刺さる”とは、驚きを超えて、今ちょっと感動しております……。

「そうなんですね、少なくとも私には刺さりましたね。とはいえ、栃木SCさんが万年J2の中位でいい、ということではありませんよ。もっと強くなってほしいし、できればJ1昇格争いに絡んでいってほしい。ただ、常に前進するんだ、自分たちは成長するんだ、チャレンジャーだ、という気持ちがある人間は負けることはありません。勝てなくとも、負けることはない。なぜならば、自分から折れることはないからです。そういう前向きな気持ちが、創業70年になる会社をまだまだイノベーションしたい、変革したいという気持ちに駆り立ててくれるし、鼓舞してもらえるんです」

――今回インタビューを敢行しようと思った理由の一つに、スポーツチームに対して企業さんがスポンサードするメリットはいったい何なのかが知りたかったことがあります。そこには金銭面のシビアさも必ずあるはずだし、しかし、それらを超越してフィロソフィーが“琴線に触れた”というのは、非常に興味深いです。

「もちろん、金銭的にいくらか、その現実もあると思います。例えば、ソフトバンクさんがプロ野球球団を買収したことはすごいです。JR九州の職員たちがソフトバンクさんのユニフォームを着用しながら窓口に立っていれば、それは企業にとって相当大きなメリットでしょう。その意味でいえば、今の東京石灰工業はまず皆さんに会社を知ってもらうことが先ですから、そうなるために我々は栃木SCさんをスポンサードしながら会社の認知度を高め、栃木SCさんは発展途上の段階から少しずつでも成長を果たしていく。そうやってお互いに相互補完できるというメリットも当然頭にあります。ただ、私は、発展途上だろうと何だろうと、必ず成長するんだと心に決めている人たちと一緒にやっていきたい。その気持ちは、東京石灰工業のように成熟期を迎えた会社に一番足りないものだからです。我々はその姿勢学びたいし、その前向きな精神を会社のなかにいれていきたい。

実際、スポンサードの話が決まってからは、会社の社員たちも喜んでいるんですよ。関係会社の女性社員の中にはサポーターの鑑のような人もいて、初めて観戦に行くときに事前に応援するためのユニフォームを買ってからスタジアムに行ったそうなんです」

――初観戦のときにユニフォームを着て応援するというのはすごい熱の入れようですね。

「ライブでの一体感を求めているのだと思いますね。『また行きたい』と言っているし、楽しかったようで何よりでした。私も天皇杯の京都サンガF.C.戦を観戦するために初めてカンセキスタジアムに行ったのですが、試合内容云々よりも、まずは会場の雰囲気そのものが本当に楽しかった」

――日々お忙しいかと思いますが、ぜひ、また来季もいらしてください。栃木SCのトップパートナーになってもらったことに親近感を抱いているファン・サポーターも少なくないと思いますので、最後にメッセージをお願いできますか?

「東京石灰工業が地域社会に対して寄与できるチャンネルであり、このような機会をいただけたことは本当にありがたいです。すでに栃木SCさんを熱烈に応援されている方々がいらっしゃる中、我々は新参者ですが、成長したいんだ、前に進むんだ、という選手たちを後押しすべく、皆さんと一緒に前に進んでいければと思っています。私自身、この県南地域に限らず、栃木SCさんのサポーターがさらに増えるための努力をしていきたいし、栃木SCさんが成長する過程に寄り添わせてもらえればと思います。そしてまた来季もJ1昇格を目指して一緒に頑張っていけたらと思っています」

 

インタビューを終えて、改めて、栃木SCのクラブフィロソフィーである『Keep Moving Forward』が刺さった、というのは驚きだった。昔からスポーツクラブは夢を広く共有することで周りに支えられ、前進してきた。それは今も変わらないが、夢を語るにしても差別化は必要で、夢を語るときの、角度、深さ、姿勢、メッセージ性が改めて大事なのだと痛感する。つまり、「J1へ」だけではない何か。それが、今回のトップパートナー契約、および、ファミリーとしてともに前進していくための肝になったことは間違いない。

(了)

 

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