「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料掲載】【あなたはなぜ栃木SCへ?】Vol.3 ホームタウン担当の小田里美さん「地域の方にびっくりするぐらい喜んでいただけるんです」/フロントスタッフインタビュー(22.12.13)

〝縁の下の力持ち〟クラブフロントスタッフの皆さんを紹介する「あなたはなぜ栃木SCへ?」。第3回は、ホームタウン担当の小田里美さんです。

(インタビュー・構成 稲葉美和/写真 栃木SC提供)

 

山形県南陽市出身。5年前に夫の転勤で宇都宮に移住し、職を探していたところ、前職のイベント制作会社時代の知り合いから紹介を受け、栃木SCに入社した。

 

「最初、(橋本大輔)社長に『サッカーはほとんど知らないんですけど、それでも大丈夫ですか?』と話したら『イベント業務の経験を生かせるんじゃないか』と言っていただきました。部活も吹奏楽部でずっと文化系だったし、スポーツは一切やっていないのですごく不安だったのですが、私がやってきたことを生かせる仕事なんだと思いました。サッカーは入社してから勉強しようと思って入れていただきました」

 

意を決して飛び込んだ未知の業界。スポーツクラブに対するそれまでのイメージは…

 

「スタッフさんもみんなムキムキなんだと思っていました(笑)。仕事終わりに『ランニングしようぜ!』みたいな感じなのかなと思っていたら、赤井(秀行)さんとかがいたのでそうでもないんだなと(笑)。皆さんとてもフランクに仲間に入れてくださいました」

 

入社1年目から現在の業務を担い、主に宇都宮市から依頼があったイベントや事業、ホームゲームの場外イベントなどを担当している。

 

「実際にやってみて、すごく幸せな仕事だと思いました。サッカー教室などに行くと、子どもたちや地域の方にびっくりするぐらい喜んでいただけるんです。今年のホームゲームのイベントで夏祭りをやって射的や型抜きなどのブースを出したんですが、家族で来てくれた知り合いが後日、娘さんが夏休みで1番楽しかったのが栃木SCの夏祭りだったと言っていたと教えてくれて。いろんなテーマパークにも連れていったけど、それよりも何よりも楽しかったと。夏祭りは手づくりだったので準備も大変だったんですが、それを聞いてすごくうれしかったです」

 

企画立案から始まる仕事はアイディアやひらめきも必要だろうが、実際に今も前職での経験を生かせていると実感している。

 

「(6月のホームゲームで実施した)『はたらくクルマ』のイベントでカンセキスタジアムの駐車場の半分を貸し切ったのですが、カンスタの広さがあるからこそできたイベントでした。消防車やパトカーなどが並んだ様子を見て、子どもたちも目を輝かせていました」

 

カンスタでの場外イベントはチケットなしで参加できる。その効果が表れたエピソードがある。

 

「『はたらくクルマ』のイベントのときは、カンスタの近くに住んでいる市役所の方がご家族で来てくれたのですが、『試合は見られないけど、このイベントには来たかった』と言って来場してくれました。最後に『すごく楽しかった』と言ってくれてうれしかったのを覚えています」

 

観戦する時間が取れなかったり、イベント自体に興味を持った人、総合運動公園に来た人が気軽に立ち寄れったりできる場所であれば、同時にスタジアムの雰囲気も感じてもらうことができる。そのイベントを開催するために関係各所から協力が得られるのは、地域貢献の思いが同じだからこそ。

 

「消防署の方や警察署、自衛隊の方などにもかなり前向きに参加していただけたので、非常にありがたかったです。地域の団体の皆さんと一緒にイベントを実施できるのも栃木SCならでは。子どもたちの将来につながる職業教育の場としても、良いきっかけを提供できたと思っています」

 

ホームゲームでは、小田さんを見掛けたサポーターの人たちから声を掛けてもらうこともある。

 

「皆さん『今日は勝ちましょう!』と言ってくれます。私のようなフロントスタッフのことまで知ってくださっているサポーターの方たちは、栃木SCをとても応援してくれています。試合でもし負けても『お疲れ様でした。次は勝ちましょうね』と言ってくださるので、とてもありがたいです」

 

入社当時から担っているホームタウン担当の業務は、赤井さんと二人三脚でこなしている。

 

「赤井さんとは同い年なのもあってやりやすいです。赤井さんの素晴らしさを一つ挙げると、小学校に行って赤井さんが歩いているだけで子どもたちが寄ってくることです(笑)。たぶん『この人は面白いことをしてくれるぞ!』というのが伝わるんだろうなと(笑)。あとは、私がサッカーに詳しくないのですごく助けてもらっています」

 

小田さんは前職でも人に喜んでもらえることを考え、実行してきた。今にも通じるその仕事の魅力とは。

 

「いろんな人が関わって一つのものをつくる、一つのものができあがる過程が好きですね。今で言えば、『一人ではできないけど、周りの人を巻き込んでいくことでスタジアムができあがっていく』という過程が好きです。試合で勝ち負けがあって一喜一憂したり、子どもたちの笑顔を間近で見られるということも、他の仕事ではあまりないスポーツクラブならではの魅力なのかなと。夫からも『他の仕事ではお客様から〝ありがとう〟とか〝楽しかった〟とか滅多に言ってもらえないぞ』とすごく言われます(笑)」

 

同僚からオフサイドなどのルールを教えてもらいながら、徐々にサッカーを理解していった。

 

「今までスポーツを見ることもほとんどしてこなかったので、純粋に『こんなにたくさんの人たちが試合の結果一つで泣いたり笑ったりするんだ』という驚きがありました。サッカーは他のスポーツより1点の重みがあるので、ゴールが決まったときのスタジアム全体の高揚感や『応援することはこんなに楽しいんだ』ということをこの仕事に就いて初めて知りました」

 

サッカーを通して、スタジアム内外でスポーツがつくり出す一体感を身をもって知った小田さん。

 

「栃木SCは他のクラブと比べると規模は小さいと思いますが、だからこそいろんな新しいことに挑戦できるし、数少ないスタッフが一丸となって物事を進められていると思います。コロナ禍で試合ができなくなったとき、『スポーツは平和な世の中があってはじめて成り立つものなんだ』と痛感しました。そして、こういうときに1番最初にストップされてしまうエンターテインメントやスポーツ業界で何ができるかをクラブ全体で模索しました。人が生きていく上で、まずは命や生活を守ることが一番。その次には楽しいことや興奮できることが必要なんだと思います。そういうことを提供できるのがスポーツの力。すごくありがたい仕事だなと思っています」

 

最後に、クラブには将来、どのような存在になってほしいか聞いた。

 

「地域をもっと巻き込めるようなクラブに成長していきたいと思っています。県民の中でも、栃木SCを応援してくださっている方はまだ一部。皆さんが1年に何回かはスタジアムに来てくれるようになってほしいし、ホームゲームでは例えば、子どもたちがダンスを披露したとかイベントに参加して楽しかったとか、栃木のすべての子どもたちが栃木SCに関する思い出を持っているようなクラブになれたらいいなと。ゆくゆくはそれがJ1昇格、優勝という未来につながると思います」

 

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