「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

ついに壁をぶち破り、歴史を塗り替える! 栃木SC U-18、プリンスリーグ関東2部に初昇格!【ニュース】(22.12.17)

決勝ゴールを決めた俊足の佐藤佑磨(2年)。

キャプテンの菅原伶欧(3年)は堅実かつ気迫の守備でチームを牽引した。ジュニア時代から栃木SCアカデミーの10年戦士だ。

 

高円宮杯 JFA U-18サッカーリーグ2022プリンスリーグ関東2部 プレーオフ(参入戦)

八千代高校(0-1)栃木SC U-18

 

▼電光石火のゴールで先手奪取

これまで何度も立ちはだかってきた壁をついにぶち破り、栃木SCU-18(以下、栃木)がクラブ史上初めて、プリンスリーグへの扉をこじ開けた。

黒﨑隼人、森俊貴、明本考浩らがいた世代は昌平高(今年プレミアリーグに初昇格)に跳ね返された。小堀空がいた代も櫻川ソロモン擁するジェフ千葉U-18(千葉県リーグ1部)に阻まれた。何度も挑戦しては跳ね返され、今回のプリンスリーグ参入戦は通算6度目となる昇格へのチャレンジだった。

相手は千葉の強豪、八千代高。12月の全国高校サッカー選手権の千葉代表の座を獲得した日体大柏、習志野、ジェフ千葉U-18、市立船橋Bといった強豪ひしめく千葉県リーグ1部で優勝。18試合で失点わずか11。試合前は、八千代側のテンションが非常に高く、その勢いにのまれるのでは、という懸念もあった。

 

だが、目の覚めるような立ち上がりで奇襲を成功させたのは栃木だった。

左サイドにボールを集め、俊足の佐藤佑磨(2年)がタッチライン際を切り裂く。

「最初のプレーで縦突破に成功し、これはいけるぞという自信に繋がった」(佐藤)。

その5分後だった。再び佐藤が左サイドを切り裂き、すばやくカットイン。「試合前から只木監督にはボールを持ったらガンガン仕掛けろと言われていた。シュートしか頭になかった」。スピードに乗ったまま中へ切り込むと、右足を一閃、逆サイドへと流し込んで先制に成功した。

 

反撃を試みる八千代はボールの動かし方がうまく、流動的に立ち位置を変えながら栃木のプレスを交わし、巧みにボールを前進させていく。しかし、栃木も動じない。

「自分たちの強みはプレッシャー。相手にボールを持たせているというポジティブな感覚でプレーできていた」とキャプテンのCB菅原伶欧(3年)。

八千代のボールは栃木のブロックの外側を回り、いざ中に入ってきたときにはタイトな守備で応戦できていた。そして、奪った瞬間にサイドへ広げながらすぐさまカウンターを発動すると、前線に入った揚石琉生(2年)や荒瀬悠征(3年)らが頭抜けた推進力で八千代ゴールに迫った。追加点こそ奪えなかったが、しっかりとした守備からペースを握っていたのは栃木だった。

 

だが、後半は時間の経過とともに八千代に一方的にペースが傾いていく。

前線の選手たちの足が止まり、相手の最終ラインにプレッシャーが掛からなくなると、前半よりもブロックの位置がかなり低くなっていた。最終ラインの要、キャプテンの菅原は前半のうちから足を気にする様子があったが、その他にも時計が止まった瞬間に足を伸ばすなど気にする選手たちが続出した。

「緊張感もあっただろうし、走力が落ちたのもある。でもここまで落ちることはそうはなかった」

ベンチで見届ける只木章広監督も心配な表情でピッチを見つめていたが、これでプリンスリーグ昇格が決まる緊張の大舞台。普段以上に気持ちが前のめりになり、ゆえに、早くに消耗してしまっている様子が覗えた。

八千代がひたすらボールを回し、栃木の選手たちが後追いするが、プレスが届かない。それでもボールが中に入ってきたときには、CB菅原やGK三浦悠斗(3年)を中心に粘り強く対応し、ケアレスミスも犯さない。

やがて相手が焦れるようにロングボールを放り込む作戦に切り替えてきたが、決定的なシーンを作らせることなく、後半も45分の表示が過ぎた。あとはアディショナルタイムの4分を残すのみ。

キャプテンの菅原がプレーが途切れる度に「気持ちを見せろ!」と味方を鼓舞し続けていた。交代で入ったフレッシュな選手たちが前へボールを運び、時間を稼ぐ。終了間際には、前掛かりになる八千代の背後を取り、鋭いカウンターから相手のゴールライン上まで迫ったが、相手DFが間一髪クリア。

その直後だった――。ついに、歓喜の瞬間が訪れた。

試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、選手たちは両拳を突き上げ、ベンチからは仲間たちが飛び出し、抱きついた。栃木SCとしてクラブ史上初めて、県リーグ1部の壁をぶち破り、プリンスリーグ関東2部昇格を掴み取った瞬間だった。

 

 

 

▼泣き崩れたキャプテンの菅原伶欧

「顔を上げろ!」「気持ちを見せろ!」

スコアは10。リードはしているが、防戦一方のまま迎えた後半アディショナルタイム。極限状態の中、キャプテンのCB菅原の気迫がピッチにこだましていた。自らの胸を何度も叩き、握りしめ、仲間を鼓舞し続けた。

「無我夢中でした。やらせたくない。すべてやり切りたい。その一心でした」

決戦前夜のインスタグラムには個人の思いを吐露していた。ジュニア時代から10年間、栃木SCのエンブレムを背負ってきた。高校卒業後は大学進学を決めており、これが栃木SCのアカデミー生としてのラストゲームだった。

10年間の集大成として、このクラブに恩返しをして出て行きたかった。絶対に歴史を塗り替えて見せる。最後の15分はめちゃくちゃきつかったけれど、でもアドレナリンが爆発していたと思う」

試合終了の瞬間、ピッチに泣き崩れた。

「このクラブの歴史を塗り替えた瞬間に、キャプテンとしてピッチに立てていたことが嬉しくて。この仲間たちと成し遂げられたことが本当に嬉しくて。最高に嬉しいです。でも、自分たちだけで成し遂げられたわけじゃない。支えてくれた周りの方々に感謝しかありません」

 

 

 

▼勝因は感情の爆発

さながら栃木SCのトップチームの泥臭さを見るようだった。色濃く流れるDNA。指揮官が只木章広なのだから、当然だろうか。

試合の2週間前にはボールを繋げる尚志高(福島)と練習試合を組み、あえてボールを捨ててタフに守り抜くシミュレーションを試していたという。

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